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yasuokaの日記: ローマ字かな漢字変換 7

日記 by yasuoka
日本語入力についての追記にコメントしながら思ったのだが、後発の「ローマ字かな漢字変換」が、先発の「親指シフト」や「カナ漢字変換」をシェアの上で追い抜いたのは、実際どういうわけなのだろう。とりあえず私なりに、当時のワープロの仮名漢字変換について、整理してみることにした。
  • 1978年9月 東芝が『TOSWORD JW-10』を発表。JIS C 6233キーボードでカナを入力して漢字に変換。
  • 1980年5月 富士通が『OASYS 100』を発表。親指シフトキーボードでかなを入力して漢字に変換。
  • 1980年12月 キヤノンが『キヤノワード55』を発表。JIS C 6233キーボードでローマ字あるいはカナを入力して漢字に変換。
  • 1981年5月 日本電気が『文豪NWP-23N』を発表。JIS C 6233キーボードでカナを入力して漢字に変換。ただし、『NWP-20』シリーズで採用していた3300キーのペンタッチ式タブレットも接続可能。
  • 1981年12月 シャープが『書院WD-1000』を発表。156キーのペンタッチ式タブレットでかなを入力して漢字に変換。

これらワープロ大手5社の1982年度生産台数シェアは、富士通22%、東芝21%、日本電気16%、キヤノン10%、シャープ10%であり(日本経済新聞1983年3月25日)、合計すると「JIS C 6233キーボードでのカナ漢字変換」がトップシェア、「親指シフトキーボードでのかな漢字変換」が2番手、「ペンタッチ式タブレット」や「ローマ字かな漢字変換」はさらに下、ということになる。ところが、話はそう簡単ではない。

当時のワープロ各社は、自社のシェア拡大のために、より高機能・多機能なワープロをより安く売るという戦略を取っていた。仮名漢字変換も、より高機能・多機能となることが求められていたのである。そんな中、日本電気は1982年5月に発表した『文豪NWP-11N』においてローマ字かな漢字変換をサポート、東芝も1982年5月発表の『TOSWORD JW-7』においてローマ字かな漢字変換をサポートする。この時点で、JIS C 6233キーボードを採用している大手3社(東芝・日本電気・キヤノン)は、いずれもカナとローマ字の両方による漢字変換が可能となった。さらに、1982年12月にはシャープが『書院WD-2400』を発表、JIS C 6233キーボードからのカナ・ローマ字入力と、従来のペンタッチ式タブレットを併用した「3ウェイ入力」をサポートした。そして、富士通も1983年4月発表の『My OASYS 2』でローマ字かな漢字変換をサポートし、同時に従来のOASYSにもローマ字かな漢字変換機能を追加した。親指シフトキーボードは、「英字」キーを押すことでQWERTY配列の英字入力が可能だったが、この「英字」キーを3回連続で押してローマ字かな漢字変換に切り換える、という機能をハードウェアの変更なしに追加したのである。

このような動きを背景に、大学などの教育現場では、将来どのワープロを使うかわからない初心者に対しては、とりあえず「ローマ字かな漢字変換」を教えておこう、という考え方が現れた。当時のワープロは、やっと個人でも手が届く値段になってきていたものの、やはり各企業が業務用に設置するものだったから、どのワープロを使うハメになるか、就職してみないとわからなかった。「親指シフト」のシェアは相変わらず20%を超えていたから、「JIS C 6233キーボードでのカナ入力」を初心者に勧めるのはリスクがある。その点「QWERTY配列でのローマ字かな漢字変換」であれば、各社とも一応は対応している。また、コンピュータ・プログラミングを必要とする部署や、英文誌への論文投稿(原稿は当然、英文タイプライターで打つ)を考えるならば、とりあえずQWERTY配列を覚えておいて損はない、というのが当時の認識だった。

結局のところ、「JIS C 6233キーボードでのカナ入力」も「親指シフト」も独占的なシェアを得られなかったために、そのどちらとも両立しうる「QWERTY配列によるローマ字かな漢字変換」が推奨されるという、皮肉な結果になったのである。ただし、当時において既に「ワード・プロセッサはテン・キーで十分だ」(『日本文入力法の将来像』, 情報処理, Vol.23, No.6 (1982年6月), pp.574-586)という意見があったのは、特筆に値する。この意見が正しかったかどうかについては、今後の仮名漢字変換の主流の推移を見守る必要があるだろう。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 安岡さん あちこちでお世話になります(笑)。 記事で二つほど気づいたことです。議論の趣旨に大きな影響があるかどうかは分かりませんが、クラリフィケーションです。 (1) >「親指シフト」のシェアは相変わらず20%を超えていたから、 は、上の方に書いてある日経新聞の記事での富士通のシェアに対応するものでしょうか。あるいは別のソースでしょうか。 富士通は、最初からワープロには親指シフトだけでなくJISかなや50音配列!のキーボードを用意しています。 http://www.ykanda.jp/catalog/100nt/100n-03.jpg 親指シフト以外のキーボードがどの位売れたかは分かりませんが、少なくとも親指シフト「だけを」売っていた訳ではないようです。さらに、親指シフトがついていてもローマ字入力をサポートしていたかもしれません。だとすると、親指シフトのシェアはもっと小さかった可能性があります。 (2)ワープロ登場以前に、いろいろなコンピューターの端末でかなを入力するのにローマ字入力がサポートされていた可能性はないのでしょうか。確かに、漢字まで変換するのはワープロができてからということになるのでしょうけども、単にかなを打ち込むだけなら、ローマ字をかなに変換するだけでいいので、誰かが「こっちの方が簡単」と言って作っているような気がするのですが。 ワープロだけでなく、コンピューターにキーボードから文字を入力する作業全体からすると、親指シフトのシェアはずっと小さかった可能性があります。ただし、そうだとしても安岡さんの論旨全体に対する影響はもう一段の吟味が必要ではあります。
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    杉田伸樹(ぎっちょん) 親指シフトウォッチ http://thumb-shift.txt-nifty.com/
    • まずは「「親指シフト」のシェアは相変わらず20%を超えていたから」の方ですが。『日本マーケットシェア事典1985年版』によると、ワープロにおける富士通のシェアは、1983年が20.0%、1984年が20.4%なので、一応20%を超えています。「JIS C 6233キーボード」や「50音配列キーボード」を計算に入れていないのは、『OASYS 100』(1983年3月生産終了)にはこれら「親指シフト」以外のキーボードも接続できたのですが、1982~1984年の主力製品である『My OASYS』(1982年5月発表)・『My OASYS 2』(1983年4月発表)・『OASYS Lite』(1984年5月発表)・『My OASYS 2S』(1984年6月発表)には「親指シフトキーボード」しか接続できなかったからです。『OASYS 100G』(1982年11月発表)や『OASYS 100F』(1983年11月発表)のような高級機を計算に入れてないのは、甘いと言えば甘いんですが、そういうOASYS高級機であえて「JIS C 6233キーボード」を接続していた人たちの比率を調べるすべがない、というのが正直なところです。

      ワープロ登場以前のコンピュータで「ローマ字かな変換」が可能だったかどうかについては、私は何の証拠も持ち合わせていません。一応、『実用の輪が広がる漢字情報処理』(日経エレクトロニクス, No.201 (1978年12月11日), pp.76-113)と、その参考文献はひととおり読んだんですけど、1978年当時は「漢字入力をどうするか」にみんな目がいってたようですし。私にわかってるのは、少なくとも『漢字CP/M-86』(1982年10月発表)や『MS-DOS Ver2.01(漢字)』(1983年5月発表)では「ローマ字かな漢字変換」がサポートされていたものの、オプションだったために必ずしも各社は採用していなかった、というあたりまでです…。

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      • 早速のレスありがとうございます。

        神田さんのサイトにあるオアシスのカタログを見ていて、確かに100シリーズ以外では初期は親指シフトキーボードだけだったことが分かりました。100シリーズでのキーボードのラインアップやローマ字入力の採用などと合わせて時系列で見ると、面白い発見ができそうです。

        富士通に、あるいは親指シフトに対してきつい言い方をすれば、当初から親指シフトがダメになってもオアシスは生き延びていけるように考えていたということかもしれません。現実は、オアシス(ワープロ専用機)よりも親指シフトの方が生き延びている訳ですから皮肉です。

        ワープロ登場以前の状況についてはもう少し調査が必要ということですね。例えば銀行の通帳の名前は昔はカタカナだったような気がするのですが、こうしたものを入力するのはどのようにしていたんでしょうか。結構奥が深そうです。
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        杉田伸樹(ぎっちょん) 親指シフトウォッチ http://thumb-shift.txt-nifty.com/
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        • ローマ字入力が普及した理由(積極的な理由付けではないにしろ)としては、かな漢字変換の問題を抜きにはできないのではないかというのが私の仮説です。

          ワープロ専用機にしろパソコンのワープロソフトにしろ、文字入力の最終製品は漢字かな混じりの文章です。初期の頃は、漢字変換の機能(弱い)と比較して、入力方法(かな、親指シフト、ローマ字)の選択の良し悪しが生産性に及ぼす影響は大きかったと考えられます。ところが、漢字変換の機能は急速に進歩したため、入力方法の選択の相対的な重要性は低下していきました。

          さらに、ワープロの普及により皮肉なことに、ユーザーに文章をたくさん書く必要がない人(典型的には年賀状の印刷のためだけに使うような人)が増え、文字入力の生産性に対する関心は薄れていきました。

          こうした状況の中で、別な要因(安岡さんが挙げられたのもその一つかもしれません)である程度の地歩を得ていたローマ字入力が最大公約数的なものとして選択されていった、というのが私の考えるストーリーです。

          もし、日本語がかなだけで書かれるものだったら、違ったストーリーになったかもしれません。前のコメントに書いたように、銀行の通帳などの名前は長い間カタカナだったと記憶しています。このような状況でどのような入力方法が選択されていたかを調べることは、謎を解きあかす鍵の一つになるかもしれません。
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          杉田伸樹(ぎっちょん) 親指シフトウォッチ http://thumb-shift.txt-nifty.com/
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          • 手元にあった論文を再チェックしてみたところ、銀行の事例は見つからなかったんですが、漢字システムが導入される以前の保険業界では独自のカナ配列を有するKey Punchが用いられていた、ということを示す論文を2つほど見つけました。
            • 一作忠雄: 会計機によるカナ文字の活用, IBM Review, Vol.II, No.6 (1955年8月), pp.9-15.
            • 青木博之: IBM機械のカナ文字採用と穿孔手訓練について, IBM Review, Vol.II, No.6 (1955年8月), pp.23-28.
            上が第一生命の事例、下が安田火災海上保険の事例です。ただ、これ、どちらもそれぞれに独自性が高すぎて、杉田さんの説を補強しうる事例になりうるかどうかは、杉田さん自身に読んでいただかないとわからない気がします。もしかしたら、全然、役に立たないかもしれないんですが…。兵庫県立大学の神戸学園都市学術情報館 [u-hyogo.ac.jp]に所蔵がありますので、もしご興味がおありなら複写請求などしてご一読ください。
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            • 安岡さん

              詳しい調査ありがとうございます。こうした文献調査などをきちんとやってというのはちょっと今の私の手には負えないので、老後の楽しみに取っておくことにします(笑)。

              ただ、こうした技術の最初の頃はいろいろな方式が提案されるのがだんだんと少ない数のものに統一されていく、という道筋がどれにもあるようだということはおぼろげながら言えそうな気がします。

              ワープロのキーボードについてもそのような一般的原則のルートを経てきたのかもしれません。

              ところで、パソコンの文字入力に関しては最近いろいろな提案(ほとんどが個人によるもの)がされています。詳しくは、例えば私のブログのリンク先を見ていただくと分かると思います。これは、キーボードの配列を変えるだけだったら簡単にできるようなツールが最近になって整備されてきたことに関係があると思われます。

              ローマ字入力に大勢が決しつつある中でも、新しい多様化の芽が出つつあるのかもしれません。この芽が育っていくかどうかはこれから見ていく必要があると考えています。
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              杉田伸樹(ぎっちょん) 親指シフトウォッチ http://thumb-shift.txt-nifty.com/
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  • OASYSでのローマ字入力がいつからサポートされたかについては元の記事に書いてありましたね。失礼しました。
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    杉田伸樹(ぎっちょん) 親指シフトウォッチ http://thumb-shift.txt-nifty.com/
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