yasuokaの日記: 『pronto pronto?』Vol.15のガセネタ 7
日記 by
yasuoka
『pronto pronto?』Vol.15 (2008年11月)を読んでいたところ、「トリビア名誉教授 唐沢俊一のビジネス課外授業。」(p.17)に、Abraham Lincolnに関するガセネタが載っていた。
第16代アメリカ合衆国大統領リンカーンは、何より直感を大事にした。その直感の根拠は人の顔だった。あるとき、閣僚候補にあがった人物と面会したリンカーンは、彼を候補から下ろした。その理由を尋ねられると「顔が気に入らない」と答えた。周囲が驚いて『顔が悪いのは本人の責任ではないでしょう』と言うと、リンカーンは有名なセリフ「男は40歳になったら自分の顔に責任を持たねばならない」と答えた。
違う。その逸話はLincolnじゃなくて、Edwin McMasters Stantonの話だ。しかも、『Recollections of President Lincoln and His Administration』(Harper, 1891)に拠るかぎり、Stantonが言ったのは
A man of fifty is responsible for his face!
つまり「40歳」じゃなくて「50歳」だ。いくらStantonが当時、Lincoln内閣のSecretary of War(陸軍長官)を務めていたからといって、Stantonが言ったことをLincolnのセリフにするのは変だし、その上、年齢まで違っていてはワケがわからない。
The Union Typewriter Companyの設立でもそうだったが、19世紀のアメリカに関する唐沢俊一の知識は、あまりにレベルが低い。当時の文献に全く目を通してないんじゃないか、と思えるほどだ。もしそうでないのなら、↑のLincolnのセリフとやらを掲載した19世紀の文献を、ぜひ『pronto pronto?』で示してほしい。
「40を過ぎた男は自分の顔に責任を持つべきだ」はリンカーンの有名な quote (スコア:1)
つーかこれで引けば腐るほど出てくる。
http://www.google.co.jp/search?q=Abraham+Lincolin+responsible+for+his+... [google.co.jp]
fjの教祖様
Re:「40を過ぎた男は自分の顔に責任を持つべきだ」はリンカーンの有名な quote (スコア:1, 興味深い)
「19世紀の文献」には到底見えませんが。
腐るほど出てきているのも同様です。安岡さんは、これもタイプライターと同じ、孫引きによる誤解の拡大再生産と言いたいのでしょう。
web上で言えば、例えば、#copyright;1891となっている、"Recollections of President Lincoln and his administration" [archive.org]という文献があります。
これには、前述のStantonの言葉は出てきますが、Lincolnの言葉は出てきません。
もし、Lincolnが前述の言葉を言ったのであれば、Lincolnが亡くなってから30年程度で書かれたLincolnについての本で、Lincolnの発言としては書かれてはいないこと、Stantonのエピソードが出てくることは、かなり以上だと思います。
okkyさんは、この文献を読んでどう思われますか?
「自分の顔に責任を持つべきだ」はリンカーンかスタントンか (スコア:1)
Re:「40を過ぎた男は自分の顔に責任を持つべきだ」はリンカーンの有名な quote (スコア:1)
この場合、スタントンの話なのかリンカーンの話なのかをきれいに切り分けるのはかなり困難です。この本を書いた人がエピソードの性質とバランスを考えてスタントンに摩り替えたとしても不思議ではない。異論・反論を出せるようなマスメディア自体、ぜんぜん信頼が置けない時代ですから。もっと言えば、スタントンもリンカーンも同じ考えだったとしても不思議はない。互いに影響しあっているでしょうから。
ただ、リンカーンは直感と直情の人、スタントンは慎重で思慮の人、と言うのが彼らの若いころのエピソードの傾向です。そのことから考えて、「相手のツラを見て判断する」のをスタントンが実施したとは考えにくい。私はリンカーンの方がオリジナルだと思います。
印刷されているから信頼できる、と言うのは間違った前提です。ま、広がっているから信頼できる、と言うのも同様に間違った前提ですが。
fjの教祖様
Re:「自分の顔に責任を持つべきだ」はリンカーンかスタントンか (スコア:1)
Re: (スコア:0)
Re:「自分の顔に責任を持つべきだ」はリンカーンかスタントンか (スコア:1)
私(安岡孝一)個人が何を根拠にしているのか、知りたいのですか?
うーん、私にとっては、単一の根拠でこの結論に至ったわけじゃないので、結構、話がややこしいのですけど…。とりあえず、話を理解していただくために、手にいれやすいところで、『Recollections of President Lincoln and His Administration』(Harper, 1891)のpp.183-184と、『History of the United States from the Compromise of 1850, Vol.5 1864-1866』(Macmillan, 1904)のp.183と、『Experts in City Government』(D. Appleton, 1919)のpp.312-314と、『Knowing the Man』(Auto-Science Institute, 1926)のp.10と、『Words to Live by』(Simon and Schuster, 1948)のpp.32-33を、できれば、この順序(つまりは年代順)で読んでいただけないでしょうか? 細かい話は、それからにしましょう。