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数学

yasuokaの日記: 東京地方検察庁検事の考える「尤度比」 2

日記 by yasuoka

『捜査研究』の今月号(No.803)を読んでいたところ、東京地方検察庁検事の宮田英典が書いた『路上における強制わいせつ事件について,「尤度比」を用いて犯人性立証を試みた事案』(pp.92-104)という論文に行き当たった。DNA鑑定で3人以上の混合DNA型が検出された際に、被疑者を含む混合DNA型であるかどうかを、統計学的手法を用いて検討したものらしい。ところが、「尤度比」を検討しているはずの論文なのに、独立事象と従属事象の違いすら理解しておらず、ハチャメチャな結果が導かれていた。

尤度比とは,前述のとおり,互いに相反する2つの仮説を立てた場合に,それぞれの仮説が起こる確率の比を表すものであり,筆者なりの表現をすれば,「仮説Aと,仮説Bがある場合,どちらの仮説が起こる可能性が高いのか比べる」ということであろう。

私(安岡孝一)の知る限り、それは「尤度比」ではない。単なる「確率比」だ。

本件では,検察官が真実であるとして立証を目指すことになる「被疑者と第三者の混合であること(仮説①)」と,被疑者及び弁護人が可能性を指摘することになる「第三者2名の混合であること(仮説②)」という,2つの相反する仮説が起こる確率を比較することになる。

違う。そんな恣意的な仮説の立て方は、統計学的には全く無意味だ。「被疑者と第三者の混合である(仮説①)」を「立証」したいのなら、「被疑者と第三者の混合ではない(帰無仮説❶)」を立てて、帰無仮説❶の方を有意水準αで棄却することで、仮説①を「有意水準αで立証できたことにする」のがスジだ。

このような計算を,不詳とならなかった8つの座位全てで計算していくと(細かい計算式は,紙面の関係上省略する。),それぞれの尤度比は,

D3S1358で1.54
TH01で3.21
D13S317で12.29
D16S539で6.72
D19S433で12.81
TPOXで1.56
D5S818で2.03
FGAで8.77

となる。そして,それぞれ算出された尤度比を掛け合わせた総合尤度比は,

総合尤度比=1.54×3.21×12.29×6.72×12.81×1.56×2.03×8.77=145,000

となる。不詳とならなかった8つの座位だけを見ても,仮説①が起こる確率が,仮説②が起こる確率より14万5,000倍高い,つまり,混合DNA型に被疑者のDNA型が含まれていない可能性より,混合DNA型に被疑者のDNA型が含まれている可能性の方が14万5,000倍高いということになる。

馬鹿か、オマエは。このD3S1358とかTH01とかは、同じDNAでおこなった座位判定なのだから、どう考えても従属事象だろう。確率の乗算をおこなっていいのは独立事象の場合だけで、従属事象ではダメだ、という確率論の基本を、数学の授業で習わなかったのか? しかも↑の場合、各事象間の条件付き確率(あるいは相関係数)が明らかにされていないので、せいぜい求めることができるのは相乗平均くらいだ。この場合、exp((log(1.54)+log(3.21)+log(12.29)+log(6.72)+log(12.81)+log(1.56)+log(2.03)+log(8.77))/8)=4.418が相乗平均だが、元の「尤度比」の定義がオカシイので、この「4.418倍」すら意味があるのかどうか、私にはわからない。

本件では,筆者の力不足もあり起訴まで至らなかったが,被疑者を起訴するために全力を挙げてくれた警察関係者,お忙しいところ色々な説明をしてくれた大学関係者の方々に,この場を借りてお礼を申し上げたいと思う。

「お礼」じゃなくて「お詫び」すべきだと思う。尤度比検定も、帰無仮説も、従属事象すら理解しないままに、「14万5,000倍高い」とか、何の根拠があって論文に書いてるんだ。そんなわけのわからない数字で犯人あつかいされたんじゃ、たまったもんじゃないと思う。

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