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中国

yasuokaの日記: 古典中国語(漢文)における「普通」 2

日記 by yasuoka

2月27日の日記の読者から、安田峰俊の『「漢文は社会で役に立たない」と切り捨てる“意識高い系”の勝ち組へ』(文春オンライン、2018年3月5日)を読んでみてほしい、との御連絡をいただいた。私(安岡孝一)自身は「漢文は社会で役に立たない」とは全く思っていないので、そもそも対象読者じゃない気がするのだが、ざっと読んでみた。うーん、気持ちはわかるが、例が悪い。たとえば、この部分。

たとえば、「成功」は「功を成す」、「普通」は「普(あまね)く通ずる」、「喫茶店」は「茶を喫する店」……と、漢語の語彙の多くはいわゆる漢文訓読の書き下し文にできる。これらの言葉の正体は、実はすごくミニマムなサイズの漢文なのだ。多くの言葉の正体が漢文である以上、漢文や漢文法の知識を持っている人ほど、日本語の接続詞を自在に使ったり、さまざまな概念を漢語の語彙に置き換えたりしやすくなる。

「成功」や「喫茶」は、まだいいとしても、「普通」はいただけない。古典中国語(漢文)に「普通」が出てきたら、普通は梁の元号(普通元年は西暦520年あたり)を指す。漢文の知識を持っていると邪魔になる典型例なんだけど、なぜあえて、その例を出してくるんだろ。

私事で恐縮だが、私は人生で2回裁判に関係した経験があり(民事)、自分で長文の陳述書を書いたこともある。裁判所で飛び交う文書や法律の条文は、独特の漢語語彙と、やや特殊な漢文訓読調や古文調を感じさせる文章の洪水だ。

それはあくまで「独特の漢語」風「語彙」であって、古典中国語(漢文)とはエンもユカリもない。「債務名義」とか「禁治産人」という単語が『大清民律草案』に出てくるのは、むしろ、日本からの逆輸入だと思うんだけど。

特にXさんの場合、私はなぜか気に入られて当初は1時間弱の予定だったインタビュー時間が倍以上になり、その後も秘書を介する形ながら友好的に接してもらった。理由はどうやら、私が彼の部屋の中国絵画や出されたお茶の由来を尋ねて雑談したり、彼が凝っている禅について日本の臨済宗と曹洞宗の違いを喋ったりしたことで、他の日本人記者よりも面白がってもらえたかららしい。

いや、そこで「日本の臨済宗と曹洞宗の違い」とか言いだしちゃうと、古典中国語(漢文)から離れちゃうんだけど。どうして、臨済義玄や曹山本寂の話(とりあえず慧能はスルー)にならないのかしら? この文章で、あえて「特にXさんの場合」を強調する意図は、いったい何なんだろう。あまりにも例が悪いと感じるのは、私だけかしら?

この議論は、yasuoka (21275)によって ログインユーザだけとして作成されたが、今となっては 新たにコメントを付けることはできません。
  • by wiself (47798) on 2018年03月07日 6時01分 (#3372444)
    雪を見るときは御簾を上げるんですよね。

    対象読者じゃ無いから例が悪いように感じるのであって、日本の何気ないところに漢文の影響があることを示せれば十分です。
    この場合、漢文自体の知識や蘊蓄はまだ早い。
    記事に書いていないだけで実際には臨済義玄や曹山本寂の話もしていたかもしれません。Xさんの趣味からするとしていた可能性が高いですよ。
    今も昔も漢文は教養であり、教養というのは理解している間では話が盛り上がるものです。
    • 元の日記にも書いた通り「気持ちはわかるが、例が悪い」のです。気持ちはわかるんですよ。でも、この例じゃ正直なところ、漢文の例に「春はあけぼの」を挙げるようなバカと、五十歩百歩だろうと。可能性の話をしているわけではなく、あくまで私(安岡孝一)は「例が悪い」と書いているのです。

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