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地球

yasuokaの日記: カタルーニャ分離独立におけるQWERTY配列 6

日記 by yasuoka

『キーボード配列 QWERTYの謎』の読者から、六辻彰二の「QWERTY理論からみたカタルーニャ分離独立問題」(BLOGOS、2017年10月10日)という記事を読んでみてほしい、との連絡をいただいた。読んでみたのだが、カタルーニャ分離独立がQWERTY配列とどう関係あるのか、私(安岡孝一)には全く理解できなかった。

経済学者ポール・デーヴィッドは1985年に著した論文で「QWERTY」という造語を世に送り出しました。QWERTYとはパソコンのキーボードの左上の配列です。

「qwerty」という「造語」は、私の知る限り、『The Broad Ax』1897年11月20日号p.3「Reed and His Typewriter」に出てくる。これが初出かどうかはハッキリしないが、少なくともPaul Allan Davidの「Clio and the Economics of QWERTY」(The American Economic Review, Vol.75, No.2, pp.332-337)より、90年近く前の話だ。Paul Allan Davidが「qwerty」という単語を造ったわけじゃない。

パソコンのキーボードの配列は、かつての英語圏のタイプライターのものを踏襲しています。1880年代、タッチ・タイピングというタイプ技法が開発され、この指導をしていた学校がたまたま採用したのが、レミントン社が販売していたQWERTYの配列のものでした。

いや、少なくともGeorge Alexander McBrideは、Caligraph No.2で「タッチ・タイピング」をおこなっていた(cf.『The Brooklyn Daily Eagle』1889年2月28日号p.2「They Used the Caligraph」)。その意味では、「タッチ・タイピング」はQWERTY配列に限定されていない。六辻彰二の言う「この指導をしていた学校」って、どこの学校の話? Walworth's Typewriting and Stenograph Instituteじゃないの?

それ以前、英語圏でも複数のキーの配列がありましたが、タッチ・タイピングがタイプ技法の主流を占めるにともない、QWERTYの配列が定着。市場での優位がQWERTYの定着を後押ししました。

いや、だから、「タッチ・タイピング」はQWERTY配列に限定されていない。9月27日の日記にも書いたが、QWERTY配列がタイプライター市場で優位を占めるに至ったのは、1893年3月設立のUnion Typewriter社(つまりはTypewriter Trust)による寡占が、最大の原因だったりする。「たまたま採用」でも何でもなく、生産者側の強い思惑が背後にあるのだが、六辻彰二は、Union Typewriter社の存在すら知らないのだろうか。

というか、カタルーニャのQWERTY配列は、アメリカのQWERTY配列とは微妙に違っていて、「L」の右側に「Ñ」がある。さらにその右側に「Ç」もあったりするが、「Ç」はスペイン語(というかカスティーリャ語)では使わないので、一筋縄ではいかない。そのあたりを無視して、アメリカのQWERTY理論とやらでカタルーニャをかたるのは、さすがに無理があるように私には思えるのだが。

この議論は、yasuoka (21275)によって ログインユーザだけとして作成されたが、今となっては 新たにコメントを付けることはできません。
  • by Dharma-store (47177) on 2017年10月11日 22時30分 (#3294262) 日記

    いつも興味深く拝読しております。

    なるほどこれは、QWERTYをわざわざ持ってくる意味がないと申しますか、
    そもそもこの節いらないんじゃないかという印象すら受けます。まぁ、
    この(正しくない)過去事例がないと、「そもそも現在のシステムは
    偶然の結果なんだから、変えたっていいじゃない」という単純で乱暴なお話の
    ようにも見えてしまうので仕方がないのかもしれませんが。

    なんにしましても、今回のお話で一番クスリとしたのは、「カタルーニャをかたる」
    という所でしょうか。穿ち過ぎでしたら相済みません。

    • by yasuoka (21275) on 2017年10月12日 9時41分 (#3294411) 日記
      いえいえ、実は「カタルーニャをかたるーにゃ!」って書きそうになったんですけど、ギリギリで踏みとどまりました。
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      • by Dharma-store (47177) on 2017年10月13日 6時36分 (#3294980) 日記

        穿ち過ぎでなくてよかったです。

        一方で、ギリギリで踏み止めることのできる理性に感服します。

        一定年齢を過ぎると、言わなくてもいいのに思いついたらついうっかりと
        駄洒落を言ってしまうようになるようで、当方も方々でやらかしてしまいます。
        ここで言っておかないと次はない、と思うような年齢になったのかなんなのか。

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      • by manmos (29892) on 2017年10月12日 10時34分 (#3294440) 日記

        その勇気を讃えます。
        私には決して踏みとどまれない領域です。

        ところでÑはUNICODEのLatin文字での採用でも結構も揉めてた気がするんですが…

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        • by yasuoka (21275) on 2017年10月12日 19時39分 (#3294776) 日記

          キリルで「И」と「Й」が区別されるなら、カスティーリャでは「N」と「Ñ」が区別されるべきだ、って議論でしたっけ? ただ、カタルーニャでは「Ñ」を使わないので、話がかなりややこしかったような…

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          • by manmos (29892) on 2017年10月13日 10時38分 (#3295044) 日記

            そうです。8859-5の時に出てきた議論でした。
            当時の8859-1でÑが後回しになっていて、Ñがなければ、Españaという国名さえ記述できない!って強く主張していた印象が。

            カタルーニャでは使わなかったとは知りませんでした。nyなんですね。

            #今回調べ直して、8859-5をLatin-5だと誤っていたのがわかりました。

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犯人はmoriwaka -- Anonymous Coward

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