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メタマテリアル云々は飛躍しすぎかと.元論文での報告は「金ナノ粒子をいい感じに繋ぐ手法が出来た」ぐらいの感じで.
様々なナノマテリアルが開発されていますが,これらの材料にありがちな難点はサイズや形状の制御が難しい,と言う点です.#ただしDNAなどのきっちり構造が決まった分子などを除く.
もちろん一個だけ出来れば良いならSTMでも何でも使って作りようはあるのですが,「きっちり構造が決まった複雑な構造を,多量に作る」という量産は至難の業です.単なるナノ粒子だとかなら単分散のものは作りやすいんですが,それを一定の間隔に並べるだとか,全体として三角錐にするだとか,そういうのが難しいわけですね.で,今回報告されたのは,「金ナノ粒子を溶接出来て,しかも溶接箇所のサイズが精密にコントロールできる」というものです.溶接箇所のサイズって何だというと,例えば球二つを溶接する事を考えてください.球を押しつけながら接点を長時間高温にすると,じわじわ溶けていって広い面積でくっついたひょうたん型のものが生成します.溶接時間が短ければ,球の末端のほんの狭い領域だけが溶接された構造が出来ます.この違いが溶接サイズの差です.
今回使われた手法では,サイズをきっちり揃えた金ナノ粒子を作っておいて,こいつをCucurbit[7]urilという分子で繋ぎます.この分子はリング状の分子で,上下の部分で金ナノ粒子にくっつく性質があります.この時うまいこと条件を揃えると金ナノ粒子が1次元状に連なった構造をとることが以前に報告されており,これにより「金ナノ粒子が連なったチェーン」を作る事が出来ます.
で,ここにレーザーの単パルスを照射します.すると金ナノ粒子はこのパルスを非常に強く吸収するわけです.これはナノサイズの金・銀・銅が非常に強い表面プラズモン(電子の集団励起による電荷の振動のようなもの)による吸収を示すためです.この表面プラズモンの効果,二つの接近したナノ粒子に挟まれた領域で極端に強くなることが知られており,ここでの電場強度はそれ以外の点より何桁も強くなります.
今の系では,金ナノ粒子が「分子一個」という非常に狭い間隔で隣接しているため,この部位での電場強度が尋常じゃなく強くなります.この結果,接点付近の原子が電場で大きく振り回され,隣の金粒子とついには融合してしまいます.これがナノサイズでの「溶接」となるわけです.この過程を溶液中で,多量に分散している金ナノ粒子(が集まった1次元構造)に対して行うと,ナノ粒子を溶接してチェーン状にしたものが多量に生産可能となります.
この表面プラズモンの励起波長は,チェーンの幅(=ナノ粒子の直径)や長さの影響を非常に強く受けます.また今回の場合,ナノ粒子同士の融合が進んでいく(=溶接部分の幅が広がる)事でも共鳴波長がずれます.今回の論文ではこれを利用して,溶接部分の幅を14 nmから24 nm程度まで,1 nm刻みで作り分けることに成功しています(もちろん多少のばらつきはある).これだけ高精度に粒子の融合度合いを制御しながら量産できる,というのはなかなか無い方法です.#この精密な作り分けは,チェーンではなく金ナノ粒子の二量体で行われています.#チェーンですと後述のように長さの効果も入ってきてしまうので,そう簡単ではなくなる.
(今回の論文では行われていませんが)この表面プラズモン,チェーンの長さにも依存しますから,将来的には特定の長さの1次元鎖を作成する,なんてことも出来るかも知れません.
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あつくて寝られない時はhackしろ! 386BSD(98)はそうやってつくられましたよ? -- あるハッカー
飛躍しすぎ (スコア:4, 参考になる)
メタマテリアル云々は飛躍しすぎかと.元論文での報告は「金ナノ粒子をいい感じに繋ぐ手法が出来た」ぐらいの感じで.
様々なナノマテリアルが開発されていますが,これらの材料にありがちな難点はサイズや形状の制御が難しい,と言う点です.
#ただしDNAなどのきっちり構造が決まった分子などを除く.
もちろん一個だけ出来れば良いならSTMでも何でも使って作りようはあるのですが,「きっちり構造が決まった複雑な構造を,多量に作る」という量産は至難の業です.単なるナノ粒子だとかなら単分散のものは作りやすいんですが,それを一定の間隔に並べるだとか,全体として三角錐にするだとか,そういうのが難しいわけですね.
で,今回報告されたのは,「金ナノ粒子を溶接出来て,しかも溶接箇所のサイズが精密にコントロールできる」というものです.
溶接箇所のサイズって何だというと,例えば球二つを溶接する事を考えてください.球を押しつけながら接点を長時間高温にすると,じわじわ溶けていって広い面積でくっついたひょうたん型のものが生成します.溶接時間が短ければ,球の末端のほんの狭い領域だけが溶接された構造が出来ます.この違いが溶接サイズの差です.
今回使われた手法では,サイズをきっちり揃えた金ナノ粒子を作っておいて,こいつをCucurbit[7]urilという分子で繋ぎます.この分子はリング状の分子で,上下の部分で金ナノ粒子にくっつく性質があります.この時うまいこと条件を揃えると金ナノ粒子が1次元状に連なった構造をとることが以前に報告されており,これにより「金ナノ粒子が連なったチェーン」を作る事が出来ます.
で,ここにレーザーの単パルスを照射します.すると金ナノ粒子はこのパルスを非常に強く吸収するわけです.これはナノサイズの金・銀・銅が非常に強い表面プラズモン(電子の集団励起による電荷の振動のようなもの)による吸収を示すためです.この表面プラズモンの効果,二つの接近したナノ粒子に挟まれた領域で極端に強くなることが知られており,ここでの電場強度はそれ以外の点より何桁も強くなります.
今の系では,金ナノ粒子が「分子一個」という非常に狭い間隔で隣接しているため,この部位での電場強度が尋常じゃなく強くなります.この結果,接点付近の原子が電場で大きく振り回され,隣の金粒子とついには融合してしまいます.これがナノサイズでの「溶接」となるわけです.この過程を溶液中で,多量に分散している金ナノ粒子(が集まった1次元構造)に対して行うと,ナノ粒子を溶接してチェーン状にしたものが多量に生産可能となります.
この表面プラズモンの励起波長は,チェーンの幅(=ナノ粒子の直径)や長さの影響を非常に強く受けます.また今回の場合,ナノ粒子同士の融合が進んでいく(=溶接部分の幅が広がる)事でも共鳴波長がずれます.今回の論文ではこれを利用して,溶接部分の幅を14 nmから24 nm程度まで,1 nm刻みで作り分けることに成功しています(もちろん多少のばらつきはある).これだけ高精度に粒子の融合度合いを制御しながら量産できる,というのはなかなか無い方法です.
#この精密な作り分けは,チェーンではなく金ナノ粒子の二量体で行われています.
#チェーンですと後述のように長さの効果も入ってきてしまうので,そう簡単ではなくなる.
(今回の論文では行われていませんが)この表面プラズモン,チェーンの長さにも依存しますから,将来的には特定の長さの1次元鎖を作成する,なんてことも出来るかも知れません.