ただまぁ今回の実験については、あくまでエンドトキシンとの相関のみを(計測上の関係があるとはいえ)見てるので、実際に効いてるのがエンドトキシンなのか、それともそれと常に相関してる別のものなのかは判らないです。個人的には、綿ぼこりみたいに乾燥したものなら、むしろグラム陽性菌の方が優勢になるんじゃないの?とか、もっとありそうなのは(上でも指摘ありますが)カビの影響があるんじゃないの? とか。特にカビ(真菌)の細胞壁多糖には免疫賦活作用があることが結構古くから知られてますし(まーこれもいずれ、Toll様受容体かその近くに行き着くのかもしれませんが)
それとまぁ、これはかなり個人的なイメージなんですが、コホート内症例対照研究(Case-control study nested within cohort)って手法に、まだいまいち信頼しきれないところを感じてたりして(どうも話がうますぎて ^^;)
その差0.0115% (スコア:2, 興味深い)
母数が分からんけど、これって有意な数字なのかな。
Re:その差0.0115% (スコア:3, 参考になる)
「有意差がある」ってのはそれぞれのグループの母集団に「差がある」という定性的なものを見てるもんなんで、極端な話、標本数が極端に大きければ、1あったものが0.7になろうが、0.8だろうが、0.98だろうが、「統計的に有意」ってことはありえます。そういう意味で、有意差は大事なことは大事なんだけど、「有意差がある」だけで判断するのも良くないんですね。「有意差がある」のは初めの一歩として、実際にどれだけ下がったか(上がったか)というところまで考慮する必要があり、その指標の一つがオッズ比(odd ratios, OR)と95%信頼区間(95% confidence intervals, CI)です。今回の原報ではHR(Hazard ratios)って言ってますが、まあ同じものですね。
この手の疾患のリスクファクターを見る場合、大体はオッズ比またはその逆数が1.5以上の(0.7以下に下がったり、1.5以上に上がったりした)場合に、「単一のリスクファクターとしても意味がありそう」という判断になることが多いようです。それと信頼区間があんまり広すぎないこと、ですね(この幅が大きいとそもそも有意差がつかなくなりますが)。後は、用量−反応曲線を見たときに用量依存になっているとかでデータを補強したり(U字や逆U字型のことも結構あるんで、必ず上手くいくというものではないですが)。
今回の場合、実際に実験での比較対照となった群(最近流行のコホート内症例対照でやってるので、そういうのが設定されるんですが)との間で、HRが0.60、CIが0.43-0.83ということなんで、とりあえず「意味のある差」とは言えそうです。で、記事中で出てる「0.0191%」ってのは市中での発生件数なんで、これと直接比較していいか、と言われると問題あるんですが、まぁ無理矢理比べると。オッズ比 0.0076/0.0191 = 0.4ですから一応は下がったと考えてよさそうで、しかも先の実験内のデータと「矛盾はしない」ので、まぁ比べた結果に言及してもいいかな、という感じですね(論文のdiscussionとかで)。
で、疫学調査の常として、今回の調査結果から実際に「エンドトキシンの暴露量が多いほど肺がんリスクが下がる」と言えるかというと、まだ「追試を待つ必要がある」という判断になるかと思います。平たく言うと、単回の調査の場合調査対象はあくまでその「母集団」であるので、例えば、今回の場合「上海在住の、調査対象とした年代の女性について」は正しい結果なんだろうけど、私たちを含んだ「世界中の人々」にまで一般化できるかどうかはまだ判らない。だから、いろんなグループが追試することでそこらへんが明らかにされる、ということかと。それと、もちろんリスクファクターを元にして、基礎的な動物実験でメカニズムの方を詰めたり、実際にヒトでの介入試験をやるのが理想的ではありますが……今回は介入試験やるのが難しいでしょうね。
エンドトキシンが免疫系の効果を高めるってことを著者らが言及してるのには、最近、Toll様受容体 [wikipedia.org]の機能が大きなトピックとして注目されている、ということが大いに関係してると考えるのが自然でしょうね。自然免疫系に関与している細胞膜(およびエンドソーム内)受容体で、細胞外のエンドトキシン(=リポ多糖:グラム陰性菌の外膜成分)の他、結核菌の細胞壁成分(リポアラビノマンナン)、ウイルスなどの核酸成分(dsRNA, ssDNA、非メチル化DNAなど)を感知して、抗ウイルス性インターフェロン合成などの多彩な生理作用を発現させるものです。まぁ、今回の著者らの主張をそのまま受け入れるのであれば、「清潔すぎる環境だと却って抵抗力(免疫力)が落ちる」という、「抗『抗菌指向』派」の主張を後押しするものになるかもしれないですね。
ただまぁ今回の実験については、あくまでエンドトキシンとの相関のみを(計測上の関係があるとはいえ)見てるので、実際に効いてるのがエンドトキシンなのか、それともそれと常に相関してる別のものなのかは判らないです。個人的には、綿ぼこりみたいに乾燥したものなら、むしろグラム陽性菌の方が優勢になるんじゃないの?とか、もっとありそうなのは(上でも指摘ありますが)カビの影響があるんじゃないの? とか。特にカビ(真菌)の細胞壁多糖には免疫賦活作用があることが結構古くから知られてますし(まーこれもいずれ、Toll様受容体かその近くに行き着くのかもしれませんが)
それとまぁ、これはかなり個人的なイメージなんですが、コホート内症例対照研究(Case-control study nested within cohort)って手法に、まだいまいち信頼しきれないところを感じてたりして(どうも話がうますぎて ^^;)
Re:その差0.0115% (スコア:1)
以下、正誤表ですが