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yasuokaの日記: ピアノの鍵盤と初期のタイプ・ライター 4

日記 by yasuoka
ボタン・アコーディオンとタイプ・ライターの読者から、Tom Kelly & Jonathan Littmanの『イノベーションの達人!』(早川書房, 2006年6月)に、以下の文章があるのを教えていただいた。

ある状況やある業界に賢明なソリューションがあるのを発見して、別の状況や業界に置き換えてみると、それがしばしば画期的なイノベーションとなることもある。たとえば音楽の世界からピアノの鍵盤のアイデアを拝借してビジネスの世界に移し替え、初期の手動タイプライターを生みだしたのも花粉の運び手の誇るべき功績である。この初期のタイプライターが徐々に進化して、今日誰もが使っている電子キーボードに発展したわけだ。(p.78)

ここでいう「花粉の運び手」が誰のことを指しているのかハッキリしないのだが、もしそれがChristopher Latham Sholesのことなら、「音楽の世界からピアノの鍵盤のアイデアを拝借して」というのは、根拠薄弱と言わざるをえない。

1867年10月出願のU. S. Patent No.79868は、「similar to the keys of a piano or melodeon」と書かれているものの、Fig.1をどう見てもピアノやオルガンの鍵盤には見えない(Karl H. E. Kroemer『Keyboards and Keying, An Annotated Bibliography of the Literature from 1878 to 1999』(Universal Access in the Information Society, Vol.1, No.2 (October 2001), pp.99-160)参照)。1868年5月出願のU. S. Patent No.79265は、確かにピアノに似たキーボードだが、実は当時の印刷電信機をまねたものであり、ピアノの鍵盤のアイデアを直接拝借したわけではない(『キーボード配列 QWERTYの謎』のpp.11-14参照)。1872年3月出願のU. S. Patent No.182511は、すでにボタン式キーボードとなっていて、ピアノの鍵盤にはほど遠い。

というか、ピアノの鍵盤のアイデアは、「黒鍵が、白鍵と白鍵のちょうどあいだではなく、微妙に外側にズレている」という点にあるのだが、そんなアイデア、どうやってタイプ・ライターに拝借するのだろう? そもそもKellyとLittmanは、どういうキーボードを想定して、この文章を書いたのだろう?

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ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家

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