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犯人はmoriwaka -- Anonymous Coward
質問。 (スコア:1, 興味深い)
遺伝子導入だとすると、iPS細胞の作り方(繊維芽細胞に遺伝子導入してES細胞っぽいのを作る)とのアプローチの仕方の違いはあるんでしょうか。
あとin vivoってことは、臓器つくってる細胞に直接遺伝子導入して、そのまま分化させるってことでしょうか。
ってことだとすると、分化させた細胞が機能的になるほど数が増えるまでどのくらい時間がかかるんでしょうか。
論文読める人、教えてください~。
Re:質問。 (スコア:4, 参考になる)
Fig.1に実験のストラテジーの概略が書いてありました。アデノウイルスベクターに、転写因子を何種類か(最終的には要旨にある3種類)組み合わせたものを使い、それを直接マウスの膵臓に注射し、膵臓の細胞に発現させてます。ついでに言うと、プロモーターには、CMVプロモーター(サイトメガロウイルス由来、恒常的かつ非常に高い遺伝子発現にするときによく使う)を付けてます。
アデノウイルスベクターの特長は、昔のコメント [srad.jp]にも書きましたが、一過性かつ高効率での遺伝子導入ができるところにありまして、いわゆる遺伝子治療ではよく用いられるウイルスベクターです。iPSの場合はレンチウイルスベクター(レトロウイルスベクターに似るが、ヒトでの効率が改善されてる)が用いられましたが、結局のところ、導入した転写因子はサイレンシングして、出来上がった細胞で発現しつづけているわけではなく、分化した細胞から未分化なiPSが出来るときの短期間だけ働けば十分だ、というのが現在の主流な考え方のようです。なので、アデノウイルスベクターのように一過性の発現であっても上手く出来たというのは、なるほど、といったところではあります。ただ、今回のは幹細胞を経由してないようだ、という点がちょっと驚きというか…。
Re:質問。 (スコア:4, 参考になる)
というわけで(でもないけど)、もう少し補足。
kahoさんのコメントにもありますが、今回の手法はin vivoでの遺伝子導入をしている点でiPSとは大きく異なります。iPSの場合、(1)まずヒトの正常組織から線維芽細胞を作製し、(2)それに遺伝子導入してiPSを作り、(3)それを適切な条件で目的の細胞に分化させて必要な部位に戻す、というのが、恐らく主流なストラテジーになります。(もっとも、(3)を行わずにいきなりiPSを導入して、後は生体内ニッチに適応してiPSが勝手に求められてる細胞に分化するのを待つ、という戦略もあるでしょうが)。これに対して、今回のヤツは(1)膵臓に目的の遺伝子を含むウイルスベクターを注射する、というだけなので、手法の簡便さの面で、天と地ほどのメリットがあります。ただ、今回の手法はあくまで膵β細胞への分化だけを見たものなので、他の細胞にそのまま応用ができるわけではありません。この点、iPSは少なくとも理論上はすべての細胞に分化可能なので、その点で現状一歩リードしてます。ただまぁ、これについては、今回の手法で可能性が示されたため、他の細胞への応用についての研究も増えていくことでしょう。
あと、安全性について言えば、現時点ではまだどっちがどうだ、とは言えないところですね。一般にESやiPS細胞の場合、未分化になった細胞が癌化する可能性が指摘されてまして。最初のiPSの作製に使用された遺伝子の一つで、癌遺伝子であるc-mycは、入れなくても(効率は落ちるものの)iPSの作製が可能であることが報告されましたし、また上述のようにレンチウイルスベクター(これはゲノムに入るため、宿主の癌抑制遺伝子の部分にたまたま入って機能を潰し、癌化させる可能性があった)以外の遺伝子導入法も検討されてましたが、それでもやはり幹細胞から癌が発生する可能性というのが指摘されてました。今回のケースは、そこまで未分化な細胞が出来ないようなので、もしかしたら発癌のリスクは下がるのかもしれませんが…こればっかりはもっと長期見ながら追試しないと何とも言えないですから。
それから時間については、今回のマウスの実験では遺伝子導入後3日目から細胞が出現しはじめ、10日目には通常レベルと変わらないくらいになったそうです。これもiPSと比べると非常に大きなメリットだと言えるかと。