yasuokaの日記: 古典中国語と変体漢文の深い谷をUniversal Dependenciesで照らせるか
私(安岡孝一)の2月10日と12日の日記の読者から、変体漢文もUniversal Dependenciesで書けるのか、という趣旨の御質問をいただいた。書けるとは思うのだが、変体漢文は、日本語の語順を一部変更して漢文風にしたもの(cf. Edith Aldridge: 変体漢文の語順の発生過程, 日本語の様々な姿を考える: 黄憲堂教授記念論文集(2016年12月), pp.21-40)らしいので、古典中国語とは異なる様相を呈すると思う。ためしに、変体漢文の例として「汝者我見欺」を考えてみよう。
1 汝 汝 PRON n,代名詞,人称,起格 _ 5 nsubj:pass _ SpaceAfter=No
2 者 者 PART p,助詞,提示,* _ 1 case _ SpaceAfter=No
3 我 我 PRON n,代名詞,人称,止格 _ 5 obl _ SpaceAfter=No
4 見 見 AUX v,助動詞,受動,* _ 5 aux _ SpaceAfter=No
5 欺 欺 VERB v,動詞,行為,交流 _ 0 root _ SpaceAfter=No
「見←aux─欺」については古典中国語の受動態っぽい構造だが、それ以外は全く違う。意味的には「汝←nsubj:pass─欺」のはずだが、「汝」に「者」がくっついていて、とりあえず「汝─case→者」とせざるを得ない。その一方で「我←obl─欺」については、「我」の前にあるべき「於」が無い。Universal Dependenciesを使えば、ある程度は古典中国語と同じように書けるものの、少なくとも「汝者我見欺」の例において、変体漢文は古典中国語とは異なる書写言語である。
だとすると、変体漢文には形容詞が存在するのだろうか。うーん、これは、ちょっと調べてみないとダメかな…。
古典中国語と変体漢文の深い谷をUniversal Dependenciesで照らせるか More ログイン