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日記

yasuokaの日記: 悪魔ちゃん命名事件とキラキラネーム

日記 by yasuoka

私(安岡孝一)の『人名用漢字の新字旧字』の読者から、三谷竜彦の「いわゆるキラキラネームの問題について」(哲学と現代, 第31号(2016年2月), pp.205-215)に、私の名前が出てくるとの御連絡をいただいた。ネットサーフィンしてみたところ、電子版『哲学と現代』のページで当該論文を見つけたのだが、これが、どこから手を付けていいのかわからないほどヒドイ論文だった。とりあえず「悪魔ちゃん命名事件」に関する部分を引用する。

2-2.「○○」ちゃん命名事件 (13)
一九九三年八月一一日、東京都昭島市役所に、子の名を「○○」とした出生届が提出された。八月一二日、昭島市役所は、東京法務局八王子支局に受理の是非を問い合わせたところ、問題ないという回答を得たため、「○○」を戸籍に登載した。ところが八月一三日、東京法務局八王子支局から昭島市役所に、出生届の受理を保留するようにという連絡が届いた。さらに九月二七日、東京法務局八王子支局から昭島市長に、出生届を「名未定」として扱うようにという指示がなされた。これにしたがって昭島市長は、戸籍の「○○」を赤線で抹消して「名未定」としたうえで、父親に対して、名前の追完届を提出するように求めた。父親はこの求めを受け入れず、いったん「○○」と名づけた出生届を受理しながら勝手に「名未定」に変更するのは不服であるとして、一〇月二〇日、昭島市長に「○○」を戸籍に記載させるよう、東京家庭裁判所八王子支部に家事審判を申し立てた。そして一九九四年一月三一日、東京家庭裁判所八王子支部は、次のような少しややこしい審判を下した。
子に「○○」と名づけるのは命名権の濫用であり、本来は出生届を受理されなくてもやむをえない。しかし本件においては出生届はいったん受理されてしまっているのであり、そうである以上、昭島市長は戸籍に「○○」と記載すべきであって、勝手に「名未定」にすることは認められない。
このように結果は、裁判に関しては父親側が勝訴したのだが、「○○」と名づけることは命名権の濫用であって本来は認められないと判断されたということになる。これに対して昭島市側は、東京高等裁判所に即時抗告した。ところが、父親は五月三〇日、「○○」とは別の名前を記した追完届を提出し、昭島市はこれを受理した。こうしてけっきょく二審は未決のまま終結することになった。
以上においてみてきたように、裁判自体はけっきょく中途半端な形で終わったが、一審判決にあるように、日本でも親の命名権は制限されるという可能性が示された。たしかに一審で勝訴したのは親側であるが、行政側が敗訴したのは手続き上の問題があったからである。もし手続き上の問題がなかったら、命名権の濫用として「○○」という命名は認められないという結果になっていたと考えてよいであろう。

違う。まずは、家事審判と行政裁判の差異をちゃんと理解した上で、宮崎幹朗『「悪魔ちゃん」事件にみる命名の自由とその限界』(愛媛法学会雑誌, Vol.22, No.3/4 (1996年3月), pp.73-96)を読みなさい。さらに、宮崎論文が引用している数々の判例評釈と、それらに反対する判例評釈を読みなさい。そこまでやってから、この「悪魔ちゃん命名事件」の射程がやっと議論できるのだし、その行政にとっての意味と、命名者にとっての意味がどう違うのかもやっと議論できるのだ。

ただ、そこまでやっても、そこからキラキラネームの議論へと敷衍するのは、またこれはこれで、かなり長い道のりだったりする。正直、この三谷竜彦の手におえる問題ではないように思えるのだが、どうしてこんな「いわゆるキラキラネームの問題について」なんて論文を書く気になったんだろ。

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