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NTT

von_yosukeyanの日記: 建築確認事務と民間解放 1

日記 by von_yosukeyan

http://workhorse.cocolog-nifty.com/blog/2005/12/post_957c.html

少し古い記事だが、馬車馬氏の素晴らしいエントリを読んだ。ほとんどの点で同意するものの、建築偽装問題は「規制緩和の問題」なのか、という点に関してはちょっと異論がある

一般的に、規制緩和とは従来あった行政法上の規制を撤廃または省略(緩和)すること(Deregulation)である。これに対して、平成11年に施行された建築基準法の第9次改正(平成10年法)によって、従来特定行政庁の独占事務であった建築確認事務及び検査事務は、大臣の認可を受けた特定行政庁以外の民間機関(指定検査機関)にも解放され、特定行政庁と指定検査機関の双方が確認・検査事務を行えるようになった。これは、行政の規制が撤廃または緩和されたのではなく、民間解放と言うべきものである

「規制緩和」と「民間解放」の違いが、今回の偽装問題にはどのような影響を与えるのだろうか。最大の問題点は、行政側の瑕疵がどの時点で発生したかによる。問題の原因が「規制緩和」であれば、規制緩和後の事務にはすべて瑕疵が存在する可能性があり、対策としては規制を再び強化することが重要になる。これに対して、民間解放が問題であれば特定行政庁の行う事務と、指定検査機関の行う事務に差異が存在することになり、一義的には指定検査機関が、結果的には指定検査機関を監督する国の責任になる

ところが、偽装問題では指定検査機関以外にも特定行政庁が行った建築確認にも問題があることが判明している。つまり、元々の建築基準法の規定にも問題があるかもしれないのだ

建築基準法は、「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的」(第1条。強調点は漏れによる)とする法律で、新たに建築物を作ったり、増改築を行う場合の手続を規定した行政法規である。その核となるのが、建築確認と検査(中間検査及び完了検査)であり、その内容には大ざっぱに言って単体規定と集団規定の二つがある

例えば、分譲マンションの例で見てみよう。分譲マンションは、デベロッパーが建築事務所(建築士)に設計を依頼し、設計(建築計画)を(大抵の場合は)建築事務所経由で、特定行政庁または指定検査機関に対して建築確認申請を行う。建築確認の内容は、建築物の地盤や構造、建築材料などが、地震や火災に対する耐久基準を満たしているかなどを審査する単体規定と、建築物そのものではなく建築物の周辺環境に適合しているかどうかを審査する集団規定の二つがある


#デベロッパーや建設会社から設計を引き受ける建築事務所(設計士)の大半が、設計の全てを行うのではなく、分業化が進んでいて機能ごとに下請けの設計事務所に仕事を割振る。大ざっぱに機能を大別すると、意匠設計(建物や内部のデザイン設計)、構造設計(建物の構造設計)、設備設計(ガスや水周りの配管やエレベーターや照明など電気設備などの設計)で、大抵の元受は意匠設計を行う事務所で、デザインを元に構造や設備の設計を割振る。一般的には、設計費用の6割から多いときでは9割が元受の意匠設計につぎ込まれ、構造や設備の設計の比重が低いことが日本の建築業界の実態である

建築確認申請がパスすると、確認済証が交付され実際の建築作業に入る。この建築作業の途中で、法によって指定される特定工程が完了した後に行われる検査が、中間検査である。建築物の規模や構造の種類によってこの特定工程は異なり、例えば、述べ床面積が1万平米を越える鉄筋コンクリートの建築物の場合には、基礎配筋工事と二階の梁と床の配筋工事の二回に渡って中間検査を行う。中間検査をパスして交付される中間検査証がなければ、特定工程の次の工程に入ることは許されず、この過程で建築確認時の単体規定の内容通りに工事が行われているかチェックされる

そして、建物の建築作業が完了したときに行われるのが、完了検査である。この完了検査をパスしなければ、建築物は使用を開始(住んだり、オフィスなどとして使う)することができず、また分譲マンションの場合には、買主に引き渡すことができない

以上のように、建築確認法による確認・検査事務は、主に建築確認、中間検査、完了検査の三つの時点で単体規定と集団規定に関して審査・認可を行う仕組みである。そして、その審査を行う機関こそが特定行政庁と呼ばれる公務員(一人一人が独立した行政機関)であり、主に都道府県または市町村に置かれる建築主事と呼ばれる特定の資格をもった人が担当する。平成11年改正法施工以後は、この特定行政庁以外に、国または都道府県が認可する民間機関である指定検査機関が、確認・検査事務を行えるようになったわけだ

さて、最初の設問に戻ろう。野党や一部の与党議員が吼えている「(平成11年の)建築基準法の改正が今回の偽装問題の原因」とする主張は、よく見ると「規制緩和が問題」と言っているわけではなく、民間解放が問題であると言っていると思われるし、実際に規制緩和云々と言っている議員も、民間開放を問題にしているようだから、とりあえず「民間解放は正しかったのか」という観点から見ていく

まず、責任所在の問題だが法的には11年法改正では、特定行政庁だろうと指定検査機関だろうと、行った確認・検査に違いはない。つまり、11年法改正での民間解放は、特定行政庁と同等の能力を持ち、国または都道府県が指定した指定検査機関が行った確認・検査を、特定行政庁が行った検査と同等な法的効力を持たせると規定しているわけで、法的な効力に違いはないといってもいい。例えば、違法な建築確認に対して取消を求める場合には、検査機関そのものに対して訴訟を起こすのではなく、建築確認事務を行う都道府県または市町村に対して訴訟を起こすことができる。判例も、マンションの建築によって景観が損なわれる(集団規定)として周辺住民が建築確認の取消を求めて横浜市を提訴したH17-6-20最高裁第二小法廷決定、判例時報1904-69は、民間機関が行った建築確認についても行政が責任を持つという判断を下している。続いて、H17-11-30横浜地裁判決は、下級審判決ながら、民間の行った検査に対して行政の損害賠償請求権を認める趣旨の判断を下している


#従来、行政が法により行政権限を与えている指定法人が行った行政処分に対し、行政事件訴訟法における抗告訴訟や国家賠償法における国家賠償訴訟の当事者になれることは当然であり学説の通説である。上記H17-6-20決定は、当初指定法人である指定検査機関に対して行った抗告訴訟を、行政に当事者を変更したもので、このような訴えの変更が認められるかが争われた

そして、特定行政庁も指定検査機関も、審査にかかる要件などの基準になるマニュアルには大きな差はない。つまり11年改正は、建築基準を「緩和」したわけではなく、瑕疵があるとすれば行政・民間双方に審査体制に元々瑕疵があったと思われる。実際には、建築確認だけでなく、中間・完了検査の双方でも漏れが発生しているわけだから、建築基準制度そのものに問題があると言ってもいいだろう

前にもこの日記で述べたが、日本のあらゆる法制度には「規制を緩和するほどの規制」が存在しない。会社法や、証券法などでは極めて顕著だが、法制度そのものが欧米と比較して未成熟なもので、単純に行政事務の一部を民間解放した場合、行政内部で蓄積されてきた経験則だとか慣習が、適切な「行政による監督」を伴わず、外部化してしまう事例が多い。どこまでが行政が行うべきで、最終的に規制による行政目的が不明確な規定も多い

それでも、これまで未成熟な法制度でも行政が回ってきたのは、行政が行う事前指導や、官製カルテルといった法に基づかない恣意的な運用方法が一応機能していたからだ。建築基準法で言うと、構造(単体規定)に関しては免許を持った建築士が設計を独占することで品質を維持し、行政の建築確認の大きな部分は、特に都市部では周辺規定(周辺の環境との調和や建築を認可することによる紛争の調停)に重きが置かれていた。しかし、現在のような建設不況・マンションの大量供給の時代となり、未成熟なままで放置されてきた法規定が実態に合わなくなってきた

例えば、建築主事の不足と特定行政庁の事務量の急増である。特定行政庁が独占してきた建築確認・検査事務は、公務員の数を増やせず、また元々高い俸給が望めない中、圧倒的な人員不足と急増する業務量に制度自体が機能しなくなってきた。その中で、11年法改正は民間解放によってサービスの供給量を増やして対処しようとした。ところが、供給量は増加したが確認・検査制度そのものの瑕疵(欠陥)に気づかないまま、供給量を増やしたことになる

建築偽装問題(建築確認)以前にも、中間・完了検査制度そのものについていくつかの問題が提起されている。例えば、欠陥のある建築材料の使用で、例えば規定量よりも多い水を足した欠陥コンクリート(水を多く入れるとコンクリートポンプで流しやすくなるので作業時間の短縮やバイブレーターの使用時間が短くなる)や、骨材に洗浄が十分ではない海砂利を大量に使用したために発生するコンクリートの中性化現象など、工事における手抜きを従来の制度では防ぐことができない。現在の要所要所(ある時点を切り取った)の検査で、検査の数を単純に増やすなどの対策ではなく、コンストラクション・マネージメントを法規制そのものに取り込むなど、制度そのものの抜本的な改革が必要だろう

加えて、馬車馬氏が指摘されているファイナンスによるカバーも重要だろう。欧米では、大規模な公共工事などでは、業者が破綻した場合のリスクヘッジのために、入札・工事履行証券を金融機関が発行し、業者が破綻したり瑕疵が発見された場合には、金融機関が工事費用を支払うボンド制度が存在する。民間の工事にこのような制度を使うのは難しいだろうが、例えば住宅ローン契約の締結時に、手数料や金利の中にこのような履行証券のコストを加えることで実現できるのではないか、と素人ながらに思う(セカンダリー市場で履行証券をABS/CLO化して流通させる、とか)。業者破綻や瑕疵が発生した場合、金融機関側も貸倒れが発生し、住宅ローン債権のデフォルト率も上昇するわけだから、住宅購入者だけでなく金融機関側にもメリットがある

さらに、コンストラクション・マネージメントとも絡むが、建築確認申請そのものを、申請者(建前上は建築主だが実態は建設会社や建築事務所)ではなく、分譲マンションなら分譲マンションの最終購入者に対する「サービス」という位置付けに法制度を転換する必要があるのではないか、と思う。論点はイロイロありそうだが、この分野から遠ざかって長いので、この辺りにしておきたい

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  • As to the forged document problem, has it something to do with 'the matter of deregulation'?

    Of course, not. You raised your question very appropriately.

    This is not what administrative regulations being abolished or deregulated, but say ' being liberated to public sectors.'

    Completely correct.

    There's "no regulations to deregulate" in Japan's overall judicial system

    But there are many regulations to deregulate in Japan's custom codes accumulated from empirical rules made by administrative body. So the most urgent task for us is to arrange the written law in brief

    --
    Ancient Greek Philosophers -18c Enlightenment Thinkers -Slashdotters
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