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既存のアンテナは導体と電場の共鳴を使っているが,これだと波長の数分の一程度までしか小型化できない(サイズが小さくなると共鳴点から外れ,急激に感度が落ちる).一方で,アンテナの小型化への要望は強い.そのため,「導体と電場の共鳴」という通常の手法とは別のメカニズムによるアンテナの開発が進められている.その一つの手法として,磁歪(変形させると磁化が変化する.逆に,磁化を変化させると歪む)を示す物質と,ピエゾ素子(電圧をかけると歪む.逆に,歪めると電圧が発生する)を積層したものが最近提唱された.これは単純に言うと,
放射時:ピエゾ素子に交流電圧をかけ周期的に伸縮させる.すると上に乗っている磁歪材料が周期的に歪み,その結果交流磁場が生じる.※交流電場が電波を生じ伝播するように,交流磁場も電波を生み伝播できる.
受信時:磁歪素子に電波の交流磁場が印加され,それが磁歪により周期的な歪みを生じる.積層されているピエゾ素子が周期的に歪むことから,電波を電圧変化として取り出せる.
というもの.ただ,力学的な歪みと磁歪との結合は小さいため,これまではせいぜいkHzオーダーだったり準静的な状況での応答しか実現できておらず,実用化の要望の大きいVHFやUHF帯でこの方式による素子が実現可能なのかはよくわかっていなかった.
今回の論文では,ナノサイズの薄膜素子をうまく作り,それを使うことで60 MHz-2.5 GHzの範囲でアンテナとして働く素子群を作成,その動作を実証した.
という感じ.磁歪材料としては,鉄-ガリウム合金系(ちょっとホウ素入り)を使用.鉄-ガリウム系は20年ぐらい前に米海軍研究所あたりが開発してからちょくちょく使われるようになった素材でしたっけ.ピエゾ素子としては窒化アルミ.Si基盤上に電極としてPtを蒸着して,その上にAlNを成膜,必要な形状にエッチングしたのち上に鉄ガリウム合金をのせ,最後にPtの下を削って浮いたナノ薄膜にする(もちろん完全に浮いているわけでは無く,端が2箇所で細く繋がってますが).
磁歪材料とピエゾ素子がきれいに繋がってないといけないのと,きちっとした薄膜構造を作る必要があるので,その辺の材料選定がうまくいった,という感じなのでしょうか.なお,共鳴周波数は薄膜部の厚さや形状を変えてどんな音響振動モードで共鳴させるかで変わるので,その辺は普通のアンテナと似た感じ(もちろんサイズは小さい).
なるほど。MEMSカンチレバーを利用したいわば電磁音響力学アンテナっていうところか。なんか昔のコヒーラー検波器みたいなのを想像してた。応用としてはメタマテリアルの実現が妥当か。
もう一つ追加。60MHz付近ということでMRI用のRFアンテナなんかも有望か。
電磁場の変化→材料の変形→電磁場の変化という耳音響放射みたいな性質を利用すると電子だけが共振する場合より共振するものが低速で重いので同等の共振周波数なら小型になるってこと?
電磁波 > 音響振動 > 電磁波という流れは例えばSAWフィルタなんかではおなじみのものだったけど、点電荷をいくら激しく振動させても強い電波は出ないのでアンテナにはなりえない、…と思っていた。軽い電子ではなく例えば鉄の音叉のような重い磁性体を振動させてもアンテナとしては成立しうるというのはまさに盲点だった。しかもピエゾ素子よりも磁歪素子の方が電磁波に対して敏感だったことを忘れていた。
まあ、アンテナ単体としては送信できる出力に限度はあるだろうが、受信用として割り切れば今後も色々な可能性がありうる。
あれか、ポアンカレ予想をトポロジーじゃなく微分幾何学のアプローチで解いた [wikipedia.org]というヤツか!
専門的なアレを追究したのではなく別分野の力で解いたという感じで、詳しくはわかりません(えーw
感度を落とさずに波長の数分の一以下の効率的なアンテナを作れるというのなら、ぜひダイポール比のゲインを公表してもらいたいものだ#実は既存の小型アンテナよりも少し特性が良い程度というオチがついても驚かない
2.5 GHz用のやつ(直径200 μm)で今回作成したものが-18 dBiなのに対し、同サイズのループアンテナだと-68 dBiだから、このスケールでアンテナ作ろうとすれば50 dB違うよ、だって。まあこんだけ波長とサイズが違ってれば(何せサイズが波長の1/600ぐらい)、古典的なアンテナの感度はとんでもなく低くなるしね。
同サイズ古典アンテナよりは高感度でも限度があるし、MEMSレベルのサイズなら一つの素子内に複数のアンテナ入れたパッケージにしてダイバーシティ技術なんかと複合させるとかがデフォルトになるのかな。
波長以下サイズをみっしり並べてフェイズドアレイとかしたらどうなるんだろう…
RFをキャパシタで受けて、電極の振動をレーザーで読み取るという方法はかなり前から研究されていたんだけど、磁場の変化を受けて圧電素子で変換したわけか。なーるほど。ひとしきり、アマチュアが使える手法か考えたけど、無理みたいだ。はやく素子にして売ってくれ!
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物事のやり方は一つではない -- Perlな人
ざっくりした説明 (スコア:5, 参考になる)
既存のアンテナは導体と電場の共鳴を使っているが,これだと波長の数分の一程度までしか小型化できない(サイズが小さくなると共鳴点から外れ,急激に感度が落ちる).
一方で,アンテナの小型化への要望は強い.
そのため,「導体と電場の共鳴」という通常の手法とは別のメカニズムによるアンテナの開発が進められている.
その一つの手法として,磁歪(変形させると磁化が変化する.逆に,磁化を変化させると歪む)を示す物質と,ピエゾ素子(電圧をかけると歪む.逆に,歪めると電圧が発生する)を積層したものが最近提唱された.
これは単純に言うと,
放射時:ピエゾ素子に交流電圧をかけ周期的に伸縮させる.すると上に乗っている磁歪材料が周期的に歪み,その結果交流磁場が生じる.
※交流電場が電波を生じ伝播するように,交流磁場も電波を生み伝播できる.
受信時:磁歪素子に電波の交流磁場が印加され,それが磁歪により周期的な歪みを生じる.積層されているピエゾ素子が周期的に歪むことから,電波を電圧変化として取り出せる.
というもの.ただ,力学的な歪みと磁歪との結合は小さいため,これまではせいぜいkHzオーダーだったり準静的な状況での応答しか実現できておらず,実用化の要望の大きいVHFやUHF帯でこの方式による素子が実現可能なのかはよくわかっていなかった.
今回の論文では,ナノサイズの薄膜素子をうまく作り,それを使うことで60 MHz-2.5 GHzの範囲でアンテナとして働く素子群を作成,その動作を実証した.
という感じ.
磁歪材料としては,鉄-ガリウム合金系(ちょっとホウ素入り)を使用.鉄-ガリウム系は20年ぐらい前に米海軍研究所あたりが開発してからちょくちょく使われるようになった素材でしたっけ.
ピエゾ素子としては窒化アルミ.
Si基盤上に電極としてPtを蒸着して,その上にAlNを成膜,必要な形状にエッチングしたのち上に鉄ガリウム合金をのせ,最後にPtの下を削って浮いたナノ薄膜にする(もちろん完全に浮いているわけでは無く,端が2箇所で細く繋がってますが).
磁歪材料とピエゾ素子がきれいに繋がってないといけないのと,きちっとした薄膜構造を作る必要があるので,その辺の材料選定がうまくいった,という感じなのでしょうか.
なお,共鳴周波数は薄膜部の厚さや形状を変えてどんな音響振動モードで共鳴させるかで変わるので,その辺は普通のアンテナと似た感じ(もちろんサイズは小さい).
Re:ざっくりした説明 (スコア:1)
なるほど。MEMSカンチレバーを利用したいわば電磁音響力学アンテナっていうところか。
なんか昔のコヒーラー検波器みたいなのを想像してた。
応用としてはメタマテリアルの実現が妥当か。
Re:ざっくりした説明 (スコア:1)
もう一つ追加。60MHz付近ということでMRI用のRFアンテナなんかも有望か。
Re: (スコア:0)
電磁場の変化→材料の変形→電磁場の変化
という耳音響放射みたいな性質を利用すると
電子だけが共振する場合より
共振するものが低速で重いので
同等の共振周波数なら小型になるってこと?
Re:ざっくりした説明 (スコア:1)
電磁波 > 音響振動 > 電磁波という流れは例えばSAWフィルタなんかではおなじみのものだったけど、
点電荷をいくら激しく振動させても強い電波は出ないのでアンテナにはなりえない、…と思っていた。
軽い電子ではなく例えば鉄の音叉のような重い磁性体を振動させてもアンテナとしては成立しうるというのはまさに盲点だった。しかもピエゾ素子よりも磁歪素子の方が電磁波に対して敏感だったことを忘れていた。
まあ、アンテナ単体としては送信できる出力に限度はあるだろうが、受信用として割り切れば今後も色々な可能性がありうる。
Re:ざっくりした説明 (スコア:1)
あれか、ポアンカレ予想をトポロジーじゃなく微分幾何学のアプローチで解いた [wikipedia.org]というヤツか!
専門的なアレを追究したのではなく別分野の力で解いたという感じで、詳しくはわかりません(えーw
Re: (スコア:0)
感度を落とさずに波長の数分の一以下の効率的なアンテナを作れるというのなら、ぜひダイポール比のゲインを公表してもらいたいものだ
#実は既存の小型アンテナよりも少し特性が良い程度というオチがついても驚かない
Re:ざっくりした説明 (スコア:1)
2.5 GHz用のやつ(直径200 μm)で今回作成したものが-18 dBiなのに対し、同サイズのループアンテナだと-68 dBiだから、このスケールでアンテナ作ろうとすれば50 dB違うよ、だって。
まあこんだけ波長とサイズが違ってれば(何せサイズが波長の1/600ぐらい)、古典的なアンテナの感度はとんでもなく低くなるしね。
Re: (スコア:0)
同サイズ古典アンテナよりは高感度でも限度があるし、MEMSレベルのサイズなら一つの素子内に複数のアンテナ入れたパッケージにしてダイバーシティ技術なんかと複合させるとかがデフォルトになるのかな。
波長以下サイズをみっしり並べてフェイズドアレイとかしたらどうなるんだろう…
Re: (スコア:0)
RFをキャパシタで受けて、電極の振動をレーザーで読み取るという方法はかなり前から研究されていたんだけど、磁場の変化を受けて圧電素子で変換したわけか。
なーるほど。
ひとしきり、アマチュアが使える手法か考えたけど、無理みたいだ。
はやく素子にして売ってくれ!