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yasuokaの日記: 『Power On English Reading』Lesson 5全訳

日記 by yasuoka

現行の高校英語教科書『Power On English Reading』(東京書籍, 2009年2月)のLesson 5「The Typewriter―A Lesson in Design」(pp.72 - 76)を何度か読み返してみたが、気持ちの悪いところがいくつもある。試しに全体を訳してみたのだが、やはり私(安岡孝一)の気のせいではないようだ。以下に、私なりの全訳を示すとともに、気持ちの悪いところに下線を引いて、別ページにリンクしておくことにする。

§1
タイプライターの歴史は、多くの国における発明家の物語です。それぞれの発明家は、高速に書くための機械を、十分安い費用で生産でき、かつ使いやすい機械として、開発しようとしました。
タイプライターのキーボードを見てみましょう。現在の標準的なキーボードは、1870年代にクリストファー・レイサム・ショールズがデザインしたものです。このデザインはqwertyキーボードと呼ばれていますが、その理由は、アメリカ版のキーボードでの英字の最上列が、q、w、e、r、t、yで始まっているからです。ショールズのタイプライターは、世界初ではありませんが、初期のものの中では最も成功したタイプライターです。しかし、なぜ、ショールズのタイプライターは、こんな奇妙なキーボードなのでしょう。

§2
キーボードのデザインには、長くて面白い歴史が秘められています。キーボードのデザインは、少しずつ進化してきました。発明家たちは、初期のタイプライターにおいて、大きく分けて3つのレイアウトを試してきました。レイアウトの1つは、文字を円形に並べたもので、文字の並びはABC順でした。もう1つは、ピアノの鍵盤に似せたもので、文字をABC順の長い列に並べたものでした。実際、初期のキーボードでは、ショールズの初期バージョンも含めて、黒鍵と白鍵を並べたものがありました。円形のレイアウトと、ピアノ型のレイアウトは、どちらか片方が使いにくいものでした。結局、3番目の型のレイアウトを、全ての発明家たちが採用しました。それは、長方形にキーを並べたもので、やはりABC順でした。しかし、長方形のレイアウトには、まだ問題がありました。キーに接続されたレバーは、大きくて不格好なものでした。そのうえ、キーの大きさも間隔も並び方も、人間の手に合わせてデザインされてはいなかったのです。

§3
現代のキーボードは、ABC順ではありません。なぜ、キーの順序が変わったのでしょうか。それは、機械的な問題に打ち勝つためです。もしタイピストがあまりに速くタイプしすぎたなら、活字棒が互いにぶつかってしまい、タイプライターがジャミングを起こしてしまいます。その解決法は、キーの配置を変えることでした。たとえばiとeのような、しばしば連続して打たれる2文字を、機械の反対側に置いたのです。この方法で、それら2文字の活字棒は互いにぶつからなくなりました。
近代における電子的なキーボードは、伝統的な活字棒を有しませんから、ジャミングは問題になりません。ならば、なぜ、ABC順ではないキー配列がいまだに使われているのでしょうか。ABC順のキー配列の方が、習得しやすくはないのでしょうか。そうでもないのです。文字を複数の列に並べなければならない、という点を思い出して下さい。アルファベットを知るだけでは不十分です。各々の列が、どの文字で始まってどの文字で終わっているか、あなたは知らなければならないのです。それを覚えて、やっと、特定の文字を見つけるためにキーボードを順に見ていくのが、簡単になるだけです。しかも、文字を順に見ていくくらいなら、目につきやすい場所にある文字を見つける方が、はるかに簡単でしょう。qwertyキーボードは、そういう風に並んでいます。もし、あなたがキーボードのレイアウトを全く知らないのなら、qwertyキーボードだろうと、ABC順キーボードだろうと、あるいは全くバラバラの順序に並んだキー配列だろうと、キーを打つスピードはほとんど変わりません。もし、あなたがqwertyキーボードのことをほんのちょっとでも知っているなら、他のキーボードよりは使いやすいはずです。熟練したタイピストにとっては、ABC順のキー配列は、qwertyより常に遅いのです。

§4
産業工学の始祖の一人であるオーガスト・ドボラックは、より良いキーボードを開発しました。ドボラックのキーボードは覚えやすく、10パーセントも速くタイプすることを可能にします。しかし、ショールズのキーボードは、いまだに使われ続けています。もし、ドボラックのキーボードが導入されていたなら、それこそ何百万人もの人々が新しいタイピング法を習うはめになっていました。何百万台ものタイプライターを改造する必要がありました。たとえ、変化が改善を意味するものであったとしても、既存の習慣は、変化を妨げるものなのです。
qwertyキーボードは、デザインにおける重要な教訓を示しています。満足のいく製品がいったん創られたならば、特にその製品が成功したならば、さらなる変更は逆効果なのです。qwertyキーボードが現在も定着しているように。

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身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

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