yasuokaの日記: 漢文に返り点を打つタスク
昨日の日記で「漢文に返り点を打つタスク」と書いたところ、返り点にも流派のようなものがあるのではないか、という趣旨の御意見をいただいた。まあ、それもあって、今回、私(安岡孝一)の『漢文の依存文法解析と返り点の関係について』(日本漢字学会第一回研究大会(2018年12月1日)発表予定)では、『漢文大系』(冨山房、1909~1916年)の「孟子定本」とだけ対照している。卷一のアタマを見てみよう。
孟子見㆓梁惠王㆒
王曰
叟不㆑遠㆓千里㆒而來
亦將㆑有㆔以利㆓吾國㆒乎
孟子對曰
王何必曰㆑利
亦有㆓仁義㆒而已矣
王曰㆔何以利㆓吾國㆒
大夫曰㆔何以利㆓吾家㆒
士庶人曰㆔何以利㆓吾身㆒
上下交征㆑利而國危矣
萬乘之國
弑㆓其君㆒者
必千乘之家
千乘之國
弑㆓其君㆒者
必百乘之家
萬取㆑千焉
千取㆑百焉
不㆑爲㆑不㆑多矣
苟爲㆓後㆑義而先㆒㆑利
不㆑奪不㆑饜
未㆑有㆘仁而遺㆓其親㆒者㆖也
未㆑有㆘義而後㆓其君㆒者㆖也
王亦曰㆓仁義㆒而已矣
何必曰㆑利
上の例に即して言えば、「孟子見梁惠王王曰叟不遠千里而來亦…已矣何必曰利」という白文に対して、上のような返り点を導出するのが、漢文に返り点を打つタスクの目標ということになるだろう。ただ、確かに、上の例においても、安井衡の「返りグセ」みたいなものがあって、たとえば「曰」に返り点を打つかどうかは、かなり悩ましい。
上の例には「王曰」という文字列が2ヶ所あるが、最初の「王曰」には返り点が無く、後の「王曰」には直後に返り点がある。これは、最初の「王曰」が地の文にあり、後の「王曰」が孟子の会話文の中にあるからである。端的に言えば、地の文の「曰」には返り点を打たず、それに続く会話文の中の「曰」には返り点を打つことで、「曰」の入れ子構造を示しているわけである。正直かなり難しい。誰か、こういうタスクを、ちゃちゃっと処理してくれるようなモデル、作ってくれないかなぁ…。
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