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中国

yasuokaの日記: 生癖字 vs 生僻字

日記 by yasuoka

ネットサーフィンしていたところ、『進学、就職、結婚で毎回トラブル! 中国版キラキラネーム「怪名」に苦しむ人々』(サイゾー、2015年12月14日)というアヤシイ記事に出くわした。

漢字の国・中国では今、パソコンやスマホで打てない難しい漢字を「生癖字」「冷癖字」と呼び、そんな字を使った名前を「怪名」と呼んでいる。

いや、それ、「生癖字」じゃなくて「生僻字」。「冷僻字」もそう。あと「怪名」ってのは、何も珍しい漢字を使った名前に限らなくて、「変わった名前」とか「アヤシイ名前」のことなんだけど、この記者さん何か勘違いしてない?

怪名を付けられた人は、日常生活ですさまじく不便な待遇を受けることになる。「信息時報」(12月1日付)が報じた。

12月1日とすると、『名带生僻字 一堆麻烦事』(信息时报、2015年12月1日)が元記事だと思うのだけど、この元記事には「怪名」なんて話は出てこない。一体どうなってるのかしら?

広州市に暮らす24歳の女性は、自分の名前が特殊なために、普段の生活や学校でたびたび苦労してきた。彼女の名前の中には「王」の隣に「楽」と書いて「リー」と読む字が用いられている。現在、中国で使用されている簡体字ではない生癖字だ。

だから「生癖字」じゃなくて「生僻字」だってば。しかもU+2C35B「𬍛」(王へんに乐)は、「通用規範漢字表」の三級字(通番6761)で、2014年9月にISO/IEC 10646に追加されたから、もうGB 18030では使えるようになってるはずだし、「現在、中国で使用されている簡体字ではない」ってのは嘘だ。

生癖字は日常生活で見る機会が少なく、現存する漢字の中から時代とともに徐々に忘れ去られたものだという。公安庁居民身分証科によれば、以前は市民がさまざまな文献や異なる字典から名前を付けていたことが原因だという。

いや、繁體字のU+74C5「瓅」は普通の字だし、その意味で中国の生僻字問題の多くは、簡化字のフォローが遅れてるのが原因。「時代とともに徐々に忘れ去られた」という話じゃないと思う。

しかし、コンピューターの普及に伴い、1993年にWindowsの文字コードであるGBKによって統一化が図られた。ここにない漢字については、表示されないのだ。また、漢字を新たに登録すると、コードを一から作り替える必要があり、膨大なコスト発生が予想される。そのため、生癖字が端末上で打てる環境になることは今後もなさそうだ。

さて、どこからツッコんだらいいのやら。まず、GBKの発表は1995年12月。現在の中国の漢字コードは、GBKをさらに拡張したGB 18030であり、基本的にはISO/IEC 10646と連動している。したがって、「漢字を新たに登録すると、コードを一から作り替える必要があり」なんてのは大嘘で、拡張された領域に粛々と追加がおこなわれてるってのが、私(安岡孝一)が知る限りの現状だったりする。

中国では2013年、国務院が漢字を「通用規範漢字表」に基づく8,105字に限定し、それ以外の漢字の使用は認めないこととなった。戸籍の登録もこれに準ずるため、同年以降は生癖字を用いた名前が用いられることはなくなった。

「戸籍の登録もこれに準ずる」ってのは、まあ元記事にもそう書いてあるけど、いわゆる少数民族政策と矛盾してるために正直うまくいってない。あくまで「準ずる」であって「強制」じゃなかったりする。しかも「通用規範漢字表」8105字のうち、U+9FCD「鿍」U+9FCE「鿎」U+9FCF「鿏」の3字がISO/IEC 10646に追加されたのは2016年5月なので、この記事が書かれた時点では、8105字中3字が(まだ)使えなくて困ってたはずなのだけど?

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