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日記

phasonの日記: ミューオンの異常磁気能率にズレはない?(概略のみ) 1

日記 by phason

今週のScienceの記事経由でNatureのASAP論文(アクセプトされてオンラインでは公開されたけど,まだ巻号ページなどついてないやつ).

すでにいろいろなところで話題になっているが,ミューオンの異常磁気能率が標準理論の予測から外れているのでは?(=何らかの未知の物理があるのでは),という報告が出てきている.
これは物理学にとっては非常に素晴らしいことなのだが,ちょうど時を同じくして,「実は計算値の法が近似精度の問題でずれていて,ズレているという実測値は標準理論と一致するかも」という論文が出ている.

ということで論文を読んで……と言いたいところだが,さすがにこのレベルの計算の論文となると部外者にはさっぱりである.
曲がりなりにも読めるアブスト部分とか解説記事をまとめると,

・もともと,格子QCD(*1)を用いた計算で(先日報告された,以前の計算とはズレているという)ミューオンの磁気能率にほぼ一致するような結果も出ている.
・ただ,計算上の問題でエラーバーが非常に大きい状況であった.
・誤差に最も寄与が大きいのは,真空の分極(*2)である.
・ということで,結構大変なところまで計算に含めて,力任せにシミュレーションの精度を上げました.

という感じっぽい.

*1 本来,強い相互作用を記述する量子色力学(QCD)などは連続的な時空内で定義される理論であるが,連続空間内でのありとあらゆる経路の積分を取ることは難しい(というか,相互作用が強い場合には摂動論が適用できず計算できない)ためいろいろな近似が必要になったりする.そこで計算を簡略化するために時空を離散化してしまい,それらの離散化された点を結ぶ経路のみを考えよう,というのが格子QCDである(多分).
要するに,現実世界の代わりにヘックスという離散的な領域で区切ったマップでシミュレーションゲームやるのと似たようなものだ(暴論だが).
こうすると,空間がいくつもの領域(その領域の中心点で代表できる)と,その領域同士が接する面(格子点を結ぶ線)で再定義され,計算はその線を通る部分だけに簡略化される.
十分な定式化が可能であったら,最終的に領域サイズを無限小へと飛ばしてやれば,連続時空内での理論と一致するはずである.
ただし,格子化することで逆に面倒になる部分があったり,領域サイズを無限小に飛ばせる条件などもあったりするので,なんでも計算が楽になるわけではない.

*2 真空中に一時的に粒子-反粒子ペアが生じ,それが周囲と相互作用してからまた消えるような過程による効果.1次なら良いが,2次3次と相互作用が続いていくと,真空から出てきた仮想粒子がまた次の仮想粒子と相互作用して……など,考慮しないといけない相互作用の数が発散していく.高次の過程の寄与が急激に減少するような(=低次の過程だけで近似がよく合う)場合は良いが,徐々にずれが積み重なって結構高次まで計算しないと合わないような場合は計算量が増えて大変(というか計算できなくなったりする).

ということで,部外者にはよくわからない計算を力任せにぶん回したところ,過去の格子QCDの計算誤差の1/4ぐらい?(グラフから目算)の計算誤差にまで縮めることができて,その誤差範囲ギリギリ端っこぐらいのところに今回話題になっているミューオンの異常磁気能率の実験値(の誤差の端っこ)が来るよ,と.

今回の計算と,今話題になっている実験値のエラーバーの両端がギリ重なるかな,というところなんでプラスアルファ何か別の物理が隠れている可能性もあるが,どっちとも判断しにくい微妙なところに来るなぁ……

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