Pravdaの日記: 〔DVD〕 ビッグ・コンボ
いわゆるB級ノワールの第二回目は、ジョセフ・H・ルイス監督の『ビッグ・コンボ』(1954年)。日本公開時のタイトルは『暴力団』。ルイス監督作品は『拳銃魔』(1950年)も捨てがたいのですけど、とりあえず、こちら。
美女スーザンは、犯罪組織のボスであるブラウン氏の情婦。彼女はブラウン氏と別れたがっていたが、彼は2人の子分にスーザンを監視させている。一方、警察のダイアモンド刑事は犯罪組織の潰滅をもくろみ、その突破口としてスーザンに目をつけるうち、しだいに彼女に惹かれてゆく。ダイアモンド刑事はブラウン氏の過去の犯罪の謎に迫るが、ブラウン氏の子分に拉致され拷問を受ける…。
刑事対ギャングの映画。描かれている犯罪組織は、他の構成員の名前などから明らかにイタリア系なのですが、ボスの名前だけブラウン氏。完全にイタリア・マフィアとして描くには、いろいろ支障があったのかもしれません。
B級ノワールに特徴的なローキー撮影で、また1ショットが意外と長く、かつディープ・フォーカスの志向がみられ、『市民ケーン』(1941年)と共通する要素が多いことが判ります。逆に言うと、『市民ケーン』はそういった映像テクニックの集大成みたいな映画で、そのスタイルは主に後年のB級映画に継承されます。1939年公開の『風と共に去りぬ』や『オズの魔法使い』などの高評価で、ハリウッド大手スタジオの関心はカラー映画(昔は総天然色映画とも)に向かっていたので、この点からも『市民ケーン』は一種の「呪われた映画」と言えるでしょう。
吉田広明『B級ノワール論』(作品社、2008年)の解説によると、この映画に見える「手慣れた感じ」は、ルイス監督の自作『秘密調査員』やフリッツ・ラング監督作品『復讐は俺に任せろ』の二番煎じだからのようです。18min.頃の、大量検挙で悪人どもが警察に連行されるシーンは、『拳銃魔』のストックからの流用。冒頭のボクシングの試合シーンも、もしかしたら他の映画のストックを使ったのかもしれません。
撮影はジョン・オルトン。天才肌のカメラマンであったらしく、以下、DVD付属パンフレットに収録されている、ルイス監督のインタビューより引用。
彼〔ジョン・オルトン〕にはこう言えば万事用が足りた。「いいか、ジョン、ドアから女の子が出てくると、ドアからほんの1インチ幅の光の筋が見える。彼女がその光を通り抜けるとき、顔が光を横切るが、一度に1インチずつしか見えない。それから彼女は暗闇から浮かび上がり、今度は日光の当たる部屋に入り、ほんの一瞬だけ通り過ぎる。それから、完全な暗闇になり、白い背景に彼女のシルエットだけが見える。そういう画面が頭にあるんだ、ジョン」。このとき、私は頭の中でキャメラを回しているだけだった。彼は「了解」と言った。私が数分間椅子に座っていると、突然彼が「準備完了」と言う。本当の話だ。彼は皆をテクニックで圧倒させた。私も圧倒させられた。あれは魔術だった。彼はそこにライトを置く。そこにバックライト、ここにフロント・ライト・キッカー〔高所斜めからのキー・ライト(主光源)に加え特定のハイライトを作る正面からの補助照明〕。そして「準備完了」と言う。
ジョン・オルトンは1901年にハンガリーで生まれ、18歳で渡米。その後パラマウント撮影所の現像所に就職してキャリアを開始しますが、ユニークなのは1932年~1939年の間、アルゼンチン映画でカメラマンを務めていること。映画は予算が決まるとセットの大きさや照明の量も決まってしまうため、最小限のライトしか使わない技術は、この時に磨かれたようです。
ただし彼のスピード・臨機応変・創意工夫は、古いスタジオの慣習とセクショナリズムをまったく無視するもので、また傍若無人・唯我独尊とも見える性格のため、他の撮影技師や撮影部の部長から疎まれ、『花嫁の父』(1950年)や『パリのアメリカ人』(1951年)を除き、活躍の舞台はもっぱらB級映画にあったようです。
ブラウン氏の子分の1人ファンティに扮するのが、若きリー・ヴァン・クリーフ。のちに特異な容貌を活かしてマカロニ・ウエスタンのスター。この映画の製作はセキュリティ・ピクチャーズとシオドラ・プロダクションズとの共同。セキュリティ・ピクチャーズは実質的にフィリップ・ヨーダンの個人会社で、「赤狩り」によって名前が出せなくなった脚本家に名義を貸していたことで有名。この映画の脚本もフィリップ・ヨーダン名義ですが、実際に誰が書いたかは分からないそうです。
お値段がイササカ高いので、レンタルとかがあればいいのですけど。
以下、DVD裏のデータより。
■ CAST
コーネル・ワイルド
リチャード・コンティ
ブライアン・ドンレヴィ
ジーン・ウォレス■ STAFF
製作:シドニー・ハーモン
監督:ジョーセフ・H・ルイス
脚本:フィリップ・ヨーダン
撮影:ジョン・オルトン
音楽:デヴィッド・ラクシン公開年:1954年
字幕スーパー、日本語字幕のみ
89min.
モノクロ
発売・販売:紀伊國屋書店
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