余談気味ですが、このあたりの問題についてiTunes Music Store [srad.jp]に注目しています。あれだけの規模で、(伝聞よると)内容も充実している、出だしも好調ということですから、今後のサービス拡大によってはアーティストや独立系レーベルによる流通にとっても追い風になる、現在の流通が抱える問題に風穴を開けるものになる...そんな期待感をもっています。
しかし、Grateful Deadはトップ10ヒットは87年のTouch of Greyまで待たなければいけなかったわけで、メジャーレーベルのおかげで有名になれたとは言えないと思うんです。彼らは地道なライブ活動と熱心なファンのボランティアによって最終的に経済的な成功を勝ち得たわけで、メジャーレーベルはむしろ搾取しただけだったように思います。Phishの場合も、いまどきプロモーションビデオも作らずに大きくなったわけでどいともこいつも相当な実績を持つ大物で、その知名度を活かして自主流通に弾みをつけるの範疇には入らないと思いますけれど。
The Policeの初期のアルバムのプロデューサー/エンジニアの、Nigel Grayという人物は医者が本業の録音マニア、メンバーもそれまで充分にレコーディングの経験があったわけで、そうして作った自主制作アルバムをMiles CopelandがA&Mに売り込んでます。同様の方法をとる者は多いでしょうし、Hotwiredの記事にあるようなレーベルの主張は、必ずしも事実に則しているわけじゃないでしょう。
Jaco Pastoriusのアルバム"Word of Mouth"(Warner)の場合、WarnerはJacoと契約するため要求されるままに大金を突っ込み大損、Jacoは"WoM"の不振で人生の転落に拍車をかけ、素晴らしいアルバム"WoM"だけが残ったという感じで... 個人的には「搾取」という表現には違和感を覚えるし、また極端な例で恐縮なんですが、レーベルは「搾取する」かもしれないけど「たかられる」ことも多いんじゃないか、と思うんですけどね。
レコード会社なんて (スコア:0)
という(ここでは)よく聞く意見の方々の反応に期待。
Re:レコード会社なんて (スコア:2, 参考になる)
搾取されるのを承知で、有名になるためにそれを受け入れるアーティストがいてもおかしくないし、現にそういうアーティストはいくらでもいるので、無意味ってことはないでしょう。
フランク・ザッパはメジャーレコード会社がことごとく数字をごまかしていることを証明し、訴訟に勝利して賠償金をぶんどり、業界全体が信用ならないということで最終的に自分でレコード会社を作って奥さんに経営させてましたよね。やろうと思えばできるわけだから、メジャーレコード会社に頼らずに活動すれば良いと思う。結局、ジャニス・イアンはメリット・デメリットをはかりにかけて、メジャーレコード会社に搾取されるこ
...芸というものは一生勉強だと思っています...
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
そういう論点で私が思い出したのは小林雅一の連載でした。具体的にはこれ、「第6回 音楽は誰の物?プリンスの挑戦」 [hotwired.co.jp]。はっきりと内容を憶えていなかったんだけど、読み返してみるとこのインタビューと重なる部分も多いですね。インタビュー形式よりも問題がわかりやすいかも、と思うので未読の方はそちらもご覧になってはいかがかな。
で、ここまで挙げられた例がZappa, G-Dead, Prince, Elton, Bowie, そんでもってJanisと、どいともこいつも相当な実績を持つ大物で、その知名度を活かして自主流通に弾みをつけるということなんだろうけど、「彼ら大物が大手流通に頼っていた頃の実績」と同程度の成功は難しい、ということだろうと思います。コスト面ではメジャーレーベルとははなから競争にならない、そこにいたる経緯によってはメジャーレーベルからの風当たりも厳しいかもしれない... まあ、当り前といえば当り前の話なんですが、成功例は少ない。
そこで気になるのは、そういう現状にもかかわらず挑戦する者が後を絶たないのはなぜなんだ、ということです。「隷属」「搾取」なんて言葉も、(金の問題というのもなくはないだろうけど)製造/発行/流通/販促といったもののほとんどの決定権がレーベル側にあって、皆深いいらだちを感じている、一旦Janisのいう「主流ルートをたどる」やりかたに入ってしまうと、発言したり行動に移すのは相当の大物でないと難しい...のではないかとも想像しています。
私は、メジャーレーベルのやり方を「搾取」というよりは「いよいよ切羽詰ってきている表れ」と見ています。
Zappaなりなんなりが昔からやってきたように、言いようによっては大昔から「搾取」だろうし、その度合いは昔の方が大きかったかもしれない、全体に占める「アーティストの権利(利益)」が少ないから「搾取」ではなくて、CDだとかなんとかには「アーティストの権利(利益)」以外の要素がいっぱいくっついている... そう見たほうがあっているような気がします。
で、インタビューにもあるようにメジャーレーベルは「ラジオの整理統合」「コピー・コントロール」「リッチ・コンテンツCD」、そういったものに積極的ですよね。
これは「現在宣伝などに大規模に投資し大規模に回収する、需要と供給を人為的に拡大する傾向が強まっており、(海賊問題の少ない地域では)開拓できるものは開拓し尽くしたが、いまだに市場規模を拡大しないとやっていけない、人為的に規模を拡大しすぎたため売上のわずかな減少が命取りになるかもしれない」、そういったことへの対処だと考えています。
(これはMicrosoftについても同様だと思っているんですが、どうなんでしょうね。分割論なんぞ出さなくても、MS自ら真剣に規模縮小について考慮しないとそのうちえらいことになるんじゃないかな、と思っているのですが)
そのあたりについてもっと突っ込んでくれるとかあればなあ、このインタビューではちょっと食い足らんかな、とは思いました。でもまあ、単に「搾取」とかいう言葉を持ち出して善悪を判定するよりも、もっといろいろ目を向けてくれ、と読み取ることができて面白かったです。
もう一つ、いろいろ試した末に「もうミリオンセラーはいらない、(自身の知名度などを考慮に入れれば)小規模レーベルがちょうどいい」というところに落ち着きそうだという話は興味深いです。ここでもメジャーレーベルの存在を前提にしていてまだ苦しいけれど、脱メジャーを目指す、という一点においてね。
余談気味ですが、このあたりの問題についてiTunes Music Store [srad.jp]に注目しています。あれだけの規模で、(伝聞よると)内容も充実している、出だしも好調ということですから、今後のサービス拡大によってはアーティストや独立系レーベルによる流通にとっても追い風になる、現在の流通が抱える問題に風穴を開けるものになる...そんな期待感をもっています。
# このコメント、今回紹介役だからもんだから多少ひいき目になってるかな... いや、かなりなってるね。はは。
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
紹介された記事を読んでみましたが、
これは必ずしも事実ではないですよね。契約にもよるのでしょうが、実質的にはレコード会社はレコーディング費用や販促費用を一時的にアーティストに貸すだけです。Janis Ianも指摘しているとおり、アーティストの収入はCD1枚について幾らみたいな単純計算にはなっていません。CDの売上から、レコーディング費用や販促費用を差し引いて、それからやっとアーティストの報酬が出始めるのです。
ボ・ガンボスの「どんと」が生前、ぼやいていた話で、ちょっと今ソースが見当たらないので正確な文章は書けませんが、こんなことを書いていました。「自分たちはライブハウスでライブをやっててそこそこ喰えていたんだ。そこにレコード会社のスカウトがやってきて、メジャーデビューしないかと言ってきた。で、デビューしたんだけど、なんかヘンなんだ。アルバムをレコーディングしたら、プロモーションのためにツアーを組まれるんだ、全国津々浦々にけっこう大きなハコで。俺たちは万人受けするバンドじゃないから、地方では客が入らない。で、ツアーを続ければ続けるほど、赤字になるんだが、その赤字を誰が払うかというと俺たちのレコードの売上からなんだ。飯を食うためにライブをしようとしても契約のためにできない。メジャーデビューしたことによって、俺たちはヒモになってしまったんだ。これじゃ続けてても仕方がないってことになって、やめちゃったんだけどね」
たしか、大槻ケンジがこの文章を週刊アスキーだったかに引用していたのを読んだので、ここでも読んだことがある人がいるかも知れない。
しかし、Grateful Deadはトップ10ヒットは87年のTouch of Greyまで待たなければいけなかったわけで、メジャーレーベルのおかげで有名になれたとは言えないと思うんです。彼らは地道なライブ活動と熱心なファンのボランティアによって最終的に経済的な成功を勝ち得たわけで、メジャーレーベルはむしろ搾取しただけだったように思います。Phishの場合も、いまどきプロモーションビデオも作らずに大きくなったわけでどいともこいつも相当な実績を持つ大物で、その知名度を活かして自主流通に弾みをつけるの範疇には入らないと思いますけれど。
...芸というものは一生勉強だと思っています...
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
マスターの複製権はほとんどの場合レーベルが死守していて他への影響が大きいから「隷属」のようにいわれることもわかるけど、レーベルにしてみれば、安易に複製権を与えていたら生産管理もままならずとんでもないコスト増になりかねない。今のところ判断できずにいるので割愛。で、印税契約と搾取についてなんですけど...
Circliveさんには釈迦に説法かもしれないけど、今後誰か知らん人が読むかな、と一応書いときます。あの記事で取り上げられているPrinceは、デビュー当時からマスター製作直前までのほとんどの作業を自分でこなしていましたし、デビュー前には多くのレーベルの争奪戦があったものの、後のAristaとの契約時と同じように「それをすることを認めた」Warnerが声をかけるまで契約を拒否していて、その状況で作られた作品で優れたレコーディング・アーティスト/ソングライターとして注目された人物です。
彼もレーベルのサポートをあまり受けずにレコード製作をしてきた、名声を得てきたといえます。しかしまったくレーベルのサポートがなければ"Purple Rain"前後のバカ売れはなかったでしょうし、バカ売れしなければ"Parade"のような作品は大失敗になっていたか、内容の妥協を強いられたか、そもそも発表できなかったかと思います。G-Deadの場合はレーベルが後からやって来て収穫されただけかもしれないけど、Princeの場合はレーベルをうまく利用してきた人なんですよね。
The Policeの初期のアルバムのプロデューサー/エンジニアの、Nigel Grayという人物は医者が本業の録音マニア、メンバーもそれまで充分にレコーディングの経験があったわけで、そうして作った自主制作アルバムをMiles CopelandがA&Mに売り込んでます。同様の方法をとる者は多いでしょうし、Hotwiredの記事にあるようなレーベルの主張は、必ずしも事実に則しているわけじゃないでしょう。
しかし、ほとんどのアーティストは(当然だけど)PrinceやG-Deadのようにできない。それだけの音楽的才能やレコード製作の経験を備える、うまくファンを獲得してコミュニティを形成するまでになる...そこまで期待するのは現実的ではないし、いうまでもなくそこにレーベルの存在価値がある。「それが正しいかどうかは別にして、少なくともレコード会社はそう考えている(Hotwiredの記事より)」のも当然だと思います。
ボ・ガンボスの事例は...お気の毒に、としかいえない。どのような契約なのか慎重に検討して、それでも搾取といえるような状況になったのを説明しているのなら別だけど、あれでは悔恨の言葉としか思えないもの。レーベルもボ・ガンボスも確たる見込みもなくやってしまった、うまくいかなかった...という昔々からある失敗の話で、損失補填を一方的に負わされる契約を受け入れてしまった失敗の話でしょう。逆に、レーベルがあの調子でアーティストを使い捨てて繰り返しても、リスクは大きいし効率が悪すぎます。
「そこそこ喰えていた、そこにスカウトがやってきて、メジャーデビューしないかと言ってきた」「メジャーデビューしたことによって、俺たちはヒモになってしまった」、その失敗を後進に伝えるのは重要だけど、「レーベルに関わると強いられる搾取」が原因のようにいっていては(注:どんと氏、あるいはCircliveさんの意図がそうであるかどうかはわからない)教訓は得られない。
で、ボ・ガンボスの(搾取の話じゃなくて)ツアー失敗の話として聞くと、なんだか「レーベルとアーティストが、『リスナーは無尽蔵にいる』と、お互いをごまかしあって延々とやってきた」ことの表れのように思えるんです。Zappaは筋を通そうとしたけど、アーティスト自身が言わないだけで...同じ穴の狢はいるんじゃないの、と思います。
Jaco Pastoriusのアルバム"Word of Mouth"(Warner)の場合、WarnerはJacoと契約するため要求されるままに大金を突っ込み大損、Jacoは"WoM"の不振で人生の転落に拍車をかけ、素晴らしいアルバム"WoM"だけが残ったという感じで... 個人的には「搾取」という表現には違和感を覚えるし、また極端な例で恐縮なんですが、レーベルは「搾取する」かもしれないけど「たかられる」ことも多いんじゃないか、と思うんですけどね。
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
うーん……ないとは言えないと思うけれど。
ある程度実績のあるアーティストであれば「たかる」ことも可能かも知れませんが、たかりっぱなしで他のレーベルに移ることはできないわけで。
たとえば、Grateful Deadは最初Warnerと契約したんです。西海岸の音楽シーンでJefferson Airplain(彼らはシングルヒットを出した)に次ぐバンドだったため、多額の契約金を支払い、レコーディングやプロモーションも大掛かりなものにしてくれちゃいました。結果は泣かず飛ばずで、Deadは借金に苦しむことになります。72年のヨーロッパ・ツアーの成功でようやく借金を返し終わり、独立して自主レーベルを創設することになるんです(自主レーベルの命もそう長くなかったわけですが)。
マライア・キャリーのレーベル移籍劇ってのは、要するに前作の失敗のために赤字として残ったプロモーション費用を払いたくないので移籍金で埋め合わせをしようとしたってパターンですよね。だから「たかり」っぱなしってのはJacoのケースみたいに、そこでアーティスト生命を絶たれちゃうケースに限定されていると思うわけです。
ボ・ガンボスのケースに関して言えば、彼らは新人アーティストだったわけですよ。プロモーション・ツアーの規模にしたって「いや、俺たちにはこのくらいのツアーが妥当だ」とか主張できるような経験なんかないわけで。プロモーション・ツアーの規模の決定の際に、意思決定に必要なだけの資料が提示されていたかどうか、かなり疑問です。当時はましてバンド・ブームでしたから「このくらいはあたりまえだよ」という雰囲気があったんじゃないですか(で、実際には契約上は絶対にレコード会社が損しないように出来ているという、ね)。
アーティストがレコード会社を食い物にしたケースは、そうさなあ、Lou ReedがRCAから「Metal Machine Music」を出したときはそうかも知れない。でも、そのツケを払ったのはLou本人ですよね。Terence Trent D'Arbyの2枚目とかもそうかなあ。でもやっぱり本人がツケを払っているような...
...芸というものは一生勉強だと思っています...