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私はプログラマです。1040 formに私の職業としてそう書いています -- Ken Thompson
SNPsの原理 (スコア:5, 参考になる)
読売新聞の見出しだと「血液1滴」が強調されてて、なんか血液を直接塗抹して検査できそうな誤解を与えかねない気もするんですが (^^; そこは要するにPCRの材料としては血液1滴で十分だということで、これは別に従来の方法と何ら変わりがないわけで、この研究の目玉ではないでしょう。
詳しい方法については、元記事からだけだと判りませんが、おそらく原理的な部分ではあまり違いがないんじゃないだろうかと思います。多分、血液などから目的のSNPを含む遺伝子断片をビオチンか何かで標識したプライマーで増幅して、あらかじめプラスチックに付着させておいた正常な遺伝子断片と相補的に結合させる。それを、全く同一なら結合したままだが一塩基でも違うと解離する程度の比較的低い温度にまで加熱して処理した後、アルカリフォスファターゼやペルオキシダーゼなどの酵素をつけたストレプトアビジンと反応させ [kindai.ac.jp]、発色基質を使って可視化する。すると正常な場合は発色するスポットがSNPありだと消える……ってところでしょうか?
そうだとすると、ポイントはむしろ検出する過程にあって、これまでは温度による「はずれ方」の違いで見ていたのを、「はずれる/はずれない」で判別できるように条件検討したこと、そして蛍光色素を使っていたものを目視で判別可能な色素にしたこと、ではないかと。私自身はSNPsを試したことがないのですが、あとはどこまで擬陽性/擬陰性が除外できるかがポイントになりそうな気がします。
何にせよ、SNPsではPCRが必須なので「ご家庭でお手軽に」検査できるキットではないです。ただ、PCRの装置さえあれば、高価な蛍光分析装置がなくても検査できることになるわけで、それだけでも随分なメリットがあると思います。原理的にはそれほどの新規性があるわけでなく、むしろ既知技術の組み合わせなのでしょうけど、医療用の診断薬はどれだけ手軽に出来るかが特に重視される領域ですから、そういう実用性の面でアプローチできる研究だと思います。
competitive hybridization (スコア:4, 参考になる)
CASSOH法 [google.co.jp]というのが使われているようです。詳しい方法の解説は論文 [wiley.com]に書かれています。大まかな部分では上のコメントが正鵠を得ていますが、competitive hybridizationと免疫クロマトグラフィーをつかっているところがミソかと。
1)まず、目的の遺伝子をPCRで増幅します。増幅プライマーにdigoxygeninラベルを付け、PCR産物が抗体で検出しておきます。
2)PCR産物に対してビオチン標識プローブDNAと非標識異常プローブを競合ハイブリダイズさせます。(プローブは一本鎖の短鎖DNAで、目的の対立遺伝子にあわせて作ります)
3)ストレプトアビジンコートした試験紙の上にたらします。
4)試験紙の一方の端に金コートされた抗digoxygenin抗体がのせてあって、こちらの端をバッファーに漬けると、抗体が試験紙上を移動しながらプローブと結合します。そのときの移動度がプローブとPCR産物がハイブリしたかどうかでかわってきます。
一塩基の違いくらいだと20塩基のくらいのプローブでも間違ってハイブリダイズしてしまうし、温度設定だけでそれを押さえるのは不可能なので、(予想される変異をもつ)非標識の別のプローブを競合させることで、検出用の標識プローブが標的のPCR産物にミスハイブリダイズするのをふせいでいる、というわけですね。これだと「無害な」変異と「問題となる」変異が区別できるので、その点でも優れていると思います。(ただし擬陽性が出ないかどうかは僕には判断つかない)。手順も簡単そうでアルバイトの素人さんでもできそうです。
competitive hybridization自体は定量PCRとかに使われてる既知の技術ですし、免疫クロマトなんかも古い手法ですが、それをうまくパッケージングしたというのが印象です。
DigoxygeninのDNA免疫クロマトキットはRoche Diagnosticsから発売されてるので、あとは標識プローブとプライマー、ヌクレオチド、Taqポリメラーゼが手に入ればキットは作れます。どれも反応一回に必要な量はごくわずかなので、製造原価だとしたら400円くらいというのは妥当な線ですが、これがそのまま売価になるわけじゃないでしょうね?医療関係者の方、どうぞ。
Re:competitive hybridization (スコア:4, 参考になる)
誤
1)まず、目的の遺伝子をPCRで増幅します。増幅プライマーにdigoxygeninラベルを付け、PCR産物が抗体で検出しておきます。
正
1)まず、目的の遺伝子をPCRで増幅します。増幅プライマーにdigoxygeninラベルがついていて、PCR産物がdigoxygenin標識されます。
Re:SNPsの原理 (スコア:2, 興味深い)
(つまり、単に増やすだけのPCRだと)2時間・400円は厳しくないですかね。
というわけで、ここはプライマーとPCRのかけ方に何か細工をして、
SNPが普通と違うとPCRで増えないとかだと見ました。
個人的期待としては謎の生物由来(たいてい菌だけど)の謎の酵素とか。
# まぁそうだとすると最初の応用がSNPの検出ではないと思いますが。
あと気になるのは血液中の細胞のうち赤血球は(人間では)核がないので
DNAの材料としては白血球・リンパ球しかないですね。
本当に1滴で足りるんだろうか。
リンパ球はともかく、白血球は核が変な感じになってる場合が多いので
ちょっと気持ち悪い感じがします。
(まぁそれでSNPがおかしくなってる確率は極めて極めて低いとは思いますが。)
Re:SNPsの原理 (スコア:2, 興味深い)
最近はサーマルサイクラーの性能もよくなっていますし,試薬の値段も
下がっているのでこれはいけると思いますよ.
SNP領域としては100-500塩基くらいの長さをとるはずなので一回の
増幅時間は30秒もあれば十分でしょう.x20してほかの時間を入れても
1時間ちょっとじゃないでしょうか.
>リンパ球はともかく、白血球は核が変な感じになってる場合が多いので
>ちょっと気持ち悪い感じがします。
多核になっていても配列さえ同じなら大丈夫です.
まあ,白血病で異常な血球が増殖していたら別ですが・・・
本当に精密にやろうとしたら血球を分離した後白血球を不死化してそこから
DNA抽出,としないといけませんが,解析ならともかく診断にはそこまでは
必要ないでしょう.
kaho
Re:SNPsの原理 (スコア:0)
>(つまり、単に増やすだけのPCRだと)2時間・400円は厳しくないですかね。
健康保険を考慮した自己負担分が数百円ということだったりして。
Re:SNPsの原理 (スコア:1)
あんまり面白い部分で付け足せないので,重箱の隅を.
>目的のSNPを含む遺伝子断片
これは必ずしも遺伝子断片ではないと思います.
遺伝子内の特定のSNPが本当にその分子の機能であるとか病気の症状とか
に関与しているのが判明している例というのはごく少ないので,それを待って
診断結果を解析,ということはずっと後のことかと.
それよりもある疾患グループのSNP解析結果から,あるSNP(大抵は遺伝子
の配列内部ではない場所)と罹患率との相関関係が分かっている場合,それら
SNPsを持っていることでリスクを推定する,という形になるでしょう.
実際,疾患関連SNPを報告して,「この染色体のこの領域に原因がある」という
論文はいくらでも見当たりますけれど,じゃあその場所にある遺伝子の配列
を調べると健常者と患者で何も変わらない,という例もまたいくらでもありま
すので.(そういう場合,転写制御だとか,未知の遺伝子とかの関与でお茶を
濁す訳ですが)
薬品に対する反応といったことはもっと少ない例しか分かっていないはずで,
SNP解析の結果から薬剤の調合結果を判断,とはまだまだいかないのが現実
ですね.
それでも,麻酔に対する反応や精神疾患の際の投薬等,ターゲットがはっきり
していて,またとても必要性が高い分野では,分子生物学的なメカニズムは
分からなくてもいいから各患者の個性を診断できる手法は本当に必要なのです.
(そんな経験主義的な考え方はy_tambeさんの好みではなさそうですが(笑))
そういったデータが蓄積した際には今回の方法がより脚光を浴びるかもしれ
ませんね.
kaho