出た当初に調べたのですが… この件のおおもとの論文は Phys. Rev. Lett. のこれ http://prl.aps.org/abstract/PRL/v107/i8/e086101 [aps.org] であると思います.別刷りを取り寄せたわけではないので確証ないのですが,この論文では,電子軌道の対称性の識別をした.すなわち,sigma like なものと pi like なものを観察仕分けた.という論文だと思います.画像を見てもそういう気がします. それが引用していくうちに http://www.dvice.com/archives/2011/08/this-is-an-imag.php [dvice.com] ホモルモ展開していくわけですが,電子で占有されていないものを像にして観察するというのがおかしいような気がします. いかがでしょう. AFM,STM だとできるのだよ.みたいな記事あればあわせてご紹介いただきたく.
> その二:軌道,あるいはオービタル
まあ,先生おわかりになってると思うのですが,こういう像を“電子密度分布像”と呼ぶのか integral x*(r) x(r) dr と申しますか,波動関数の複素共役(?)との全空間での積分と申しますか. ともかく,“電子軌道像”とスラっというと論議を醸し出すことがままあります. なにか,いい案,いいコメントいただければと思います.
解説求む (スコア:0)
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/public/pdf/release_20101104.pdf [u-tokyo.ac.jp]
違いがよくわからない。詳しい人、解説をお願いします。
AFMで原子レベルの撮影ができたことに価値があるの?
Re:解説求む(長文) (スコア:5, 参考になる)
リンクを張られている記事は(走査型)透過電顕ですので,原理がだいぶ違います.
(走査型)透過電顕は電子線を非常に細く絞って薄膜状のサンプルに照射し,通り抜けてくる電子を観察することでその電子線の当たった位置にどの程度の散乱源(主に電子)が居たかを検出します.そのため電子数の少ない軽原子ほど見るのは難しく,水素を見るのは大変なことです.
一方,今回の論文で出てくるのは走査プローブ顕微鏡(SPM)という系列のもので,先の尖った針をサンプル表面に近づけ,そこに生じる何らかの相互作用を検出することで表面の凹凸やら物性変化やらを検出します.
SPMの中でも代表的なのが,トンネル電流を使う走査トンネル顕微鏡(STM)と原子間力顕微鏡(AFM)です.
STMは,導電性の基板の上にのせた分子などに導電性の針を近づけると,両者が接触する寸前にトンネル効果で微量の電流が流れる&電流量が針とサンプルの距離に対し指数関数的に減少する,というものを使います.このため,電流が一定になるように制御すれば,逆にサンプルの高さを高精度に測定することが出来ます.
STMで分子を見る場合,見えるのは実は分子の形状では無く,(フェルミ準位近くの)分子軌道の形状です.量子化学で取り扱われているように,分子内の電子は「軌道」と呼ばれる特定の形状に広がって存在しています(各軌道には,電子は2個までは入れる).STMではこの「軌道」の形状をダイレクトに観察することが出来るという利点がありますが,逆にフェルミ準位近傍の軌道の形以外は見えにくい,という欠点もあります.
例えば
http://www.chem-station.com/blog/2011/09/post-288.html [chem-station.com]
の最初の図を見ていただきたいのですが,分子自体は右下に重ね書きされたような形状なのですが,STMで観察しやすいのはHOMO(電子が詰まっている軌道の中で一番エネルギーの高い軌道)であるとか,LUMO(HOMOより一つエネルギーが高い,電子の入っていない軌道の中ではエネルギーが一番低い軌道)になります(図の左端とその隣).
HOMOやLUMOは化学的には非常に重要なためこれらが見える事は大変素晴らしいのですが,見てわかる通り,実際の分子内の結合とはだいぶ見え方が違います.
特にこの図に示されているような縮環系の芳香族分子(ベンゼン環などがいくつも繋がった分子)ではHOMOやLUMOの形状と分子内の実際の結合との見た目の違いが非常に大きく,STMで見えてくるHOMOやLUMOの図から分子の構造を見極めるのが難しくなります.
HOMOやLUMOから遠い軌道も一応見えないことは無いのですが,それが実際にどう見えるか?と言う部分を厳密に扱える理論は完成していませんので,「見えた像」が実際にどういう分子の構造に対応しているのか?という部分の解釈には怪しさが残ります.
トンネル電流を使うSTMに対し,AFMは原子が別の原子に近づいた時に生じる力を検出して表面形状を調べます.かつては針をサンプルに押しつけ,近づきすぎた原子同士が反発する力を検出していたのですが,これだとサンプル表面に強い力で押し当てられた針がサンプルを破壊してしまう,と言う問題がありました.
これを解決するものとして,最近はノンコンタクトAFM(nc-AFM)と呼ばれるものがだいぶ発展してきています.このnc-AFMというのは,原子がだいぶ離れたところで働くファンデルワールス力などの弱い引力を利用したものです.針をサンプルに近づけていくと,ある程度遠い位置でまず引力が働きます.これを高精度に検出することでサンプルとの距離を測定するわけです.
#針先を振動させておき,力がかかるとその共鳴周波数がずれることを利用する.
AFMでは原子そのものや,その周囲にいる電子による反発力の和を検出することが出来ます.このため,分子で言えば全電子の密度の和(HOMOだけでは無く,電子の入っている全部の軌道の和),のようなものを見ることが可能となります.この「全部の電子の和」は,いわゆる昔から図で書かれてきた化学結合とほぼ同じようになりますので,nc-AFMで高分解能の測定が出来れば,見えているものの中でどんな場所に結合があるのか?がくっきり見えるわけです.
これが威力を発揮するのが前述の縮環系芳香族分子です.STMでは分子全体に広がったHOMOやLUMOの奇妙な形状しか見えないのですが,nc-AFMならその中でどんな位置に結合が居るのか,がよく見えるため,実際の分子の形状をはっきりと決定することが出来ます.
じゃあ今回の論文はそうやってnc-AFMで結合がはっきり見えたのが凄いのか?というと実はそうではありません.nc-AFMでの結合の可視化は数年前に既に成し遂げられたものとなります.
じゃあ今回の論文の見所は何か?と言うと,そうやって分子の形状をくっきりと可視化したものを使って,化学反応の道筋を推定できた,と言う部分になります.
三重結合を多数持つ分子を加熱すると,分子内重合反応が起こって縮環系の芳香族化合物となります.STMだと出来上がった分子がどんな構造なのかがよくわからない(ぼやっと広がったHOMOやLUMOしか見えない)のですが,nc-AFMを使うことでどんな形状の分子なのかがしっかり決定でき,そこから反応の道筋も推定できたよ,と.
#反応の過程そのものを見たわけではありません.熱処理の前後の物質を,それぞれ別に観察しています.
まあ現時点では適用可能範囲は非常に狭いのですが,「新しい観察方法を使うことで,他の方法ではよくわからなかったことを解明できた」とい点で大きく取り上げられたという感じでしょうか.
僭越ではありますが,重箱の隅についてコメントいただければ… (スコア:3)
> その一:HOMO,LUMO
出た当初に調べたのですが…
この件のおおもとの論文は Phys. Rev. Lett. のこれ
http://prl.aps.org/abstract/PRL/v107/i8/e086101 [aps.org]
であると思います.別刷りを取り寄せたわけではないので確証ないのですが,この論文では,電子軌道の対称性の識別をした.すなわち,sigma like なものと pi like なものを観察仕分けた.という論文だと思います.画像を見てもそういう気がします.
それが引用していくうちに
http://www.dvice.com/archives/2011/08/this-is-an-imag.php [dvice.com]
ホモルモ展開していくわけですが,電子で占有されていないものを像にして観察するというのがおかしいような気がします.
いかがでしょう.
AFM,STM だとできるのだよ.みたいな記事あればあわせてご紹介いただきたく.
> その二:軌道,あるいはオービタル
まあ,先生おわかりになってると思うのですが,こういう像を“電子密度分布像”と呼ぶのか integral x*(r) x(r) dr と申しますか,波動関数の複素共役(?)との全空間での積分と申しますか.
ともかく,“電子軌道像”とスラっというと論議を醸し出すことがままあります.
なにか,いい案,いいコメントいただければと思います.
宜しくお願いいたします.
Re:僭越ではありますが,重箱の隅についてコメントいただければ… (スコア:2)
>この件のおおもとの論文は Phys. Rev. Lett. のこれ
>http://prl.aps.org/abstract/PRL/v107/i8/e086101
>であると思います.
高解像度でHOMO-LUMOの観察をやった,という論文はこちらでは?
http://prl.aps.org/abstract/PRL/v94/i2/e026803 [aps.org]
#pentaceneのHOMOとLUMOをSTMで見た,という図のreferenceとしてはこちらが引かれていたと思いますが.
>電子で占有されていないものを像にして観察するというのがおかしいような気がします.
STMでLUMOを見る,というのは良く行われていることだと思いますが……
HOMOを見る場合は,分子側から針側へ電子が移動するようにバイアスをかけますから,行き先は常に空(針の空の準位),出発点は分子のHOMOになります.移動できるのは針先の軌道がHOMOと十分大きな重なりを持った時ですから,HOMOの形状が見える.
LUMOを見る場合はバイアスが逆向きになりますから,出発点は常に埋まっている(針の占有準位),行き先は分子の空準位(=LUMO)となる向きに電子が移動します.針先の軌道と分子のLUMOの重なりが大きい時に電流が増えるため,LUMOの形状が見える.
もちろん実際には導電性基板の軌道とそこに乗せた分子の軌道とのカップリングが入ってくるんでごちゃごちゃするんですが,間に絶縁体の薄膜を挟むことで分子軌道が分離・独立し,きれいにHOMOやらLUMOが見える,ってのが前述のPRLの論文です.
>電子軌道像
・nc-AFMの場合(の斥力項)は全電子密度(波動関数の二乗,の和)から来るもので,軌道の像そのものでは無い.
・STMの場合は(針側の準位をのっぺりしたものと考えれば)サンプル側の軌道(サンプルの波動関数と探針の波動関数との積だが,探針側がのっぺりしていればそちらは定数としてくくり出せる)そのものの像(ただし,基板の軌道が混ざってくることが多い)
という事でよろしいでしょうか?
Re:僭越ではありますが,重箱の隅についてコメントいただければ… (スコア:2)
ありがとうございます.
HOMO/LUMO については“正のバイアスか負のバイアスか”ということを知りました.
それ以上は理解するには勉強が必要なようです.
ついでに (スコア:0)
リンク先の
http://www.chem-station.com/blog/2009/08/post-109.html [chem-station.com]
http://www.chem-station.com/blog/2010/08/post-176.html [chem-station.com]
とかも見ると、この分野の可能性がちょっと見えてくるかも。
Re:解説求む (スコア:2)
上のリンクで見えているのは原子ですが,今回の報告では価電子が見えています.
Re:解説求む (スコア:2)
「化学結合」を見える形にしたってのに価値があるんだと思う。
概念としては当然すぎるくらいのノリで存在してるし、誰も疑ってないけど、
実際に見たことはなかったから。多分。
そのリンクの奴も(水素の)原子核の位置(実際に測定してるのは電子かな?)がわかる
ようになっているけど、原子と原子の間の結合が見える形にはなってない。
というか、普通に考えれば原子核を見ても原子核の位置しかわからないし、
電子を全体的に見たとしても化学結合に関わる電子ってそんなに多数派じゃない
(水素が作る共有結合は微妙かも)から、電子を見ても普通は結合を見てるって感じには
ならず、原子核周りにいる多数派が見えて、結局原子核の位置がわかるだけだと思う。
今回のコレは非接触型のAFMで原子間力(vDW力…と言うより分散力というほうがいいのか)で
見てるんだと思うんだけど、今回はサンプルにπ結合系なものをつかってるとこがポイント
なんだと思う。π電子が多くいるところとか共役してるようなところは分散力が大きくなるから、
(詳細略)それをうまく測定してやることで、ある意味結合の位置を測定することができる、
ってことな気がする。絵で明るいところはよりπ電子が多く集まってるところで、理論予測、
計算結果とも一致すると思う。
ついでに、逆に言うと今回の方法であらゆる結合を見えるってわけではないはず。
この方法ではσ結合は厳しいんじゃないかな。
# 本文読んでない上に専門からはちょっと遠いけどID
# 自分のコメント間違っていてもきっとphasonさんがなんとかしてくれるwww