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スポーツ

airheadの日記: memo: メッツ&パイレーツの野球バンザイ 7

日記 by airhead

本題ではないのでプレーの説明は省くが、きっかけは「チャック・タナー・プレー」だった。ずいぶん前のことだが、アメリカでもそう呼ばれているのだろうかと疑問に思って、いろいろ検索してみたことがあった。なかなかそれらしいものが見つからないので、当時広島にいたブラウン監督とリブジーとの間ではそれで通じていただけだろうか、などと思い始めたさなか、新聞記事アーカイブサイトでおかしな試合の記事を見つけた。

そのときは登録せずに試し読みできたように思うが、現在はクレジットカード番号も登録せねばならず、トライアル期間が終わると有料プランに移行で解約には手続きが必要と面倒なことになっているので、今回確認はしていない。だが確か、そのAP通信の配信記事は次のような書き出しだったと思う。

9人の男たちが内野を守った。打者毎に外野手は守備位置を交換した。回が進むにつれ、試合は奇妙な方向へ転がって行った。

外野手を一人内野に回すのは最近の日本のプロ野球でも何度かあったように思うが、「9人内野」ともなると漫画『ONE OUTS』のエピソード以外では聞いたことがない。それ以外にも様々なことが起こったこの試合を記録しておこうと思う。日本球界に縁のあった人も案外いたので、人名はなるべく日本語版Wikipediaにリンクするようにした。1985年4月28日(日)、シェイ・スタジアムで行われたメッツ-パイレーツ戦である。

回を追って記していこう。1回表パイレーツの攻撃。先頭のジョー・オーソラックがヒットで出塁するも盗塁失敗、続くジョニー・レイもヒットで出塁するも牽制死、ビル・マドロック三振と、三人で終わってしまう。その裏メッツの攻撃。先頭のウォーリー・バックマンは一飛に打ち取られるも、そこから単打・四球・四球で満塁としたところでダリル・ストロベリーの6号本塁打、彼にとってはメジャー昇格後初の満塁弾が飛び出す。後続は抑えられて4対0。

あまりにも対照的な1回の表裏である。NYタイムズ紙の記事では日曜日の試合とストロベリーの名とデザートとを掛けたのだろうか、「Super Sundae started sweetly」とも書いているが、試合の雲行きはすぐに怪しくなっていく。1回の後続だけでなくその後もメッツからのヒットが出なくなってしまうのだ。5回裏には四球とエラーで二死一三塁のチャンスをつかむが、結局追加点は奪えない。一方のパイレーツは2回表にジョージ・ヘンドリックの本塁打で1点返すと、6回表には一死からマドロック、 ジェイソン・トンプソンの連続二塁打でもう1点、三振を挟んでトニー・ペーニャの本塁打で、ついに4対4の同点に追いつく。その後も連続単打で攻め立てるも、代打ジム・モリソンが遊飛に倒れてこの回は同点どまり。

こう書くとパイレーツがめげずにヒットを重ねていくうちについに追いついたようにも見えるが、そういうわけでもない。3回から5回まではパイレーツにもヒットが出ていないし、両軍とも時々四球やエラーで走者を出すものの、まるで活かせていない。6回裏をメッツが当たり前のように三者凡退すると、両軍ともこの調子で…いや、7回表マドロックが単打で出塁している。だが、それだけだった。何事もなく7回が終了し、8回などは両軍で示し合わせたかのようなチャンスの潰し方をしている。表のパイレーツの攻撃。四球、6-4-3の併殺、四球、左飛でチェンジ。裏のメッツの攻撃。四球、遊ゴロで一死二塁、敬遠、遊ゴロで二死二三塁、敬遠、左飛でチェンジ。

9回表パイレーツの攻撃。先頭のラファエル・ベリアードが単打で出塁したところで事件が起きる。次打者ダグ・フロベルへの投球前、一塁手キース・ヘルナンデスの、バントに備え本塁方向へチャージしかけた後に牽制球を受けるため一塁に戻るという一連の動作でボークを取られ、走者二塁へ。一塁手に対してのボークという判定にメッツ側が納得するはずもなく、以降メッツからの提訴試合として続行となった。直後の連続四球で無死満塁となったところでジェシー・オロスコが救援登板する。レイを三振、マドロックをショートライナーで二死までこぎつけるが、次打者トンプソンの打席で捕手ゲーリー・カーターが投球を後逸してしまう。ここで三走ベリアードが本塁突入を試みるもカーターが見事なバックハンドフリップで送球、カバーに入ったオロスコにボールが渡ってタッチアウト、無得点。やはりヒットは続かない。

9回裏メッツの攻撃。この回は7番から始まり、9番の投手オロスコにも打順が回る。打順としては最悪だが、一死からラファエル・サンタナがエラーで出塁、一気に二塁まで進む。さらにオロスコの二ゴロの間に三塁に進み、二死ながらもサヨナラのお膳立てができた。しかし1番バックマンが遊ゴロ、延長戦へ。ちなみにメッツは満塁弾の後、一本のヒットも放っていない。

10回表。二塁打と敬遠で一死一二塁のチャンスを作るも次は7番。ここからパイレーツは代打策で勝ち越しを狙う。7番への代打シクスト・レスカーノは右飛。続く代打ビル・アルモンが左前打を放つも、本塁を狙った二走ヘンドリックがタッチアウト。これは両軍合わせて7人目、パイレーツだけでも4人目の代打にしてようやく出たヒットだが、それも実らなかった。この後11回裏まで両軍とも三者凡退を重ねる。

12回表に入り、メッツ監督デイビー・ジョンソンが動く。前の回7番まで打順が巡ったことを踏まえて、7番に投手トム・ゴーマンを入れ、9番にラスティ・スタウブを入れて右翼に就かせた。この時スタウブは41歳で23年目の大ベテラン、もともと上手くない守備に就くのも83年6月22日以来、ほとんど2年ぶりだった。冒頭に記した、打者毎に守備位置を交換した外野手とは彼のことで、この後右打者のときは右翼、左打者のときは左翼に就いた。『Amazing Mets Trivia』なる本の彼の項でも採りあげられ、「ともに守備位置を入れ替えた外野手は誰でしょう?」とある(答え:この時点で左翼のクリント・ハードル)。ゴーマンがパイレーツの攻撃を封じると、試合の流れにも微妙な変化をもたらしたようだ。

12回裏メッツの攻撃。先頭の8番サンタナが単打。メッツ打線としては1回の満塁弾以来のヒットで出塁すると、入ったばかりのスタウブが二塁打を放ち無死二三塁、打順は1番バックマン。何ともあっさりと、絶好のサヨナラ機が訪れる。これに対しパイレーツ監督チャック・タナーの執った策が、スクイズに備えて全ての外野手を内野に配置するという「9人内野」である。残念ながらこの隊形がどの打者まで続いたのか記事やボックススコアには詳しく記録されていないが、バックマンが歩いて無死満塁、レイ・ナイトを6-2-3の併殺、カーターを遊飛と、この絶体絶命の状況を切り抜けてしまった。

これがまた試合の流れを変えたのか、13回以降、両軍ともに凡打の山を築くことになる。唯一、12回裏のお返しとばかりに泥臭い展開になったのが、14回表パイレーツの攻撃。この回は9番、とはいってもスタウブと同じく投手野手の打順を入れ替えての途中出場の、フロベルから上位に巡る打順となる。単打・犠打・単打で一死一三塁としたところで、3番マドロックは三ゴロ、フロベルが本塁を突くもタッチアウト。4番トンプソンの打席でゴーマン暴投で二死二三塁、トンプソン歩いて満塁とするも、そこまで。5番ヘンドリックのファールフライを捕手カーターが(おそらく観客席に身を乗り出して)好捕しチェンジ。その裏の14回裏から17回裏までは、両軍ともに交代もほとんどない。ベンチ入り選手を使い切る寸前での我慢比べだったのだろう、ともにヒット1本ずつという苦行になってしまう。

こうして迎えた18回表、パイレーツの攻撃。流れの変化が不意に訪れる。12回表にマウンドに登ってから無失点を続けていたゴーマンは、二死一塁で久々の代打を迎えた。投手ながら打撃の良さでしばしば代打起用もされていたという、リック・ローデンである。右打者ローデンを受けてスタウブは右翼に就くも、ローデンの放った緩い飛球が右翼線を襲う。一走の長駆ホームインもあり得る場面で「俊足とは言ってもらえないだろうけどね、全力で走ったよ。彼が打った瞬間、絶対に捕ってやるって思った(スタウブ)」。お粗末守備で2年ぶりに守ったスタウブがパイレーツの久々の得点機を、膝下の高さに差し出したグラブで見事に摘み取ってしまったのである。

18回裏メッツの攻撃。両監督とも、この回を最後の山場と見ていたようだ。攻撃が始まる前、タナー監督は守備要員・位置の変更を告げた。先頭のカーターが四球で出塁すると、ジョンソン監督は代走ムーキー・ウィルソンを告げた。ストロベリーが満塁弾以来のヒットで無死一三塁として、6番ハードル、7番は7回零封のゴーマンに打順が巡る。ここに代打を送るべく、ジョンソン監督はジョージ・フォスターに準備をさせていた。「最後の切り札は切ってたよ(ジョンソン)」。というのも、ここでゴーマンに代打を出しても試合を決めきれなかった場合、2日前の同カードで先発し9回完投(完封)していたロン・ダーリングを登板させざるを得なかったのである。

だがまずは6番ハードルだ。彼の放った打球は一塁手トンプソンの正面を突いた。そしてそのまま、トンプソンの股間を抜けていった。メッツが相手でこの大事な場面に痛恨のトンネルエラー、どこかで聞いたような話である。それはさておき三走ウィルソンが還り、ゲームセット。メッツ 5-4 パイレーツ、勝:トム・ゴーマン、敗:リー・タネル、試合時間5時間21分。36,423人の観客をも巻き込んだ大苦行大会は、何ともあっけなく終わった。

ボックススコアで見ると凡打の山の貧打戦にも見えるが、その裏側には両軍の粘りの投球とそれを支えた好守備があり、良い意味での珍采配があった。間違いなく野球の酸いも甘いも詰まった一戦であり、記事で展開を追っていくだけでも面白い。その中でも多くの分量を割かれている12回から出場した殊勲の2人、ゴーマンとスタウブについて、その後も含めて触れておこう。

ゴーマンは6番手として登板し、試合終了までの7回打者25人を無失点に抑えた。彼の個人成績を見ると83年からリリーフ陣の一角に定着していたようだが、この年限りでメッツを去っており、その後フィリーズ、パドレスでの2年間でも目だった成績を残せていない。この登板は彼のキャリアの最後の輝きの一つになってしまったのかも知れないが、記録は残るものだ。2001年、メッツに在籍していたディッキー・ゴンザレスが6回2/3無失点の好リリーフで勝利投手になったときにも「85年のゴーマン以来」と引き合いに出されている。一方のスタウブ、彼のハードルとの守備位置交換は結局11回にも及んだ。一番打球がこないだろう場所へと動かし続けていたところ、ついに難しい打球が飛んでくるも好捕。スタウブの85年の守備機会はこの1回だけで、この年限りで引退した彼の最後の守備となった。

話はそれるが、これについても触れないわけにはいかないだろう。苦労の末に勝利してナ・リーグ東地区首位に並んだメッツだったが、翌日29日のNYデイリーニューズ紙の一面では、ア・リーグ東地区最下位のヤンキース絡みの話題の、オマケ扱いになってしまっていた。NYタイムズ紙によれば大観衆が声援を送るものの「無料のチョコサンデー(おそらく満塁弾のこと)」以外で一番盛り上がったのは、試合中の場内に伝えられたこの速報へのブーイングだったという。

ちょうど同じ28日、ヤンキースのオーナー、ジョージ・スタインブレナーが監督のヨギ・ベラをわずか16試合で解任、ビリー・マーチンを後任としたのである。前日には監督解任を決めていたというスタインブレナーがGMに伝えたのは16試合目のホワイトソックス戦4回途中、1-1の同点の時点とのことだが、ヤンキースはこの試合にもサヨナラ負けして同カード3連敗、10勝16敗で最下位をひた走っていた。

ヤンキースの話で締めるのもどうかと思うので、メッツ-パイレーツ戦に話を戻して、LAタイムズ紙の記事にならってチャック・タナーの試合後の談話で締めよう。30年前の試合を調べなおす気になったのも、これにシビレたからだし。

常に楽観的なパイレーツ監督チャック・タナーは、.224のパイレーツ打線が18本のヒットを重ねていたことを頼みの綱にしていた。

「あれこそ、ひっくり返さにゃならん試合ってやつだな」と彼は言う。「うちはバットが振れていたしね。事が起こる兆しってやつだ。ケチが付いたとしたら、あのスタウブのキャッチだけだろうな。俺はヒットになるって確信したんだけどなあ。あれはまったく、大したキャッチだった。もしこれがワールドシリーズだったら、30年は語り草になっただろうよ。」

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  • by airhead (13423) on 2015年04月28日 19時25分 (#2805819) ホームページ 日記
    ついさっき映像を見つけたので追記(いつまで消えずに残るかわからないけど)。

    1985 mets full season highlighs and news clips
    https://www.youtube.com/watch?v=WjJ3jDe2rs4&t=21m29s
    21:29 28日の試合の録画
      21:29 18回裏 カーター四球 ウィルソン代走
      22:06 ウィルソン得点でサヨナラ
    22:28 CNNのダイジェスト 23:00まで
      22:28 1回裏 ストロベリー満塁弾
      22:38 9回表 捕逸-タッチアウト
      22:46 18回裏 サヨナラエラー 試合結果
    20:40 直前の部分は2日前のダーリング完投勝利 21:29まで

    オマケ
    Chuck Tanner busts Dale Berra indulging in the Pirates clubhouse!
    https://www.youtube.com/watch?v=-J9VfllZpEM
    PAC MANのCM(ファミコン版との差が悲しすぎるATARI版)。出演:チャック・タナー監督、(ヨギの息子)デール・ベラ、ジョニー・レイ。

    > 土井垣
    あったあった、山田の素質を見抜くのが廊下で水の入ったバケツ持った奴とぶつかってというのが、なかなかイイ味出してました。

    > アストロ球団
    ごめんそれも知らなかったけど、さすがにそれは除外でしょ、はは。
  • >「9人内野」ともなると

    神奈川の明訓高校時代の『ドカベン』『大甲子園』のどっかでいっぺん全員内野守備で外野手が三塁寄りで構えるというのが単打も与えない目的であったきがするけど事実誤認だったらごめんなさい。

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皆さんもソースを読むときに、行と行の間を読むような気持ちで見てほしい -- あるハッカー

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