yasuokaの日記: 『番号法第19条第7号の規定により地方税関係情報を照会する場合に本人の同意が必要となる事務を定める告示』に対する質問状 1
かなり以前のことだが、『行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第十九条第七号の規定により地方税関係情報を照会する場合に本人の同意が必要となる事務を定める告示』(平成29年5月29日内閣府・総務省告示第1号)に対して、内閣官房番号制度推進室に質問状を送った。そうしたところ、今日になってやっと回答が返ってきたのだが、これがかなりヒドイものだった。そこで、再質問を送ると同時に、最初の質問も含めて、私(安岡孝一)の日記に記録しておこうと思う。
京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センターの安岡孝一です。
先刻頂きました標記お問合せにつきまして、誠に恐れ入りますが、安岡様の御質問をメールにて頂戴できますでしょうか。
はい。私のこれまでの理解では、特定個人情報(マイナンバーを含む個人情報)は、個人情報保護法の第23条を適用除外とすることで、「本人同意の有無や法令に基づく場合かどうかは関係なく、番号法第19条各号に掲げる場合のみ提供できる」ものだと理解しておりました。このあたりは、マイナンバー制度の制定に関わった水町雅子さんとも議論した点ですし、現在も https://www.ppc.go.jp/files/pdf/difference_kojin_tokutei.pdf の「6.第三者提供の制限」にも明確に書かれています。ですので、本人同意の有無とは関係ない、という理解で、ここ2年ほど、講義を続けてまいりました。
ところが、この5月29日の内閣府・総務省告示第1号 http://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/kokuji_29-1.pdf では、「当該提供について本人の同意を得なければならない」と、これまでの私の理解を、完全に覆す告示がおこなわれました。しかも「当該情報照会者が、当該情報提供者に代わって当該情報に係る本人の同意を得るものとする」とされていて、「本人同意の有無と関係なく」「番号法第19条各号に掲げる場合のみ提供できる」はずの特定個人情報が、「本人の同意を得るものとする」という矛盾した告示になってしまっています。この部分の矛盾を、学生にどう説明すればいいのか、が私の質問の中心です。
・「本人同意の有無とは関係ない」とする番号法第19条の基本方針は、今後は撤回されるのか。撤回されるとすれば、具体的な法改正はいつ頃か。
・「本人の同意を得なければならない」とする根拠法は何か。それは個人情報保護法なのか地方税法なのか、あるいは別の法律なのか。その根拠法の根拠条文は、当該告示のどこに引かれているのか。の2つのあたりを、学生にどうちゃんと説明していけばいいのか、というのが、私の具体的な質問、ということになると思います。ただこれは、あるいは個人情報保護委員会の https://www.ppc.go.jp/files/pdf/difference_kojin_tokutei.pdf の方が間違っているのだ、という可能性もありますので、すみませんが、個人情報保護委員会ともキッチリすり合わせた上で(というか、私もともと、個人情報保護委員会にお電話したはずですよね?)、回答いただけますと幸いです。
なお、後期の講義は10月に始まりますので、まだ、しばらく時間があります。よろしく細部まで御検討の上、回答いただくよう、お願い申し上げます。
これに対し、本日、内閣官房番号制度推進室から返ってきた【内閣官房・回答】は、以下のとおり。
標記の件、御質問頂いた2点につきまして、下記回答いたします。回答が遅くなり誠に恐れ入りますが、宜しくご確認くださいますようお願いします。なお、本回答については、個人情報保護委員会及び総務省自治税務局市町村税課と調整済みですので、念のため申し添えます。
① 「本人同意の有無とは関係ない」とする番号法第19条の基本方針は、今後は撤回されるのか。撤回されるとすれば、具体的な法改正はいつ頃か。
→お示しの資料における「特定個人情報は、本人の同意の有無や法令に基づく場合等かどうかは関係なく、番号法第19条各号に掲げる場合のみ提供できる」との記載は、個人情報保護法制の特別法たる番号法における特定個人情報の提供に係る一般的な考え方を示しているものであり、これを撤回するものではありません。
② 「本人の同意を得なければならない」とする根拠法は何か。それは個人情報保護法なのか地方税法なのか、あるいは別の法律なのか。その根拠法の根拠条文は、当該告示のどこに引かれているのか。
→個人情報保護法制や番号法とは別途、地方税法上、地方税の調査又は徴収の事務に従事している者等には守秘義務が課されており、地方税法総則逐条解説において、情報提供ネットワークシステムを介した照会については、①利用事務の根拠法律において、本人が行政機関に対して報告を行う義務が規定されている場合、又は②利用事務が申請に基づく事務であり本人の同意により秘密性が解除される場合においては、地方税法上の守秘義務違反には当たらないと解されています。
このため、地方税法上の守秘義務を解除した上で情報提供するためには、①又は②を満たす必要があり、番号法第19条第7号により、当該情報を照会するに当たって、本人の同意が必要な事務及び情報を明らかにする必要があるため本告示を定めました。なお、告示上に地方税法の条文は直接引いていません。○地方税法(昭和25年法律第226号)
(秘密漏えいに関する罪)
第二十二条 地方税に関する調査(不服申立てに係る事件の審理のための調査及び地方税の犯則事件の調査を含む。)若しくは租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律 (昭和四十四年法律第四十六号)の規定に基づいて行う情報の提供のための調査に関する事務又は地方税の徴収に関する事務に従事している者又は従事していた者は、これらの事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は窃用した場合においては、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
予想された回答ではあるものの、かなりヒドイ。そこで、まずは、以下の再質問を先ほど送っておいた。
京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センターの安岡孝一です。
標記の件、御質問頂いた2点につきまして、下記回答いたします。回答が遅くなり誠に恐れ入りますが、宜しくご確認くださいますようお願いします。
正直なところ、この回答では「矛盾」が説明できておりません。
→お示しの資料における「特定個人情報は、本人の同意の有無や法令に基づく場合等かどうかは関係なく、番号法第19条各号に掲げる場合のみ提供できる」との記載は、個人情報保護法制の特別法たる番号法における特定個人情報の提供に係る一般的な考え方を示しているものであり、これを撤回するものではありません。
に関しては、従来方針通りということですから納得の行くものですが
→個人情報保護法制や番号法とは別途、地方税法上、地方税の調査又は徴収の事務に従事している者等には守秘義務が課されており、地方税法総則逐条解説において、情報提供ネットワークシステムを介した照会については、①利用事務の根拠法律において、本人が行政機関に対して報告を行う義務が規定されている場合、又は②利用事務が申請に基づく事務であり本人の同意により秘密性が解除される場合においては、地方税法上の守秘義務違反には当たらないと解されています。
このため、地方税法上の守秘義務を解除した上で情報提供するためには、①又は②を満たす必要があり、番号法第19条第7号により、当該情報を照会するに当たって、本人の同意が必要な事務及び情報を明らかにする必要があるため本告示を定めました。なお、告示上に地方税法の条文は直接引いていません。その回答では、私のもともとの「この部分の矛盾を、学生にどう説明すればいいのか、が私の質問の中心です。」を解消することができません。その矛盾をバラバラに回答するのではなく、矛盾を解消するような回答がほしいのです。『地方税法総則逐条解説』を元に告示しました、根拠法も引いてないし、番号法との矛盾も知りません、という回答では、学生に説明しようがありません。
しかも、この回答に引用されている内容は、『地方税法総則逐条解説』(地方財務協会、平成25年12月24日)の文章を、勝手に改変しています。『地方税法総則逐条解説』第二十二条の元々の文章(p.698)は
情報提供ネットワークシステムを経由してなされる情報照会者たる行政機関等からの照会に対しては、情報提供者たる行政機関等は回答しなければならない旨の規定がある。これに基づいて市町村の税務部局に対して所得情報の提供が求められた場合については、情報提供ネットワークシステムによる情報照会・提供は①利用事務の根拠法律において、本人が行政機関に対して報告を行う義務が規定されている場合、及び、②利用事務が申請に基づく事務であり本人の同意により秘密性が解除される場合、に限定されていることから、当該情報は両者の関係において秘密ではないと解されるため、番号法第二二条第一項に基づく情報提供の求めに対して市町村が所得情報を提供したとしても、本条に規定する犯罪は成立しないものと解される。
です。「①又は②を許容」と「①及び②を限定列挙」では、意味が全く異なってしまうという点は、以前、私の日記 https://srad.jp/~yasuoka/journal/591502/ にも書いたとおりです。このような「元の意図を捻じ曲げる引用もどき」では、回答そのものに納得することができませんし、番号法との矛盾も、解消できようがありません。
後期の講義は10月に始まりますので、もう少しだけ、時間があります。よろしく細部まで御検討の上、矛盾なく回答いただくよう、お願い申し上げます。
とは言うものの、これまでのイキサツ(これとかこれとかこれとかこれとかこれ)を考えると、9月末までに「矛盾なく回答」が返ってくる可能性は極めて低い。さて、どうしたものか。
後期講義開始 (スコア:2)
京都大学でも、本日(10月2日)から後期の講義が開始されました。残念ながら、まだ内閣官房番号制度推進室からは、返事が返ってきていません。返事を待っている間に検討した内容を、ここ [srad.jp]、ここ [srad.jp]、ここ [srad.jp]に書いておいたので、興味のある読者の方はどうぞ。