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まず,この著者の主張は「ダークマターの正体がガス状銀河だった」というものではありません.
ダークマターの問題はそもそも,銀河における天体の回転速度と,銀河の推定質量との食い違いに始まります.つまり,銀河の質量がある値と推定できると,そこをある半径で周回している星の速度は一意に決まるはずが,観測された天体の速度がそれよりも速かったのです.単純にニュートン力学から言えば回転速度が速すぎる星はすっ飛んでいきますから,これを解決する手段が必要でした.
主流はダークマター派です.こちらは「光学観測には引っかからない何かがいて,実際の銀河の質量は我々の推定より重いんだろう」というものです.この「見えない成分」が何かというのはいろいろ議論が行われ,かつては褐色矮星やブラックホール(いずれも現在では寄与が小さいと判明),後にはニュートリノ(質量を持つことは明らかになったが,多分それでも足りない),はたまた超対称粒子その他などが寄与していると言われています.
もう一方の少数派は,「むしろ重力に補正項があるんじゃないの?」という修正ニュートン力学(MOND)と呼ばれるものです.元々重力というものは非常に弱く,それが逆二乗に従うというのはごく狭い領域(数メートルから,太陽系程度のサイズ)でしか実験的検証はなされていません.つまり,それより大きいサイズ(そして今回は関係ないけれども統一理論的には小さいサイズが関わってくる)では精密な検証はありません.あくまで「ご近所で逆二乗によく合うから,遠くまでそうなんだろう」という予想です.ここを突いて,「いや,遠距離では実は重力は補正項が付いてもうちょっと減衰が遅く(=遠くてもそこそこ重力が強く),だから星が速く周回していてもすっ飛んでいかずにいられるんじゃない?」という提案をしています.
これまでの観測結果から行くとMONDは劣勢で,精度の高い観測が行われる度理論の修正(そしてその適用域の後退)が続いており,かなり苦しい状況でした.そんな中今回の著者らが発表しているのは,「重量やら周回速度の推定がしにくい通常銀河じゃなく,もっとそれらが分光学的にわかりやすいガス銀河に対して重量と回転速度の分布を調べたら,MONDの予測によくあったよ!」というものです.つまり,「ガス銀河がダークマターの正体」ではなく,「ガス銀河を使って検証したら,ダークマターじゃなくMONDの方があってた!(ように見える)」というものです.
なるほど、「修正ニュートン力学」の後退がガス銀河で止まったわけか。でも今までの後退が取り返せる話じゃないような。
> これまでの観測結果から行くとMONDは劣勢で,精度の高い観測が行われる度理論の修正(そしてその適用域の後退)が続いており,かなり苦しい状況でした.天動説に似てますね(観測の精度が増すたびに周転円が増えていく)。
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※ただしPHPを除く -- あるAdmin
タレコミはかなり誤解している (スコア:5, 参考になる)
まず,この著者の主張は「ダークマターの正体がガス状銀河だった」というものではありません.
ダークマターの問題はそもそも,銀河における天体の回転速度と,銀河の推定質量との食い違いに始まります.つまり,銀河の質量がある値と推定できると,そこをある半径で周回している星の速度は一意に決まるはずが,観測された天体の速度がそれよりも速かったのです.単純にニュートン力学から言えば回転速度が速すぎる星はすっ飛んでいきますから,これを解決する手段が必要でした.
主流はダークマター派です.こちらは「光学観測には引っかからない何かがいて,実際の銀河の質量は我々の推定より重いんだろう」というものです.この「見えない成分」が何かというのはいろいろ議論が行われ,かつては褐色矮星やブラックホール(いずれも現在では寄与が小さいと判明),後にはニュートリノ(質量を持つことは明らかになったが,多分それでも足りない),はたまた超対称粒子その他などが寄与していると言われています.
もう一方の少数派は,「むしろ重力に補正項があるんじゃないの?」という修正ニュートン力学(MOND)と呼ばれるものです.元々重力というものは非常に弱く,それが逆二乗に従うというのはごく狭い領域(数メートルから,太陽系程度のサイズ)でしか実験的検証はなされていません.つまり,それより大きいサイズ(そして今回は関係ないけれども統一理論的には小さいサイズが関わってくる)では精密な検証はありません.あくまで「ご近所で逆二乗によく合うから,遠くまでそうなんだろう」という予想です.ここを突いて,「いや,遠距離では実は重力は補正項が付いてもうちょっと減衰が遅く(=遠くてもそこそこ重力が強く),だから星が速く周回していてもすっ飛んでいかずにいられるんじゃない?」という提案をしています.
これまでの観測結果から行くとMONDは劣勢で,精度の高い観測が行われる度理論の修正(そしてその適用域の後退)が続いており,かなり苦しい状況でした.
そんな中今回の著者らが発表しているのは,「重量やら周回速度の推定がしにくい通常銀河じゃなく,もっとそれらが分光学的にわかりやすいガス銀河に対して重量と回転速度の分布を調べたら,MONDの予測によくあったよ!」というものです.つまり,「ガス銀河がダークマターの正体」ではなく,「ガス銀河を使って検証したら,ダークマターじゃなくMONDの方があってた!(ように見える)」というものです.
Re:タレコミはかなり誤解している (スコア:1)
なるほど、「修正ニュートン力学」の後退がガス銀河で止まったわけか。
でも今までの後退が取り返せる話じゃないような。
the.ACount
Re: (スコア:0)
> これまでの観測結果から行くとMONDは劣勢で,精度の高い観測が行われる度理論の修正(そしてその適用域の後退)が続いており,かなり苦しい状況でした.
天動説に似てますね(観測の精度が増すたびに周転円が増えていく)。
Re: (スコア:0)
どっちかというとMONDよりダークマターの方が壮大な周天円のような気がするんですが。