natamameの日記: パイプ
たばこを喫うあのパイプだが、数年前から静かなブームだったらしいと最近知った。Googleで探してみると、たしかにパイプ関係のブログがひっかかる。パイプに関して書くようなネタは大してあるわけじゃなし、ブログなんて「新しいパイプ買いました」ぐらいしか書きようがないだろうと思って見てみると、まさにそのとおりだが、予想の斜め上を行ったのは「買いました」どころじゃない、「次から次へと買い漁る」という調子で買ったパイプの記事を書き連ねているのが一人二人できかないことだ。書いているものを読むかぎり、皆パイプをはじめて間もない初心者のようだが一体どうなっているのか。こんな調子ではすぐ飽きてやめてしまうだろうし、実際Googleの検索結果には出るものの、すでにnot foundになっているところがいくつもある。
2ちゃんねるのパイプ関連スレをのぞいてみると、素人ばかりでパイプ喫みは誰も書き込んでいないようだ。三、四年前のhtml化されたログはいくらかましだったようなので、まともな連中は呆れて去ってしまったのだろう。今は廃墟と化していて、おかしなことが平気で書いてある。「ラッカー仕上げのパイプはよせ、ワックス仕上げがいい。カルナバワックスで仕上げたパイプは木が呼吸できる」などという珍説だ。話が逆で、ラッカーのような塗料の塗膜には溶剤が揮発して出て行ったときの穴があるが、ワックスの皮膜は空気を遮断する。オランダの国立美術館などでは、油絵のニスが湿気で青味をおびるのを防ぐために薄くカルナバ蝋を引いていたりした。
元ネタはなんだろうと探してみると、パイプ作家だというオヤジが「木が呼吸できる」などと同じことを言っている英文ページを見つけた。調べてみると、日本の業者がこのオヤジのパイプを輸入して売るときに、「ラッカー仕上げと違って喫い味のいいカルナバワックス仕上げ」といった能書きを並べていたらしい。
パイプ関係のサイトで気になったのは、謙遜のつもりか知らないが自分の買ったシャコムやブッショカンの品物を「安物」と言ってはばからないことだ。安物というなら半分以下の値段の品がいくらでもある。安政時代からの老舗は自分のブランドで安物を売ったりなんかしない。日本で五〜六千円から売ってるあの辺の品は「安物」じゃなくて「普及品」だ。パイプなんてものは日用品なので無闇に高い値段をつけたりしないものだ。今ちょっと流行りらしいフレンチプレス式コーヒーメーカー、あれの人気ブランド・ボダムの、輸入されてる一番いい奴だって一万円出せば買える。ただパイプはステンレスとガラスのコーヒーメーカーと違って手のかかる工芸品という側面もあるから、メーカーはもっと値の張るグレードも作って売っているし、買い手もあるのだ。
日本にはパイプを喫む文化がなかったので、日用雑貨のパイプなんか持って来ても数がさばけるわけでなし、そこで昔の業者は高価な品を仕入れてアルフレッド・ダンヒルにあやかり「高級品でございます」というマーケティングをやったので、今でもパイプに対しては金持ちの道楽みたいなイメージがある。そればかりやってきたせいでパイプ人口の裾野は広がらなかった。嫌煙の風潮からしても、いまにわかブームが起きたところでもう先はないのだから、せめて静かに滅びさせてほしかったと、ネットを見渡して思う。