常識に基づき論理的に推論する AI の過去の研究として次が、このペーパーの2年前に発表されています。よって、このペーパーが書かれた時点で、AI が常識を持って推論することは難しくありません。
G. Angeli and C. D. Manning (2014):
NaturalLI: Natural Logic Inference for Common Sense Reasoning [stanford.edu],
Proc. EMNLP 2014 (Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing).
[概要]
事実(常識)を列挙したデータベースが与えられたとき、未知の出来事の真偽を判定し、真ならデータベースに追加する推論技術の提案。
推論の例:「猫がネズミを食べる」から、「「哺乳類は動物を食べない」が偽である」を導ける。
あんま意味ない発表だよね (スコア:2, おもしろおかしい)
自分の提言に沿うような結果が出るような調査をしたんじゃないのかなとしか思えない
こんなのは程度問題だからな
Re: (スコア:2, 参考になる)
こういうコメントがあるんじゃないかと思ってこの記事を見に来た。
新井先生は調査の内容も含めパブリックにできるものはなるべくパブリックにしてくださってるので、自分で確認できる。
たとえば今回のテストだとこういう内容があったみたいだ。
----引用開始----
以下の文を読みなさい。
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、
南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、
西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当
なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。
オセアニアに広がっているのは( )である。
A.ヒンドゥー教 B.キリスト教
調査のオピニオンペーパーの中の疑問点 (スコア:1)
リンク先の文献 新井紀子、尾崎幸謙 (2017): デジタライゼーション時代 に求められる人材育成. NIRA オピニオンペーパー no.31. (PDF) [nira.or.jp] を読もうとしましたが、誤った事実認識が書かれているなど、読み進めるのがつらくなる内容で、半分ほどで読むのを断念しました。
私はこのペーパーを読むことは勧めませんが、これから読む方のために、前半を読んだときに気づいた疑問点を、以下に5点列挙します。また、このペーパーを読むことを勧めた前のコメントのかたの、以下の5点に対するご意見を伺えれば、うれしく思います。
(1) [3ページ目右列]
そんな時代を背景としてAIプロジェクト「ロボットは東 大に入れるか」(通称:東ロボ)は2011年に始まった。 (中略) 1990年代の第5世代コンピューターの手ひどい失敗がトラウマ(心的外傷)となった結果、当時の日本には大型の AIプロジェクトは皆無の状況だった。
90年代以後の人工知能に関するプロジェクトが3つ見つかりました(まだ他にもあるかもしれません)ので、これは誤りです。
+ リアルワールド・コンピューティング・プロジェクト [coocan.jp] (通商産業省 1992-2002)
+ 巨大学術社会情報からの知識発見に関する基礎研究 [kyushu-u.ac.jp] (文部省 科学研究費 特定領域研究(A)1998-2000)
+ 情報洪水時代におけるアクティブマイニングの実現 [osaka-u.ac.jp] (文部省 科学研究費 特定領域研究 2005-2008)
また、東ロボプロジェクトと同時期に別の AI プロジェクトも実施されていて、「当時の日本には大型の AIプロジェクトは皆無の状況だった。」ということはありません。
+ 科学的発見・社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出・高度化 [jst.go.jp] (JST CREST・さきがけ複合領域 2013-)
(2) [5ページ目左列]
われわれは日本数学会と協力し、2011年に5000人を超える大学生に対し、高校1年までに習う数学の中でも、特に基本的な項目をどれだけ理解しているかの調査を行った(日本数学会教育委員会,2013)。その結果、いくつかの課題が見いだされた。例えば、「平均」がもつ意味を正しく理解している大学生は調査対象者の4分の3にとどまることがわかった。
そのような数学の理解度の低さは、そのとき見出された課題ではなく、以前から指摘されています。例えば書籍 分数ができない大学生 (1998) [amazon.co.jp]では、 「大学生の10人のうち2人は小学生の算数ができません。」と指摘され、広く話題になりました。
(3) [5ページ右列]
つまり、AIと最も差別化できるはずの「よく見、よく読み、よく聞き、よく書き、よく話す能力」が教育できておらず、現代のAIに簡単に代替されるような表層的なスキルしか身に着いていないのではないかとの懸念が生じたのである。意味を理解せず表層的に問題を解いただけの東ロボが2015、2016年と2年続けて偏差値57を上回り、高校3年生の上位25%に入ったということも、この仮説が正しいことを示唆するものであった。
この仮説を将棋に当てはめると、「意味を理解せず表層的に将棋を指すAIが現役棋士のほとんどを上回っているので、現役棋士は表層的なスキルしか獲得していない」ことになります。しかし、現役棋士は、将棋に関して表層的なスキル以上の事柄を理解しています。
つまり、この仮説(懸念)は誤った結論を導きます。
(4) [6ページ目左列]
人間は、1日は昼と夜で構成されるという常識に基づき論理的に推論することで、「ヨーロッパは日本より相対的に緯度が高いので、夏の夜の時間が短い」ことがわかるが、常識に欠けるAIにはこのような推論は難しい 。
常識に基づき論理的に推論する AI の過去の研究として次が、このペーパーの2年前に発表されています。よって、このペーパーが書かれた時点で、AI が常識を持って推論することは難しくありません。
G. Angeli and C. D. Manning (2014): NaturalLI: Natural Logic Inference for Common Sense Reasoning [stanford.edu], Proc. EMNLP 2014 (Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing).
[概要]
事実(常識)を列挙したデータベースが与えられたとき、未知の出来事の真偽を判定し、真ならデータベースに追加する推論技術の提案。 推論の例:「猫がネズミを食べる」から、「「哺乳類は動物を食べない」が偽である」を導ける。
(5) [6ページ目右列]
次に、図2は、(5)のイメージ同定に分類される、文を表象する正しい図を選ぶ問題例である。
正解は「A」である。こうした問題については、よほどフ レームを限定しないと機械に解かせることは困難だろう。
SAT (アメリカの大学進学適性試験)の図形の問題を、手を加えずにコンピュータで自動的に解くという、次の研究が、このペーパーの1年前に公表されています。このためこのペーパーが書かれた時点で、図形の問題を機械に自動的に解かせるのが困難といえるか、疑問です。
M. Seo et al. (2015): Solving Geometry Problems: Combining Text and Diagram Interpretation [allenai.org], Proc. EMNLP 2015 (Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing).