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新しいのは、生態学の手法の応用という部分だと思います。 WSJの記事を読んだだけでウンザリして調べる気ゼロなので、 以下の解説は信じないでください。
この研究は、proto-World仮説、つまり世界の言語の起源は 1つだという仮説によっています。 僕たち保守的な歴史言語学者からみると、 比較による再建という標準的な手法があつかえる時間の壁の向う側にある問題です。 そこで、もし挑もうとすると、 非標準的な方法を使うか、他の分野から方法を借りるかしなければなりません。 例えば、生物学者のCavalli-Sforza のグループは、 分子生物学の手法を使って、言語分岐の樹形図を作っています。 ただし、系統による類似と接触による類似が区別されていないという批判があります。
生態学の手法で歴史言語学に応用されることが多いのは、 多様性があるところが原産地だという考えです。 例えば、英語の方言は、イギリスの方がアメリカより多様です。 背景にあるのは、選択について中立的な変異は残っていくということです。
今回のものはこれとは別で、 分岐していくと複雑性が下がるという考えがもとになっているようです。 背景にあるのは、小集団の方が変化しやすいということと、 単純化の方が複雑化より起こりやすいということです。 生物については、遺伝子が働かなくなる単純化の方が、 遺伝子を流用したり、二重化して改変したりする複雑化より起こりやすいのですが、 同じことが言語について言えるかは疑問があります。 また、複雑性の指標として音素の数を使うことも疑問です。
音素というのは、その言語の中で同じ音とみなされているものを集めたものです。 例えば、「座視」「視座」と自然に発音してみてください。 前者のザの子音は [dz] で舌が歯茎の裏に付いているはずですが、後者は [z] で付いていないはずです。 こういう音をまとめて /z/ とみなします。 また、同じ音でも頭の中のある文法によって音素になったり、音素の下の単位の異音になったりします。 例えば、フの子音は [Φ] です。 これは、「ファン」を 2拍で読める人にとっては /h/ と区別できる音素ですが、 3拍でしか読めない人にとっては /h/ の異音です。 そこで、音素の数だけではなく、異音の使い分けまで考えなければ、 音韻体系の複雑さは十全には分かりません。
音素の数は変化します。減るだけでなく増えることもあります。 例えば、 カエサルのころのラテン語の母音の数は 17個 (長短区別、重母音・外来音含む) で、 これが 7個まで減り、紆余曲折があって、 フランス語の古典期には 16個になって、現在は 11個に向けて減少中です。 また、上で括弧内に限定を付けたように考え方や分析者によって数が変わります。 たぶん今回の研究は、 音韻論のデータベースを使っているはずですが、 既存の研究を入力しているので、分類する基準にばらつきがあります。 つまり比較するときには注意が必要です。 とはいえ、20から40個ぐらいが普通で、10個強から100を越えたぐらいまでの範囲になります。
語族 (共通の祖語をもつ言語の集合) によって、 音素の数が多い少ないという傾向はあります。 これには、祖語の音素の数が影響します。 サブサハラの言語の大部分は、ニジェール・コンゴ語族に属しています。 この祖語は比較的音素が多いものとして再建されています。 他にはコイサン諸語があるのですが、語族の中には異常に音素の多いものもあります。 これはクリック音があり、同時調音子音もあるという言語の構造によっています。
音素の数には、集団の小ささと内部のネットワークの濃さも関係しています。 小さな集団の場合には音素の数が維持されやすい傾向があります。 そのため、コーカサスやオーストラリアに音素の数が多い言語がポツリポツリとあります。 逆に、大きな集団になると方言間の接触が多い場合に音素の数が減ることがあります。 現代フランス語で音素が減りつつある理由の 1つがこれです。
この研究は、 音素の数を複雑性の指標にして、言語が移動して分岐すると複雑性が減る としているようです。 しかし、このような分布は各地域の祖語の音素の数と話者集団のサイズでも説明ができます。 例えば、サブサハラの音素の数の多さは、 ニジェール・コンゴ祖語などからの継続性と話者集団の小ささによるとも考えられ、 これらが世界祖語での性質を残しているためだと考える必然性はありません。 同じように太平洋に音素の数の少ない言語があることは、 アウストロネシア語族ポリネシア諸語の祖語での音素の少なさで説明できます。
;; 言語の起源や語族より上のレベルの系統関係の研究は、 ここのところ言語学でも盛んで、論文も沢山でています。 ところが、こういう言語学以外の人のアイディア一発勝負的な論文は、 IF が低いとかアクセプトに時間がかかるとかということもあって、 言語学の雑誌には投稿されないんですよね。 で、IF の高い、けどウサンくさいのも載せるものにアクセプトされて、 メディアに流れる。 もっと良質の研究はあると思うんだけど……。
音素というのは、その言語の中で同じ音とみなされているものを集めたものです。例えば、「座視」「視座」と自然に発音してみてください。前者のザの子音は [dz] で舌が歯茎の裏に付いているはずですが、後者は [z] で付いていないはずです。
私は違うようなので、研究してみてください。
# 思いこみだけで研究するのはよくないよ
オレは違ってない。でも、舌の動きが違っても音の違いになるとは限らないから、音自体で説明して欲しいもんだ。たとえば九官鳥の言葉で、音自体のスペクトルは人の発音とまるで違うけど同じに聞こえる・・とか。もちろん、九官鳥の言葉は舌なんか使ってない。
せっかくなので、身元とは言わないまでも、出身地域を書くと参考になるのではないでしょうか。
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ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家
驚くようなことなの? (スコア:0)
なら、言語の起源も自然とアフリカになりそうな気がするんですが、
何かそれ以上の重要な意味合いがあるんでしょうか?
方法論だと思います (スコア:5, 参考になる)
新しいのは、生態学の手法の応用という部分だと思います。 WSJの記事を読んだだけでウンザリして調べる気ゼロなので、 以下の解説は信じないでください。
この研究は、proto-World仮説、つまり世界の言語の起源は 1つだという仮説によっています。 僕たち保守的な歴史言語学者からみると、 比較による再建という標準的な手法があつかえる時間の壁の向う側にある問題です。 そこで、もし挑もうとすると、 非標準的な方法を使うか、他の分野から方法を借りるかしなければなりません。 例えば、生物学者のCavalli-Sforza のグループは、 分子生物学の手法を使って、言語分岐の樹形図を作っています。 ただし、系統による類似と接触による類似が区別されていないという批判があります。
生態学の手法で歴史言語学に応用されることが多いのは、 多様性があるところが原産地だという考えです。 例えば、英語の方言は、イギリスの方がアメリカより多様です。 背景にあるのは、選択について中立的な変異は残っていくということです。
今回のものはこれとは別で、 分岐していくと複雑性が下がるという考えがもとになっているようです。 背景にあるのは、小集団の方が変化しやすいということと、 単純化の方が複雑化より起こりやすいということです。 生物については、遺伝子が働かなくなる単純化の方が、 遺伝子を流用したり、二重化して改変したりする複雑化より起こりやすいのですが、 同じことが言語について言えるかは疑問があります。 また、複雑性の指標として音素の数を使うことも疑問です。
音素というのは、その言語の中で同じ音とみなされているものを集めたものです。 例えば、「座視」「視座」と自然に発音してみてください。 前者のザの子音は [dz] で舌が歯茎の裏に付いているはずですが、後者は [z] で付いていないはずです。 こういう音をまとめて /z/ とみなします。 また、同じ音でも頭の中のある文法によって音素になったり、音素の下の単位の異音になったりします。 例えば、フの子音は [Φ] です。 これは、「ファン」を 2拍で読める人にとっては /h/ と区別できる音素ですが、 3拍でしか読めない人にとっては /h/ の異音です。 そこで、音素の数だけではなく、異音の使い分けまで考えなければ、 音韻体系の複雑さは十全には分かりません。
音素の数は変化します。減るだけでなく増えることもあります。 例えば、 カエサルのころのラテン語の母音の数は 17個 (長短区別、重母音・外来音含む) で、 これが 7個まで減り、紆余曲折があって、 フランス語の古典期には 16個になって、現在は 11個に向けて減少中です。 また、上で括弧内に限定を付けたように考え方や分析者によって数が変わります。 たぶん今回の研究は、 音韻論のデータベースを使っているはずですが、 既存の研究を入力しているので、分類する基準にばらつきがあります。 つまり比較するときには注意が必要です。 とはいえ、20から40個ぐらいが普通で、10個強から100を越えたぐらいまでの範囲になります。
語族 (共通の祖語をもつ言語の集合) によって、 音素の数が多い少ないという傾向はあります。 これには、祖語の音素の数が影響します。 サブサハラの言語の大部分は、ニジェール・コンゴ語族に属しています。 この祖語は比較的音素が多いものとして再建されています。 他にはコイサン諸語があるのですが、語族の中には異常に音素の多いものもあります。 これはクリック音があり、同時調音子音もあるという言語の構造によっています。
音素の数には、集団の小ささと内部のネットワークの濃さも関係しています。 小さな集団の場合には音素の数が維持されやすい傾向があります。 そのため、コーカサスやオーストラリアに音素の数が多い言語がポツリポツリとあります。 逆に、大きな集団になると方言間の接触が多い場合に音素の数が減ることがあります。 現代フランス語で音素が減りつつある理由の 1つがこれです。
この研究は、 音素の数を複雑性の指標にして、言語が移動して分岐すると複雑性が減る としているようです。 しかし、このような分布は各地域の祖語の音素の数と話者集団のサイズでも説明ができます。 例えば、サブサハラの音素の数の多さは、 ニジェール・コンゴ祖語などからの継続性と話者集団の小ささによるとも考えられ、 これらが世界祖語での性質を残しているためだと考える必然性はありません。 同じように太平洋に音素の数の少ない言語があることは、 アウストロネシア語族ポリネシア諸語の祖語での音素の少なさで説明できます。
;; 言語の起源や語族より上のレベルの系統関係の研究は、 ここのところ言語学でも盛んで、論文も沢山でています。 ところが、こういう言語学以外の人のアイディア一発勝負的な論文は、 IF が低いとかアクセプトに時間がかかるとかということもあって、 言語学の雑誌には投稿されないんですよね。 で、IF の高い、けどウサンくさいのも載せるものにアクセプトされて、 メディアに流れる。 もっと良質の研究はあると思うんだけど……。
参考にする (スコア:1)
Re: (スコア:0)
私は違うようなので、研究してみてください。
# 思いこみだけで研究するのはよくないよ
Re:方法論だと思います (スコア:1)
オレは違ってない。
でも、舌の動きが違っても音の違いになるとは限らないから、音自体で説明して欲しいもんだ。
たとえば九官鳥の言葉で、音自体のスペクトルは人の発音とまるで違うけど同じに聞こえる・・とか。
もちろん、九官鳥の言葉は舌なんか使ってない。
the.ACount
Re: (スコア:0)
せっかくなので、身元とは言わないまでも、出身地域を書くと参考になるのではないでしょうか。
Re: (スコア:0)
それによると、人類の起源をたどるために遺伝的多様性を調べるという手法を使って音素の多様性を調べて地図にプロットして解析したら、遺伝的多様性から人類の起源がアフリカであると考えられるように、言語の起源も南アフリカだと考えるのが合理的だ、といってますね。