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どなたかWiki見てもよく分からない私に簡単な説明を・・・当方、羽毛と砲丸同時に落とすと足の甲が痛い・・・・位の物理知識しか有りません。
1. 結晶というのは,原子・分子が直接観察されるようになる前から,ある最小単位(単位格子と呼びます)が縦横に周期的に並んできれいにパッキングして出来ている,と信じられていました.というか,全ての結晶はそうなっています.*この最小単位内には原子やら分子がいろいろ入っています.
言い方を変えると,「結晶」という,分子・原子がきれいに整列して並んでいる代物は,必ずこの「最小単位」へと切り分けることが出来ます.
2. ある「最小単位」を縦横きれいに隙間無く並べて立体を作るには,その「最小単位」の形状が
http://ja.wikipedia.org/wiki/結晶構造 [wikipedia.org]
の「7つの結晶系」として知られる形状出ないといけないことが知られています.これ以外の形状を規則的に積み上げて,隙間無く立体を作ることは出来ません.例えばボール(球)を考えましょう.これを縦横高さ方向に整列させて並ばせます.これはまあある種の結晶です.「隙間があるじゃないか」と思うかもしれませんが,球が内接する立方体を考えると,この立方体は隙間無く&規則的に並んでいます(だからこの場合は立方晶).このように,隙間も含めて分割して「箱」(単位格子)を定義してやると,必ずこの7つの結晶系のどれかになる,わけです.逆に,どんな形状のものであれ,何らかの周期的な構造をとっていれば,あるサイズの「箱」が周期的に並んでいるように区切る事が出来,その箱は必ず上記7つのどれかの形をしています.
3. さて,物質が結晶になっている=分子・原子が周期的に並んでいる(これは前項より,必ず7つの結晶系のどれかになっている)と,その結晶にX線を当てたときに特定の方向でだけ反射が強くなります.これは反射波が特定の方向で強めあうためです.例えば,単位格子1個分だけずれた波がちょうど波1つ分位相がずれる反射角で観測すると,ある単位格子から跳ね返ってきた波と,隣の単位格子から跳ね返ってきた波は山と山が重なって強め合います.そのもう一個隣の単位格子も,位置関係はちょうどスライドしただけですからやっぱり山が重なるようになります.逆に,X線を当てて鋭いピークがいくつも反射してくれば,その物体は結晶構造を取っている(=単位格子が周期的に並んだ構造に還元できる)わけです.そしてこの時出てくる反射のパターン(どの方向で反射が強いか)は元の結晶系を反映しています.例えば六方晶なら6回対称の六角形的なパターン,正方晶のような4回対称の結晶系なら正方形的なパターン,といった感じです.一方,アモルファスな物質のように結晶構造がないと,ある方向での反射が,隣の原子からの反射は弱めあってみたり,別の原子では強めあってみたり……と,特に制限事項がないので,様々な波の雑多な足しあわせになってしまいます.そのため,結晶構造を取っていない物質では鋭い反射は観測されません.
4. まあこのようにして,過去に行われていた推測と,その後のX線の発見により,結晶構造=原子・分子の配列が解析できるようになり,化学と物質科学は一気に進歩します.またこれと歩調を合わせて,結晶格子やらその周期性やらを使って固体物理における電子論(電子はどんな状態を取るのか?どうして電流は流れるのか?等)や格子振動などの様々な理論が打ち立てられ,現実の系を説明することが可能となり大成功を収めます.まさにX線万歳,結晶構造万歳というわけです.
5. ところがあるとき,X線を当てると5回対称の反射が出てくるサンプルが見つかりました.しかも出てくるピークは鋭い.ピークがシャープと言うことは,結晶であることを意味します.ところが,出てくる反射の対称性は5回対称であり,理論的に許されている7つの結晶系にはあり得ない対称性です.7つの結晶系に入っていないことから,「完全な結晶」ではあり得ないことは確実です.その一方,シャープなピークを作るためには,少なくとも近似的には結晶(っぽい)構造があることが必要とされます.ここから大激論が始まります.何より大変だったのが,普通だったら原子の配列を調べるのに使う構造解析が使えなかったことです.何せ結晶構造を前提として解析するので,結晶っぽくても結晶になっていないものには使えません.そのためまあ色んな手法を駆使して構造を推定したわけですが,それは省略(というか今でも完全な構造は良くわからないものもある.おおざっぱなところはわかっているけれども).そういった過程を経て,今では「短距離でも,長距離でも,近似的に5回対称が成り立ってある規則(に近い)配列だけど,普通の結晶では存在する並進対称(あるユニットスライドすると,もとと同じ構造になる)を持たない」という準結晶という概念&その推定構造が作られるまでになりました.
6. 結局,何が凄いの?というと,
・世の中の固体は,結晶と結晶以外の非晶質からなっている
という化学/固体物理の基本概念をひっくり返したところですね.もう何というか,「え,何それ?そんな存在許されるの?」とかそういう感じで.他の分野で例えると,何でしょうかね,「生物の情報担体はDNAだと信じていたら,RNAしか持たない生物がいた!」みたいな驚きなんでしょうか(ウィルスではいますけど).「飛行機は羽がないと飛べないと思ってたら,胴体の揚力だけで飛ぶのが出てきた!」とか.いや,比喩をいくら出しても理解の助けにはならないんでしょうが.
固体系の人間にとっては驚天動地な発見ではあるんですが、他の分野の人とかに説明するのは難しいなあこれ……
付け加えると,発見当初は化学の大御所ポーリングから準結晶の存在を否定され,不遇の時代を経て今回の受賞になった,というドラマがありますね.
応用の可能性から言えば,フラーレンやカーボンナノチューブなどのエキゾチック炭素分子全てをひっくるめたそれらに比肩する新しい一分野を開く業績だと思います.久しぶりにノーベル賞にふさわしい業績だと思いました.余り知られていないのは,ポーリング先生の怨嗟のせいでしょうか.
単独受賞というのもすがすがしいですね.
>飛行機は羽がないと飛べないと思ってたら,胴体の揚力だけで飛ぶのが出てきたなんかこう聞いてしまうとすごく大したことでないように思えてしまう・・・ふしぎ!!
>周期的に並んできれいにパッキングして出来ている
そんなこと言ったって結晶の欠損があるしねえ。
まあ点/線/面欠陥は例外的な存在として見なかったことに.物性的にも(大抵の場合は)完全系+ちょっとの摂動という形でできるんで,よっぽど欠陥が増えて乱雑系になったりする場合(アンダーソン局在とか)以外は目を瞑っていただくと言うことで.
信号と雑音の境界も、なんかこうモヤモヤしてるんだけど、フラクタル君が、もう一歩はじけないんだよな。
>フラクタル君が、もう一歩はじけないんだよな。
カオス君じゃなくて?
phasonさんにしては珍しく切れのない解説・・・#本人もおっしゃってますが
それだけ難しいというか、単純にすごいわけじゃないけどすごいというか、そんな感じなのでしょうねぇ#そういう理解の仕方をするわたし(笑)
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準結晶・・・? (スコア:0)
どなたかWiki見てもよく分からない私に簡単な説明を・・・
当方、羽毛と砲丸同時に落とすと足の甲が痛い・・・・位の物理知識しか有りません。
Re:準結晶・・・? (スコア:2)
1. 結晶というのは,原子・分子が直接観察されるようになる前から,ある最小単位(単位格子と呼びます)が縦横に周期的に並んできれいにパッキングして出来ている,と信じられていました.というか,全ての結晶はそうなっています.
*この最小単位内には原子やら分子がいろいろ入っています.
言い方を変えると,「結晶」という,分子・原子がきれいに整列して並んでいる代物は,必ずこの「最小単位」へと切り分けることが出来ます.
2. ある「最小単位」を縦横きれいに隙間無く並べて立体を作るには,その「最小単位」の形状が
http://ja.wikipedia.org/wiki/結晶構造 [wikipedia.org]
の「7つの結晶系」として知られる形状出ないといけないことが知られています.これ以外の形状を規則的に積み上げて,隙間無く立体を作ることは出来ません.
例えばボール(球)を考えましょう.これを縦横高さ方向に整列させて並ばせます.これはまあある種の結晶です.「隙間があるじゃないか」と思うかもしれませんが,球が内接する立方体を考えると,この立方体は隙間無く&規則的に並んでいます(だからこの場合は立方晶).このように,隙間も含めて分割して「箱」(単位格子)を定義してやると,必ずこの7つの結晶系のどれかになる,わけです.逆に,どんな形状のものであれ,何らかの周期的な構造をとっていれば,あるサイズの「箱」が周期的に並んでいるように区切る事が出来,その箱は必ず上記7つのどれかの形をしています.
3. さて,物質が結晶になっている=分子・原子が周期的に並んでいる(これは前項より,必ず7つの結晶系のどれかになっている)と,その結晶にX線を当てたときに特定の方向でだけ反射が強くなります.これは反射波が特定の方向で強めあうためです.例えば,単位格子1個分だけずれた波がちょうど波1つ分位相がずれる反射角で観測すると,ある単位格子から跳ね返ってきた波と,隣の単位格子から跳ね返ってきた波は山と山が重なって強め合います.そのもう一個隣の単位格子も,位置関係はちょうどスライドしただけですからやっぱり山が重なるようになります.逆に,X線を当てて鋭いピークがいくつも反射してくれば,その物体は結晶構造を取っている(=単位格子が周期的に並んだ構造に還元できる)わけです.そしてこの時出てくる反射のパターン(どの方向で反射が強いか)は元の結晶系を反映しています.例えば六方晶なら6回対称の六角形的なパターン,正方晶のような4回対称の結晶系なら正方形的なパターン,といった感じです.
一方,アモルファスな物質のように結晶構造がないと,ある方向での反射が,隣の原子からの反射は弱めあってみたり,別の原子では強めあってみたり……と,特に制限事項がないので,様々な波の雑多な足しあわせになってしまいます.そのため,結晶構造を取っていない物質では鋭い反射は観測されません.
4. まあこのようにして,過去に行われていた推測と,その後のX線の発見により,結晶構造=原子・分子の配列が解析できるようになり,化学と物質科学は一気に進歩します.またこれと歩調を合わせて,結晶格子やらその周期性やらを使って固体物理における電子論(電子はどんな状態を取るのか?どうして電流は流れるのか?等)や格子振動などの様々な理論が打ち立てられ,現実の系を説明することが可能となり大成功を収めます.
まさにX線万歳,結晶構造万歳というわけです.
5. ところがあるとき,X線を当てると5回対称の反射が出てくるサンプルが見つかりました.しかも出てくるピークは鋭い.
ピークがシャープと言うことは,結晶であることを意味します.ところが,出てくる反射の対称性は5回対称であり,理論的に許されている7つの結晶系にはあり得ない対称性です.7つの結晶系に入っていないことから,「完全な結晶」ではあり得ないことは確実です.その一方,シャープなピークを作るためには,少なくとも近似的には結晶(っぽい)構造があることが必要とされます.ここから大激論が始まります.
何より大変だったのが,普通だったら原子の配列を調べるのに使う構造解析が使えなかったことです.何せ結晶構造を前提として解析するので,結晶っぽくても結晶になっていないものには使えません.そのためまあ色んな手法を駆使して構造を推定したわけですが,それは省略(というか今でも完全な構造は良くわからないものもある.おおざっぱなところはわかっているけれども).
そういった過程を経て,今では「短距離でも,長距離でも,近似的に5回対称が成り立ってある規則(に近い)配列だけど,普通の結晶では存在する並進対称(あるユニットスライドすると,もとと同じ構造になる)を持たない」という準結晶という概念&その推定構造が作られるまでになりました.
6. 結局,何が凄いの?というと,
・世の中の固体は,結晶と結晶以外の非晶質からなっている
という化学/固体物理の基本概念をひっくり返したところですね.
もう何というか,「え,何それ?そんな存在許されるの?」とかそういう感じで.
他の分野で例えると,何でしょうかね,「生物の情報担体はDNAだと信じていたら,RNAしか持たない生物がいた!」みたいな驚きなんでしょうか(ウィルスではいますけど).「飛行機は羽がないと飛べないと思ってたら,胴体の揚力だけで飛ぶのが出てきた!」とか.いや,比喩をいくら出しても理解の助けにはならないんでしょうが.
固体系の人間にとっては驚天動地な発見ではあるんですが、他の分野の人とかに説明するのは難しいなあこれ……
Re:準結晶・・・? (スコア:2)
付け加えると,発見当初は化学の大御所ポーリングから準結晶の存在を否定され,
不遇の時代を経て今回の受賞になった,というドラマがありますね.
応用の可能性から言えば,フラーレンやカーボンナノチューブなどのエキゾチック炭素
分子全てをひっくるめたそれらに比肩する新しい一分野を開く業績だと思います.
久しぶりにノーベル賞にふさわしい業績だと思いました.余り知られていないのは,
ポーリング先生の怨嗟のせいでしょうか.
単独受賞というのもすがすがしいですね.
Re: (スコア:0)
>飛行機は羽がないと飛べないと思ってたら,胴体の揚力だけで飛ぶのが出てきた
なんかこう聞いてしまうとすごく大したことでないように思えてしまう・・・ふしぎ!!
Re: (スコア:0)
>周期的に並んできれいにパッキングして出来ている
そんなこと言ったって結晶の欠損があるしねえ。
Re:準結晶・・・? (スコア:1)
まあ点/線/面欠陥は例外的な存在として見なかったことに.
物性的にも(大抵の場合は)完全系+ちょっとの摂動という形でできるんで,よっぽど欠陥が増えて乱雑系になったりする場合(アンダーソン局在とか)以外は目を瞑っていただくと言うことで.
Re:準結晶・・・? (スコア:1)
で、電子線を合金のいろんな場所に当てて、きれいな回折パターンが出てくる領域を探していくのですが、回折パターンが5回対称とか10回対称とかの領域があちこちに存在する。
これって準結晶でしょうか?と先生に尋ねると、「分からない。準結晶かもしれないし、格子欠陥が変な回折パターンを作ってるのかもしれない。ただ、この系に限らず多元系の金属の結晶粒界付近は結晶格子が乱れやすいので5回対称とかおかしな回折パターンはよく出るよ。でもこういうのに深入りしてもワケが分からなくなるばかりで仕事にならないよ」との事でした。
ひょっとしたら、ミクロの領域では準結晶ってありふれた存在かも。
Re: (スコア:0)
>周期的に並んできれいにパッキングして出来ている
信号と雑音の境界も、なんかこうモヤモヤしてるんだけど、
フラクタル君が、もう一歩はじけないんだよな。
Re: (スコア:0)
>フラクタル君が、もう一歩はじけないんだよな。
カオス君じゃなくて?
Re: (スコア:0)
phasonさんにしては珍しく切れのない解説・・・
#本人もおっしゃってますが
それだけ難しいというか、単純にすごいわけじゃないけどすごいというか、そんな感じなのでしょうねぇ
#そういう理解の仕方をするわたし(笑)