yasuokaの日記: アイヌ語の「イワイサルㇱペ」は「虎」なのか「オオカミ」なのか「六尾獣」なのか
一昨昨日の日記に関連して、アイヌ語の「イワイサルㇱペ」を調べていたところ、B・ピウスツキ『樺太アイヌの言語と民話についての研究資料<26>病弱な者でも有能な憑き神によって開運する由来話』(創造の世界, 第77号 (1991年2月), pp.138-145)に、以下の文章を見つけた(p.140)。
ネヤイケヘ そうしたら(ちょうど、そこへ)
アンポニウネ ぼくの年下の
ホㇱキラムフ 兄さんが
キラアニエㇸマヌ 逃げてやってきた。
オーポニ (よく見ると)その後を
イワイサルㇱカムイ 六尾をもつ神(という魔性のオオカミ)が
アンホㇱキラムフ ぼくの兄さんを
ノㇱパ 追いかけていた。
アノㇱキラムフ ぼくの兄さんを
アネソㇹキ ぼくは(わきに手早く)よけ(てやり過ごし)た。(夢中に兄さんを追いかける性悪のオオカミにぼくは目をすえて)
アヌッソロマレペ ぼくが(かねて)内ふところにしのばせていたものを
アヌイナマヌ ぼくは取り出した。
トイキエムシアニ (鞘を払い)トイキ(という名)刀で
イワイサルㇱペ 六尾をもつ(というオオカミの)奴を
アンタウケ ぼくはたたき斬った。
アルパㇵノㇱキケタ (みごと)ちょうど、ど真中を
アントゥイテㇸテ ぼくは斬(ってしま)った。
「虎」ではなく「オオカミ」らしい。Bronisław Piłsudski『Materials for the Study of the Ainu Language and Folklore』(Cracow: Imperical Academy of Sciences, 1912)の原文にあたってみよう(pp.239-240 [in Nr.27. Dictated (December 1903) by Nita aged 28 of village of Aj.])。
Nejàjḱehé am-ponínue hóśki rámhu kira ani éx manu, opóni ivaj-saruś kamúi an-hóśki rámhu nośpa. Anóśki rámhu anesóxki. An-usòmarepé anújna manu. Tóiki emuś-ani ivaj-saruśpe antáwḱe, arúpax nóśḱe-ḱeta antújtexte.
Meanwhile the younger of my elder brothers came running; following (and) pursuing my brother, (there came) a beast with six tails. I made way for my elder brother. I seized the thing in my bosom: with (my) earthen sword, I struck the six-tailed beast; just in the middle did I cut it in two.
原文は「虎」とも「オオカミ」とも書いていないようだ。日本語訳をおこなった藤村久和は「H・Y媼によれば、この動物はオオカミであって」としているものの、それを裏付ける他の文献が引用されているわけでもない。また、Piłsudski自身は、アイヌ語の「horoḱéu」を「wolf」と訳している(『Materials for the Study of the Ainu Language and Folklore』pp.199-213)。さて、どうしたものかな。
アイヌ語の「イワイサルㇱペ」は「虎」なのか「オオカミ」なのか「六尾獣」なのか More ログイン