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yasuokaの日記: 国語審議会の圧力と人名用漢字

日記 by yasuoka
人名用漢字の新字旧字のネタを拾うべく、法律系雑誌のバックナンバーをあさっていたら、『ジュリスト』の1956年1月15日号に、以下の対談を見つけた(p.56)。

平賀 これは戸籍吏員の立場から見ましても、最初は人名用漢字という例外はなく当用漢字だけだったのですから、当事者にはちょっと気の毒だというので、各地の戸籍協議会なんかでは、少くとも人名用の漢字だけはもう少し制限を拡げてくれという要望もずいぶんあったのです。その結果、昭和二十六年に人名用漢字というものができました。このことから見てもわかりますように、出生届に書く子供の名前の文字の取扱いは非常に厳格なんです。ところが、戸籍法施行規則の制定のときの実情では、法務省としては、戸籍の方だけ先走って、そんなに厳格にしなくともいいのじゃないかということであったらしいのですが、文部省あるいは国語審議会では非常に強硬だった関係で、それなら仕方があるまいというので施行規則の六〇条の規定ができたといういきさつだというように聞いています。青木さんが、この点は非常に詳しいのですが、今になってみると一番厳格に漢字制限を守っているのは、どうも出生届だけのようですね。
青木 いまの話がでたのですが、施行規則の規定は、国語審議会や文部省の強硬意見を呑まされた結果です。人名だけについて当用漢字以外に、若干の文字を加えることも当用漢字制定の趣旨に反すると強い反対にあったのです。この問題については、私としては甚だ遺憾に思っていることがあります。それは、この問題が提起された当時、吾々としては人名の漢字制限の必要はともかくとして、これと同時に吾々が読み難くて困っているものは市町村名、字名等地名に使われている文字であるのだから制限の措置をとるなら両者について手当すべきで、人名だけについて強行するのは片手落だと主張したものです。国語審議会や文部省の方では、この点尤もで将来その措置をとる方向に努めることとし、何分地名の文字の変更は容易でないので、当座手のつけられやすい人名の、しかも将来つける名前に限って実施して貰いたいということで、やむなく人名用の漢字制限の措置がとられました。然るに、その後地名の文字制限の方は放置されたままで、お蔭で人名の漢字制限の方だけ先走りし放しになっているということになりました。当用漢字制定の趣旨を徹底するのであれば、このままでよい筈はないと思います。

平賀」は法務省民事局参事官の平賀健太、「青木」は法務省訴訟局次長の青木義人である。ちなみに青木義人は、自身の論考『戦後法制変遷の回顧―戸籍制度』(ジュリスト, 第100号 (1956年2月15日), pp.67-69)においても「国語審議会の強い要望」を挙げており、人名用漢字に関する国語審議会の圧力は、少なくとも青木にとっては真実のようである。が、この話、ちょっとナマナマし過ぎて、人名用漢字の新字旧字には使いにくそうだ。さて、どうしたものか。

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