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アメリカ合衆国

yasuokaの日記: MIT Technology Reviewの考えるQWERTY配列

日記 by yasuoka

私(安岡孝一)の『パソコンのキーボードは,なぜABC順・五十音順ではないのですか』の読者から、Mariana Mazzucatoの『デジタル経済を独占するグーグルやフェイスブックと私たちはどう付き合うべきか』(MIT Technology Review、2018年7月7日)を読んでみてほしい、との御連絡をいただいた。読みかけてみたのだが、いきなりQWERTY配列に対するガセネタが書かれていて、とても有料の部分まで読む気になれなかった。

キーボードのQWERTY配列は、タイプライターの機械式アームがぶつかって絡まるトラブルを減らすために、わざと非効率的に設計された。この特性はもはや現在のキーボードには無関係だが、人々はそんなことにはお構いなく、まだQWERTY配列のキーボードを使っている。

タイプライターに「アーム」という機構が導入されたのは、1893年発売の「Daugherty Typewriter」以降であり、現在のQWERTY配列が現れた頃(1882年)のアップストライク式タイプライターに「アーム」などという機構はない。…と書きかけて、もしや誤訳なのではないかと思い、原文の『Let’s make private data into a public good』(MIT Technology Review、2018年6月27日)の方も読んでみた。

The QWERTY keyboard layout was designed to be deliberately inefficient so that the mechanical keys of the typewriter would jam less frequently. That feature is no longer relevant, but it doesn’t matter—we’re still typing on QWERTY keyboards, because that’s what people are used to.

原文には「アーム」など出てこない。「the mechanical keys of the typewriter would jam」というアヤシゲなガセネタが書いてあるだけだ。つまり、おせっかいな訳者が「アーム」などという単語を導入して、完全な誤訳にしてしまった、ということだろう。ただ、アップストライク式タイプライターは、「keys」が「jam」ったりしないので、そもそも原文の内容も間違いだったりする。

Like the internal-combustion engine or the QWERTY keyboard, a company that establishes itself as the leader in a market achieves a dominance that becomes self-perpetuating almost automatically.

違う。現在のQWERTY配列を作ったWyckoff, Seamans & Benedict社は、確かにTypewriter Trust成立時点(1893年)では「the leader in a market」となったが、20世紀になった途端Underwood Typewriter社に追い抜かれている。そのUnderwood Typewriter社も、結局はIBMにトップの座を明け渡し、Olivettiに買収されてしまっている。少なくともQWERTY配列の歴史においては、「dominance」が「self-perpetuating」なんていう甘い話は無くて、後続企業にどんどん潰されていくのが現実だ。Mariana MazzucatoがQWERTY配列を例にしたいのなら、もう少しちゃんとQWERTY配列の歴史を調べてから書くべきだと思う。

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