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日記

yasuokaの日記: 文化進化論におけるQWERTY配列の歴史

日記 by yasuoka

キーボード配列 QWERTYの謎』(NTT出版、2008年3月)の読者から、同じNTT出版のAlex Mesoudi『文化進化論』(NTT出版、2016年2月)を読んでみてほしい、との御連絡をいただいた。読んでみたところ、QWERTY配列に関するガセネタが書かれていた(pp.61-62)。

文化にも、痕跡的な特徴として説明できるケースがある。それは、かつては環境に適応していたものが、環境が変わったせいで不適応になった事例である。よく知られているのが、キーボードのQWERTY配列だ。それは、キーを打ちにくくし、ゆっくり叩かせるための配列で、世に出た時点では重要な役目を果たしていた。というのも、初期のタイプライターは、キーボードを叩くスピードが速すぎると、アームが衝突していたからだ。現代のキーボードにそのような制約はないが、最適とは言えないQWERTY配列は残ったままだ[★35]。

[★35]は、Everett Mitchell Rogersの『イノベーションの普及』(翔泳社、2007年10月)を引いているようなので、こちらも読んでみたところ、微妙に内容の違うガセネタが書かれていた(pp.012-013)。

QWERTYキーボードは、タイピストがキーを叩くのを遅らせるために、クリストファー・ショールズが発明したものである。その当時、タイプライター上の活字バーはバスケットのようなもののなかに、ぶら下がった状態で収められており、上方に旋回して紙を叩いていた。紙を叩くと重力の働きで元の場所に戻るのである。二つの隣り合ったキーを続けて早く叩くと、絡まって動かなくなってしまう。キーが絡まるのを最小限度にするために、ショールズはキーボード上のキーを配置しなおした。つまり、頻繁に使われる文字を連続して叩くことが難しくなるように、文字の配列を「反設計」したのである。こうして、タイピストのキー操作を難しくして、タイピング速度を遅くすることにより、キーを極力絡ませないようにした。彼の設計はすべてのタイプライターに採用された。

全くのデタラメだ。QWERTY配列において「E」と「R」が隣り合っているという事実を、RogersとMesoudiは完全に無視している。また、Christopher Latham Sholesが設計したQWERTY配列は、現在のQWERTY配列とは異なっているという事実も、RogersとMesoudiは完全に無視している。このあたりを、私(安岡孝一)自身『On the Prehistory of QWERTY』(ZINBUN, No.42 (March 2011), pp.161-174)や『「ECONOトリビア」QWERTY記事顚末記』(情報処理学会研究報告, Vol.2015-CH-106 (2015年5月16日), No.2, pp.1-8)にも書いておいたのだけど、まあ、Rogersは鬼籍に入って久しいので、読んでもらうのは無理だなぁ…。

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「科学者は100%安全だと保証できないものは動かしてはならない」、科学者「えっ」、プログラマ「えっ」

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