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yasuokaの日記: AZERTY配列はフランス語を打てないのか 2

日記 by yasuoka

『キーボード配列 QWERTYの謎』(NTT出版、2008年3月)の読者から、中村亮一の「アルファベットのキー配列-QWERTY配列がデファクトスタンダードになっているのはなぜか-」(ニッセイ基礎研究所、2018年9月3日)を読んでほしい、との連絡をいただいた。読んでみたのだが

タイプライターのQWERTY配列の開発及びその後の進展等を巡る状況に関しては、「キーボード配列QWERTYの謎」(安岡幸一、安岡素子著)NTT出版(以下、「安岡著書」という)に詳しい内容が紹介されている。

と書かれていて、微妙にイラっときた。その本の著者の一人は、私「安岡孝一」だ。「安岡幸一」じゃない。イラっときたので、ざっと吊るし上げてみようと思う。

しかし、1873年にレミントン・アームズ(Remington Arms)社が製造したタイプライターでは、さらに現在のQWERTY配列にほぼ類似した配列が使用されていた。

Remington Armsの設立は1888年だ。1873年だと、どう考えてもE. Remington & Sonsだろう。

1873年以降、特許の問題等もあり、キー配列についても各種の変更が行われた後、現在のQWERTY配列になったのは、レミントン社が1882年に発売したタイプライターからである。

「Remington Starndard Type-Writer No.2」(1882年発売)のことを言っているのなら、それを発売したのはWyckoff, Seamans & Benedictだ。「レミントン社」じゃない。

さらに、typewriterの全ての文字が1つの段で打てるようにQWERTY配列を設計した、とする説ある。これについても、安岡著書では「当時の商標はSholes & Glidden Type-Writer」なのにSholes & Gliddenを1つの段で打つことはできない。Type-Writerにしてもハイフンを含んでおり、ハイフンが同じ段にできない以上、この説はナンセンスと言わざるをえ得ない」と反論されている。

『キーボード配列 QWERTYの謎』41ページ☆18を引用しているのだと思うが、私たちがそこに書いたのは「当時の商標は『Sholes & Glidden Type-Writer』なのに、SholesもGliddenも一つの段で打つことはできない。Type-Writerにしてもハイフンを含んでおり、ハイフンが同じ段にない以上、この説はナンセンスと言わざるをえない」だ。引用くらい、正確にできないのか。

QWERTY配列をベースとしていないものとしては、「Dvorak(ドヴォラック)配列」と呼ばれるものもある。これは、英文入力に特化して設計されたキー配列で、1932年にオーガスト・ドヴォラック(August Dvorak)博士が、アルファベットの出現頻度と相関性を分析して、打鍵効率の向上や身体的負担軽減を追求することで、考案した。

「タイプライターに魅せられた男たち」にも書いたが、1932年時点の「Dvorak配列」だと、ZはQの左側にある。この図は1933年以降だろう。

なお、フランス文化省は、2016年1月に、AZERTY配列について、「フランス語キーボードでフランス語を書くことが不可能である」との公式見解を発表しており、今後フランス文化省とアカデミー・フランセーズ(国立学術団体)とで、新たなキー配列の標準化を検討することになっているようだ。

2016年1月だと「Vers une norme française pour les claviers informatiques」のことを言っているのだと思うが、この「公式見解」はAZERTY配列の基本アルファベット部分について述べたものではない。原文を見てみよう。

Actuellement, il existe une grande diversité de claviers proposés par les fabricants sur le marché français mais, selon le système d’exploitation que l’on utilise et selon le fabricant du clavier, certaines touches ne sont pas disposées au même endroit, ou alors, elles ne sont disponibles. Cela entraîne des difficultés dactylographiques telles que l’usage des caractères accentués, en particulier des caractères accentués en majuscule, l’usage des « doubles chevrons », ainsi que l’usage des deux ligatures du français que sont les « æ » (e dans l’a) et « œ » (e dans l’o) et leurs équivalents en capitales « Æ » et « Œ », pour n’en citer que les plus récurrentes. Il est dès lors presque impossible d’écrire en français correctement avec un clavier commercialisé en France.

読めばわかるとおり、この「公式見解」は、アクセント記号やリガチャ(æやœ)がベンダーごとに異なっている、という問題を指摘しているのであって、AZERTY配列それ自体に関する問題点を指摘しているわけではない。ちょっと読めばわかる話なのに、中村亮一は、いったい何の話をしているんだろう? それとも、「フランス文化省」の別の「公式見解」の話なのだろうか?

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