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政府

yasuokaの日記: 地方税法における守秘義務の解除に関する内閣法制局意見

日記 by yasuoka

私(安岡孝一)の一昨昨日一昨日の日記に対し、地方税法における守秘義務(第22条)の解除に関して内閣法制局意見があったはず、との御教示をいただいた。調べてみたところ、昭和38年3月15日内閣法制局一発第6号回答、というのを『内閣法制局意見年報』第10巻(1965年10月)pp.17-26で見つけた。

〔要旨〕

入居者の所得等は公営住宅法第二三条の二により、公営住宅の事業主体の長に知得されるべきものとされているから、公営住宅の事業主体の長の求めに応じて、市町村長が市町村民税の課税台帳を閲覧させても、秘密漏えいに関する罪は成立しないが、弁護士法には類似の規定が存在しないから、弁護士法第二三条の二第二項による弁護士会の求めに応じて、市町村長が報告をしたときは、秘密漏えいに関する罪が成立する。

〔意見〕

昭和三八年三月一五日 〔内閣法制局一発第六号〕  内閣法制局第一部長 山内一夫
自治省税務局長 柴田護 殿

地方税法第二二条と公営住宅法第二三条の二の関係等について

昭和三七年一〇月二八日付け自治丙市発第二二号をもつて照会があつた標記の件に関し、次のとおり当局の意見を回答する。

一 問題
(一) 公営住宅の事業主体の長が、公営住宅法第二三条の二の規定により、市町村長に対して、市町村民税の課税台帳を閲覧させることを求めた場合において、当該市町村長がその求めに応じて閲覧させたときは、地方税法第二二条に規定する犯罪が成立するものと解すべきであるか。
(二) 弁護士会が、弁護士法第二三の二の規定により、市町村長に対して、地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当する事項について報告を求めた場合において、当該市町村長がその求めに応じて報告したときは、地方税法第二二条に規定する犯罪が成立するものと解すべきであるか。

二 意見及び理由
(一) 私人は、直接地方税法の規定により又は地方税法に基づく公権力の行使により、その意に反して、一定の秘密を地方税に関する調査に関する事務に従事している者に知られることを受忍する義務を負うが、それは、いうまでもなく地方税の賦課徴収のために必要であるからである。地方税に関する調査に関する事務に従事している者自身が私人の秘密を知ることは、地方税の賦課徴収に必要であり、やむを得ないところであるから、地方税法の予想するところと解すべきは当然であるが、地方税に関する調査に関する事務に従事している者がその事務に関して知り得た私人の秘密をその意に反して第三者に知らせることは、地方税の賦課徴収に必要な限度をこえるものであつて、それは、地方税法の予想しない人権に対する新たな侵害であると解すべきである。地方税法第二二条は、「地方税に関する調査に関する事務に従事している者又は従事していた者は、その事務に関して知り得た秘密をもらし、又は窃用した場合においては、二年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。」と規定しているが、その趣旨が、このような地方税法の予想しない人権に対する新たな侵害が現実に発生するのを防止するためのものであることは、いうまでもないから、地方税法に関する調査に関する事務に従事している者が「その事務に関して知り得た秘密」を第三者に知らせる行為が適法であり、同条に規定する犯罪とならないものと解しうるためには、そのような行為を適法なものとして許容したと認めるに足りる法律の規定があることを要すると解すべきは、当然である。
市町村民税の課税台帳の記載内容が地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当するかどうかは、当該部分についての具体的判断の問題であるが、収入の状況及びその源泉等については該当する場合も十分にありうるものと考えられる。右の秘密に該当する場合においては、右に述べたところからして、お尋ねの問題の要点は、市町村長が公営住宅の事業主体の長にこれを閲覧させることを公営住宅法第二三条の二の規定が許容する趣旨を有するかどうかに係ることになるわけであるが、結論からさきにいえば、同条は、そのような趣旨を有するものと解すべきである。
その理由は、次のとおりである。
公営住宅法第二三条の二が「事業主体の長は、第一二条第二項の規定による家賃の減免、第一三条の二の規定による家賃若しくは敷金の徴収の猶予又は第二一条の二の規定によるあつせん、割増賃料の徴収等の措置に関し必要があると認めるときは、公営住宅の入居者の収入の状況について、当該入居者……に報告を求め……ることができる。」と規定しているが、このような規定が設けられたのは、事業主体の長が、公営住宅の入居者の収入を的確に把握しなければ、右に規定する措置を適正に行なうことができないからにほかならないことは、いうまでもないところである。同条は、その文言上は、事業主体の長の権限を規定しているにとどまるが、その実質においては、入居者に対して、事業主体の長の権限に対応する義務、換言すれば、事業主体の長の求めに応じて報告をなすべき義務を課したものであると解するのが相当である。同条の趣旨をこのように見てくれば、結局のところ、同条に規定する措置に関し必要と認められる限りにおいては、入居者の収入の状況は、事業主体の長に対する関係においては秘密であつてはならず、むしろ事業主体の長に知得させなければならないものであることは、明らかであろう。同条は、他方、「事業主体の長は、第一二条第二項の規定による家賃の減免、第一三条の二の規定による家賃若しくは敷金の徴収の猶予又は第二一条の二の規定によるあつせん、割増賃料の徴収等の措置に関し必要があると認めるときは、公営住宅の入居者の収入の状況について……官公署に必要な書類を閲覧させ、若しくはその内容を記録させることを求めることができる。」と規定している。この規定は、前述の入居者に係る規定と同様、その文言上は事業主体の長の権限を規定しているにとどまるが、その実質においては、官公署に対して、別途特段の公益上の理由がない限り、事業主体の長の行なう公営住宅の入居者の収入の状況の調査に協力すべき義務を課したものと解すべきであろう。これは、当該入居者又はその関係人が所要の報告をせず、若しくは報告をしないことが予見される場合、及びその報告の内容の真実性を確認する必要がある場合のあることに備えての規定であることはいうまでもないから、この規定に基づく求めがあつた場合においては、当該官公署は、前述のように、これを拒否すべき特段の理由があれば格別、そうでない限り、その求めに応じて閲覧又は記録をさせるべきことは、これまた当然のことであつて、このことによつて、事業主体の長が当該入居者の収入の状況を知得したとしても、事業主体の長は、本来知得すべき事項を知得しただけのことであつて、なんら不合理はないのである。したがつて、公営住宅法第二三条の二は、市町村民税の課税台帳の記載内容であつて地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当するものを市町村長が公営住宅の事業主体の長に閲覧させることを許容する趣旨を有するものといわなければならない。
以上の理由によつて、お尋ねの場合においては、市町村民税の課税台帳の当該部分が地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当する場合においても、同条に規定する犯罪は成立しないものと解する。
(二) 「地方税に関する調査に関する事務に従事している者」が「その事務に関して知り得た秘密」を第三者に知らせる行為を適法なものとして許容したと認めるに足りる法律の規定がある場合においては、前述のとおり、当該行為は適法であり、地方税法第二二条に規定する犯罪とならないものと解すべきであるから、お尋ねの問題の要点は、弁護士法第二三条の二が、弁護士会が市町村長に対して、地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当する事項の報告を求めた場合において、市町村長がその求めに応じて、当該事項を報告することを適法なものとして許容していると認めるに足る規定であるかどうかに係るわけである。
ところで、弁護士法第二三条の二は、第一項において「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。」と規定し、第二項において、「弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」と規定しており、市町村長が弁護士法第二三条の二にいう「公務所」に該当することはもちろんであるから、ただ文言だけに着目する限り、同条が右の行為を適法なものとして許容しているかのようにも思われるが、実質をよく見ると、そう考えるのは、速断に失するといわざるを得ない。
弁護士法第二三条の二第二項の規定により、弁護士会が公務所に対し必要な事項の報告を求めることができるとされているのは、同条の明文から直ちにうかがいうるように、その事項が弁護士の「受任している事件」について必要とされるからにほかならないが、弁護士は、弁護士法第三条第一項の規定により明らかなとおり、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて事件を受任するのであるから、右にいう「必要な事項」は、結局のところ、事件の依頼者又は委嘱者の利益のために必要とされるものといわなければならないのであり、したがつて、お示しの場合において、市町村長が地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当する事項を弁護士会に報告するものとすれば、事件の依頼者又は委嘱者の利益のために、当該私人の秘密を犠牲にすることとなるわけである。もとより、事件の委嘱者は、官公署であり、また、事件の依頼者が公共の利益をはかることを目的とする法人であることもあり、事件の依頼者又は委嘱者の利益がすべてそのために当該私人の秘密を犠牲にすることが絶対に正当視されえないものであるともいいえないであろう。しかしながら、弁護士の受任している事件の依頼者には、いかなる者もなりうることを考えるとき、弁護士の受任している事件の依頼者の利益のうちには、そのために、地方税法第二二条にいう「秘密」を犠牲にすることは、とうてい正当視され得ないものがきわめて数多く存在することは、何人も否定しえないであろう。してみれば、弁護士法第二三条の二の規定が、地方税法第二二条にいう「その事務に関して知り得た秘密」に該当する事項について、弁護士会の求めに応じて報告することを許容しているものと認めることは、困難であり、したがつて、お示しの場合においては、他に違法性阻却事由がある等、特段の事由が認められる時は格別、そうでないときには、地方税法第二二条に規定する犯罪が成立するものと解するのを相当とする。

〔照会文〕

昭和三七年一〇月二八日 〔自治丙市発第二二号〕  自治省税務局長
内閣法制局第一部長 殿

地方税法第二二条と公営住宅法第二三条の二の関係等について

次のことについて、疑義があるので、貴職の御見解をお伺いする。
一 公営住宅法第二三条の二の規定によつて市町村民税の課税台帳の閲覧を求められ、これに応じた場合にも地方税法第二二条の規定の適用があるか。
二 弁護士法第二三条の二の規定によつて、弁護士会から市町村民税の課税台帳の記載内容等の報告を求められ、これに応じた場合も一と同様であるか。
三 一及び二について、市町村長は、税務行政上好ましくないと判断した場合には、これを拒否することができるか。

これを読む限りだと、当時の公営住宅法第23条の2(現在の第34条)によって地方税法第22条の守秘義務は解除されるが、弁護士法第23条の2では守秘義務は解除されない、ということである。だとすると、一昨昨日の【内閣官房・回答】は、番号法第22条では守秘義務は解除されない、と考えており、弁護士法第23条の2と番号法第22条を同一視しているということになる。「弁護士の受任している事件の依頼者」と「情報提供ネットワークシステムにおける情報照会者」を同一視しているわけで、かなりヒドイ話だ。

ただ、【内閣官房・回答】にあった「本人の同意により秘密性が解除される」というヨタ話は、↑の内閣法制局意見には全く出てこない。うーん、どうなってるんだろう、「本人の同意」なんて話、地方税法のどこにも載ってないし、どこから出てきたんだろう。この内閣法制局意見じゃないのかしら?

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