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教育

yasuokaの日記: 悪魔ちゃん命名事件と戸籍法施行規則60条 1

日記 by yasuoka

私(安岡孝一)の一昨日の日記に対して、上机美穂の『氏名とプライバシー』(札幌法学, 第22巻, 第2号(2011年3月), pp.135-154)という論文を読んでほしい、との連絡をいただいた。読んでみたところ、「悪魔ちゃん命名事件」に関して、あまりにトンデモないことが書かれていた(p.146)。あまりにトンデモなかったので、ウチの法学部図書室にすっ飛んで行って『札幌法学』の現物を確認したのだが、やはり同じことが書かれていて訂正等は見つからなかった。

たとえば出生時の命名は、多くの場合、親権者が子になんらかの願いや期待を込めてするものである。これは、たとえば命名した者による表現ということもできる。子は出生届により氏名が与えられることになる27。ところが、届はさまざまな理由により不受理となることがある。そのひとつとして、戸籍法施行規則60条に挙げられた人名用文字に該当しないものを、氏名として使用することがある。このような場合、親権者らの命名という表現や、命名に込めた願いが害されたということになるであろうか28

27 菅野耕毅『新版図説家族法第2版』(法学書院・2009) 24頁。
28 1993年、東京都昭島市役所に「悪魔」と命名された子の出生届が提出され、市役所が不受理としたため、親権者が東京家裁八王子支部に申立てた事件がある(未記載)。昭島市は、不受理の理由として「子の福祉」「親権濫用」を主張し、家裁も不受理とした。当時、親子は多くのメディアにも出演し、いわば時の人となった。親権者は、命名につき持論を展開したが、受け入れられなかった。

『判例時報』No.1486 (1994年5月11日) pp.56-61や、『判例タイムズ』No.844 (1994年7月15日) pp.75-80による限り、東京家庭裁判所八王子支部[平成5年(家)第2836号]1994年1月31日審判の主文は「東京都昭島市長は、申立人が、平成5年8月11日にした長男の出生届出に基づき、①「悪魔」の名を長男の戸籍(名欄)に記載し、②長男の身分事項欄の「名未定」との記載(挿入部分)を抹消し、もって、長男の名の受理手続を完成せよ。」である。一方、即時抗告審である東京高等裁判所[平成6年(ラ)第134号]については、相手方(悪魔ちゃんの父親)が申立を取り下げ、抗告人(昭島市長)がこれに同意したことから、未決のまま終局となっている。すなわち本件はケリがついていないが、少なくとも「家裁も不受理とした」なんてのは全くの大嘘だ。

というか、そもそも「悪魔ちゃん命名事件」は、戸籍法施行規則60条を争ったものではない。その意味でも、この注28は不適切だ。戸籍法施行規則60条を争った事件だと、札幌なら「曽良ちゃん命名事件」が有名だと思うのだが、名の追完届を受理するよう札幌家裁も札幌高裁も最高裁も命令しているので、やはり注28には不適切だろう。いずれにしろ上机美穂は、この注28を訂正する必要があると私個人は思うのだが、さて、どうすればいいのかしら?

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UNIXはただ死んだだけでなく、本当にひどい臭いを放ち始めている -- あるソフトウェアエンジニア

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