
phasonの日記: 高効率での水の光分解 5
"Solar-to-hydrogen efficiency of more than 9% in photocatalytic water splitting"
P. Zhou et al., Nature, 613, 66-70 (2023).
気が付くと10か月ぶりの日記である.忙しかったとはいえ,ずいぶんとまあ書かなかったものだ.
(論文自体は読んでるし面白いものもあるのだが,こうやってまとめるには時間が取れないとなかなか難しい)
"Solar-to-hydrogen efficiency of more than 9% in photocatalytic water splitting"
P. Zhou et al., Nature, 613, 66-70 (2023).
気が付くと10か月ぶりの日記である.忙しかったとはいえ,ずいぶんとまあ書かなかったものだ.
(論文自体は読んでるし面白いものもあるのだが,こうやってまとめるには時間が取れないとなかなか難しい)
最近iPad Air(第3世代)からiPad(第9世代)に買い換えました.
「そんなにスペック違わないし安い無印iPadでいいだろ」と思って買い替えたのですが,意外に映り込みが段違いで,個人的にはちょっと失敗したなあという感想です.
(ディスプレイの輝度をかなり落として使っている影響が大きいとは思いますが)
時間があれば,どの程度映り込みが気になるかを店頭で(画面輝度なども通常使用時と同じぐらいに設定して)比べてみても良いかも.
>レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)って「老化」したでんぷんなのかな。
老化(β化)したデンプンも難消化性デンプンの一種ですが,難消化性デンプンにはほかにもいくつか種類があります.
通常のデンプンは分子内(もしくは隣接分子間)で水素結合することにより密に凝集していることが多く,この状態をβデンプンと呼びます。
βデンプンを高温で煮ると水素結合がほどけ間に水が入り込み,緩く詰まった状態に変化します.この状態がαデンプンです.αデンプンは分子鎖間に隙間(&水)があるため,消化酵素などが分子に接近しやすく,容易に消化されます.
αデンプンを比較的低い温度に保持すると,徐々に分子間や分子内での水素結合が形成されていき,時間とともにβデンプンに戻っていきます.これが老化です.
老化は低温ほど進行が速くなりますが,冷凍状態など水分子の運動が凍結する温度になると進まなくなるため,急速冷凍するとそれ以上の老化を防止できます.
(ただし急激に冷やさないと,冷える過程でそこそこ老化が進む)
一方の難消化性デンプンは,「理由はともあれ,消化・吸収されにくいデンプン」を指す用語です.
老化して酵素が接近しにくいデンプンもそうですし,細胞内にあるためなかなか消化されないものや,分子構造的に枝分かれの度合いなどが違って消化酵素の影響を受けにくいもの,化学的に修飾されており消化されない/されにくいものなども含みます.
溶融塩蓄熱電池なんてのもありますね.
太陽熱発電(※太陽電池ではなく,集光した熱を使う発電)の蓄熱用として,中国とオーストラリアあたりですでに建設済み(だったか,今建設中だったか).
これにより,太陽熱発電を24時間ある程度安定して運用できるようになる,というもの.
砂・岩石を用いるものも,今回のもののように熱をそのまま使うのではなく,(効率は悪いけど)電気を熱に変換してを岩石に蓄熱し,それを必要時に発電に使うというものをドイツのSiemens-Gamesaが開発していて,今年あたりから商用化で受注とかそんなスケジュールだというニュースを読んだ覚えが.
(数年前にデモプラントが作られて動いていた,ような)
・状態密度
金属中の電子は,ある程度のエネルギー範囲中に無数の軌道が存在することから,実質的に連続準位(*)とみなせる電子状態となっています.
*分子などでは電子の入れる状態=軌道が離散的で,電子はとびとびのエネルギーしか取れないのに対し,金属中では次の準位までのエネルギー間隔が無視できるほど狭く,連続的になっている.詳しくはバンド理論を学ぶ必要あり.
このような金属中の電子の状態の表現のしかたとして,状態密度というものが使えます.
これはある狭いエネルギー範囲に,どれだけの状態(=電子が入れる席)があるか,というものを表した図です.例えば以下のような感じ.
金属中の電子は,あるエネルギー以下まで詰まっており,この「ここまで詰まっている」というエネルギーをフェルミエネルギーと呼ぶ(■が電子が詰まっている状態.□は電子が入れる空席はあるが,電子が入っていない状態).
上向きスピンの電子の状態数 例えばここがフェルミエネルギー
↑ ↓
| ■ |
| ■■ |
| ■ ■■■■■ | □□□
| ■■■ ■■■■■■■■■|□ □□□□□
|■■■■■■■■■■■■■■■|□□ □□□□□□□
------------------------------------------------------------->エネルギー
|■■■■■■■■■■■■■■■|□□ □□□□□□□
| ■■■ ■■■■■■■■■|□ □□□□□
| ■ ■■■■■ | □□□
| ■■ |
| ■ |
↓
下向きスピンの電子の状態数
この金属に磁場をかけると,伝導電子のスピンの向きが磁場に対し不安定な向き(伝導電子のスピンが作る磁力が,磁場と反発する向き)なのか,その正反対の向きなのかによってエネルギーが上下するため,電子のスピンの向きによってバンドがズレてきます.
上向きスピンの電子の状態数 例えばここがフェルミエネルギー
↑ ↓
| ■ |
| ■■ |
| ■ ■■■■■| □□□
| ■■■ ■■■■■■■|□□□ □□□□□
| ■■■■■■■■■■■■■|□□□□ □□□□□□□
------------------------------------------------------------->エネルギー
|■■■■■■■■■■■■■■■■|□ □□□□□□□
| ■■■ ■■■■■■■■■■| □□□□□
| ■ ■■■■■ | □□□
| ■■ |
| ■ |
↓
下向きスピンの電子の状態数
この結果,伝導電子の↑の電子の総数と↓の電子の総数に差が出る場合があります.電子のスピンの向きは,電子を棒磁石とみなした時の向きに対応しますので,これは要するに伝導電子の作る磁力が偏る(=伝導電子全体として,特定の方向を向いた磁力が強くなる)ことを意味します.
特に↑の電子の総数と↓の電子の総数の差が非常に大きくなるようなバンド構造の場合(=もともとのフェルミ面付近に非常に大きな状態密度をもつ場合),伝導電子のスピンの偏りが生み出す磁場自体がバンドのずれを引き起こすのに十分な強さになる,「自分たちの作る磁場によるバンドのずれが,十分な磁場を作って自分たち自体を固定する」という状態になります.これがいわゆる鉄などの伝導電子による強磁性(遍歴電子による強磁性)です.
・ハーフメタル
自分自身の磁場などにより↑スピンの電子の状態密度と↓スピンの電子の状態密度がズレた場合,時としてフェルミ面付近(※実際の電流にかかわるのは,このフェルミ面付近の電子に限られる)で一方の電子のみが状態密度をもつ場合があります.こういった場合,伝導電子のうち片方のスピンの電子のみが電流として利用でき金属伝導を示し,逆向きスピンの電子にとってはフェルミ面がちょうどギャップのところにあるので絶縁体のように振る舞います.
こういう物質をハーフメタルと呼びます.
上向きスピンの電子の状態数 例えばここがフェルミエネルギー
↑ ↓
| ■ |
| ■■|
| ■ ■■■■|□ □□□
| ■■■ ■■■■■■|□□ □□□□□
| ■■■■■■■■■■■■|□□□ □□□□□□□
------------------------------------------------------------->エネルギー
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| ■■■ ■■■■■■■■ | □□□□□
| ■ ■■■■■ | □□□
| ■■ |
| ■ |
↓
下向きスピンの電子の状態数
上図の場合,↑スピンの電子にとっては「バンドの途中にフェルミ面がある=金属」であるのに対し,↓スピンの電子にとっては「フェルミ面がバンドギャップの中にある=絶縁体」となります.
つまりこの物質に電流を流すと,↑スピンの電子のみが流れることができます.
このようなハーフメタルを使うと,単に電流を流すだけで「一方のスピンだけをもった電流」を取り出すことができます.
このようなスピン偏極した電流は,例えばトンネル磁気抵抗効果(HDDの読み取りなどでも使用される,上下の層の磁化の向きにより伝導性が大きく変わる現象)であるとか,もしかしたら将来実現できるかもしれないスピントロニクス素子(電子の電荷だけではなく,そのスピンも情報処理の要素として使用する素子)への利用などが期待されており,容易にスピン偏極した電流が得られるハーフメタル素子はそういった用途への利用が期待される材料になります.
・完全補償型ハーフメタル
上記の説明にあるように,「自分自身のスピン分極によりバンドがズレ,それによってハーフメタルになる」というメカニズムのため,通常のハーフメタルは強磁性体となります.
しかし強磁性体は物質全体として大きな磁化をもつため周囲に磁場が漏れ,当然ながら近くに置かれた別の強磁性体と干渉します(両方の磁場の向きが揃おうとするので,勝手に周囲の磁化の向きが変化する可能性がある).
では,外部に磁場の漏れない反強磁性体(↓と↑が同数あり,トータルでの磁化がゼロ)というのは不可能なのでしょうか?
単純に考えると,反強磁性体ではトータルでの磁化が無いのでバンドをシフトさせる駆動力が無く,実現できなそうに思えてしまいます.
確かに,すべての場所でスピンが打ち消されている反強磁性体でハーフメタルを作るのは無理なのですが,「物質の内部で,局所的にはスピンの偏りがあるけど,物質全体ではスピンが打ち消しあって磁化が無い」という物質なら作れることが以前から理論的には提唱されています.
例えばAとB,2種類の金属の合金を用いると,異なる金属元素からは異なる軌道が違う位置にバンドを作るので,Aの原子の部分では↑の電子密度が高く,Bの原子の位置では↓の電子密度が高い.でも物質全体ではトータルの磁化はゼロ,というものを作れます.
しかもこの場合,Aの原子の軌道由来のバンドは「↑の電子の作る磁場によるシフト」を起こし,Bの原子の軌道由来のバンドは「↓の電子の作る磁場による逆向きのシフト」を起こしますので,トータルの伝導電子の↑と↓の電子の状態密度に差が出ます.
(ということは,物質全体として磁化が無いのに,ハーフメタルが作れる)
こういった物質を使うと,漏れ磁場を気にせず,スピン偏極率ほぼ100%のスピン偏極した電流(=一方の向きのスピンをもつ電子だけからなる電流)を得ることが可能になります..
桁違いに大きい,というのもあるんですが,構造などの方がインパクトが大きいです.
通常のバクテリアは,細胞核をもたず細胞内にそのままDNAがぶちまけられている原核生物に属します.これに対し我々を含む真核生物は遺伝物質が膜で包まれた核を作り,また同様に膜で包まれたさまざまな小器官を構成することで,より効率的に生化学的な反応等を行えます.
ところが今回発見されたこいつは原核生物でありながら遺伝物質が膜で包まれた細胞核のような構造をとっており,真核生物と原核生物の境界を怪しくするような立ち位置です.
※同様の「遺伝物質が膜で包まれている」という例としては2020年に産総研などが発表した生物もありますが,産総研の例では細胞のかなりの領域が核っぽいものになっているのに対し,今回の生物はより細胞核に近いような雰囲気になっています.
また,異常なほどのコピーをもっている点も特異的です.
バクテリアは細胞内にいくつかの遺伝子の複製をもつのですが,こいつの場合その数が70万コピー以上(要するに,馬鹿でかい1つの細胞内に,数十万個分のDNAのコピー(を包んだ核っぽいもの)がある)と,尋常じゃない複製数です.
なんというか中身的には,細胞膜による仕切りが無いだけで,多細胞生物みたいな雰囲気もあります.
(馬鹿でかい体の各所で,別々の核っぽいものがそれぞれ近場の領域での生化学的な活動を担っている感じか?)
何にせよ,生命科学分野はいろいろ面白い生き物が見つかって興味深いですよね.
以下では,わかりやすい局在磁性の話をします.
局在磁性というのは,固体中の動かない(移動しない)原子や分子の持つ(スピン)磁力が磁性の主原因となっているものになります.
磁石(強磁性,もしくはフェリ磁性)かどうか,というのは,スピンの集団的な性質となります.
一般的に,磁石(強磁性もしくはフェリ磁性)となるためには,
(1)個々の原子や分子がスピンをもっている
(2)隣り合うスピン間に,スピンの向きを同じ向きにしようとする強磁性相互作用(もしくは逆向きにしようとする反強磁性相互作用)が働く.
(3)相互作用が熱によるランダム化に十分勝つほど温度が低く,スピンが物質全体で整列する.
(4)整列の結果一方向に大きな磁化が生じる.
という条件を満たす必要があります.
大抵の有機物は(1)を満たさず,ほぼ非磁性です.(磁性をもつものもあります)
また,(2)の相互作用が反強磁性的な場合,個々の原子や分子が磁力を持っていてもトータルでは打ち消すような配置になることがあります(↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓など).この場合は反強磁性と呼ばれ,トータルでの磁力が無いので磁石にはなりません.これは(4)を満たさない場合ですね.
ただ反強磁性相互作用からでもスピンの配置によっては磁石を作ることは可能で,フェリ磁性と呼ばれます(詳細省略).
また,温度が高いと熱(=すべてをランダムにしようとする作用)に相互作用が負け,スピンの向きがバラバラになります.(3)を満たせない場合ですね.これもまた磁石にはなれません.氷に熱を加えると位置がランダムになって水になる,というのと同類で,相転移と呼ばれます.
相転移にはある程度の粒子数が必要で,また次元性も関係してきます.
このため例えば一列に並べたスピンの場合,どんなに相互作用が強くても絶対零度までスピン配列が固まることができません.つまり磁石になれません.
ということで,磁石を小さくしていくとどうなるか,ということですが,「強磁性とかフェリ磁性とか」という意味での「磁石」(ある方向に磁化を維持する状態)になるためにはある程度以上のサイズが必要であるため,原子や分子1個になると磁石にはなれません.
※ただし,電子1個でもスピンはあり「磁力」は持っています.
なお,『有限時間でスピンが反転するから厳密な意味での「磁石」ではないけど,緩和時間が非常に長いから「一見したところは磁石のように見える」』という「単分子磁石」というものはあります(とは言え,室温のような高温では測定不能なぐらいの速度で反転するので,磁石っぽく振る舞うのは低温に限られますが……).
こちらは
・ある程度の時間は磁化の方向が定まっている
・一定の磁力がある
という意味では磁石っぽいものの,統計力学的な意味での磁石ではない,というものになります.
厳密に説明しようとすると(説明できなくはないが)結構面倒です.
また,金属としての鉄の磁性は伝導電子による遍歴磁性になるため,固体物理のバンド理論の理解が不可欠となりますので,もうちょっと面倒です.(同じく説明は可能)
同じ組成・結晶構造の鉄が磁石だったりそうじゃないっぽかったりする(針を磁石でなぞると磁石になるが,なぞる前は磁石っぽくない)ことに関しては,「磁区」というものを調べるとわかりやすいかと思います.
違う結晶構造や違う組成の場合には,遍歴磁性であればバンド構造やキャリアがどこまで充填されているかの違いなどにより,磁性が変わることがあります.局在磁性でも,結晶構造が違えば相互作用が違ってくるので,磁石になるかどうかが変わることはよくあります.
>地下水源がメインなのかも
農業に関してはほとんどが深層の地下水(補充が少ないので使った分だけ無くなる),飲料水も半分ぐらいは地下水だったはず(残り半分近くが海水淡水化).
アメリカのグレートプレーンズと同様(というかそれ以上に),使い過ぎによる地下水の枯渇が著しくなってきているので,ここ最近は穀物類は輸入に切り替えるという決断になっていた覚えがあります.
#そして今回のロシアによるウクライナ侵攻で困る(原油は上がってるんで,トータルだとどうなのかはわかりませんが……)
今週号のNatureとScienceで気になった論文3つ.
(年度初めで忙しくて熟読はできない……)
1. Search for Majorana neutrinos exploiting millikelvin cryogenics with CUORE
著者多数, Nature, 604, 53-58 (2022).
CUOREによるニュートリノのマヨラナ性の探索に関する論文.
ニュートリノというのはおかしな粒子で,尋常ではなく軽い(しかしゼロではない)質量をもっている.ゼロならそれで問題なかったのだが,ニュートリノだけが(ゼロではなく)他の粒子に比べ格段に低い質量をもっている,という特殊性を(非常に極端な条件設定など無しで)説明するのは非常に難しい.それをうまく説明できる一つの解決策がシーソー機構と呼ばれるものである.
日々是ハック也 -- あるハードコアバイナリアン