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von_yosukeyanの日記: 政府日銀は電子決済を真面目に推進する気があるのか?(1) 2

日記 by von_yosukeyan

いきなり私事でアレなのだが、先日カーゴパンツが破れた。ケツポケットに財布をいつも入れてるので、ポケットの周りが財布の形に擦り切れて(そういえば某ともちゃ氏のジーンズは携帯電話の形に擦り切れてた)いたのでそろそろ買い換えようかな、と思っていたのだが、ポケットとポケットの間のおしりのところが薄くなって、シースルーになりかけていたのを事務バイト中に見つけて焦った。これでは、おパンツが見えちゃう

そういうわけで、事務バイトの帰りに適当にジーンズかカーゴパンツでも買いに行こうと車を走らせたのだが、車内でそういえば財布の中身が2000円しかないことを思い出した。しかも、先日現金引き出し用口座として使っている郵貯口座から、ちと拝借して証券口座に金を移したものだから、最寄のジャスコに寄ったついでに現金を調達するといういつもの行動パターンが使えない。そういうわけで、ちょっと遠回りしてローソンまで行ってMHBKの口座から現金を下ろす羽目になった

衣料品店など、大抵はクレジットカードが使えるところが多いのだが、クレジットカードなど使おうものならダメ人間のように見られてしまう田舎に住んでいる身としては、とりあえず現金を用意しておいた方が無難である。たとえそうでなくとも、クレジットカード可の店でCATの使い方を知らない店員に当たった事態を考慮に入れて現金を持っておいた方が良いワケで、普段確実にVISAが使える店にしか行かないボキュとしては、衣料品の購入などはあまり愉快ではないことが多い

わが国は、おそらく先進国の中では最大級の現金決済大国であるのではないかと思う。もちろん、中国やインドなど途上国を入れると電子決済が進んでいる国の方に入ると思うのだが、それでも現金でなければ決済できないという場面が多い。面積辺りのATMの配備率が最も高いのも日本であると思う。病院や役所のATMには常に人が並んでいて、かなりの額の現金を下ろして窓口で現金で支払うという場面は良くあるし、市役所の中に出張所や派出所を置いている金融機関も多い

一方で、クレジットカードの利用場面のほとんどが、単なる支払いカード(ペイメントカード)としての利用が多く、リボビリング払いとしての利用はあまり多くないだろう。クレジットカードのような与信決済と、現金という直接決済の間が、わが国では空白地帯として存在している

海外で言えば、こういった中間を埋めるものとしては小切手があるだろう。小切手は、原則的に当座預金の範囲内で利用することができ、場合によっては当座貸し越し契約を結んでおけば与信決済も可能である。小切手は給与や手数料の支払いだけでなく、個人間の決済にも利用できるので、英米系の国々では小切手決済が高度に発達している

しかし、大陸系諸国や韓国を除くアジア諸国では小切手決済が一般的ではない(韓国の場合には高額紙幣の代替として自己宛小切手を使用するので一般的な小切手の使用方法ではない)。しかし、それらの国々でも与信決済と現金決済の中間的な決済方法はいくつか存在する

典型的なものが、デビットカードだ。デビットカードは、銀行預金の範囲内でキャッシュカードを用いて決済が可能なシステムだ。米英系ではVISAやMaster、中国ではUnionpayなどである。しかし、日本ではJ-Debitと呼ばれるデビット決済システムとはこういった諸外国の決済システムは大きく異なる

元々、外国で発行されているクレジットカードは、加入者を勧誘して与信審査し、アカウントを管理するイシュアーと、加盟店を勧誘して与信審査し、売り上げを処理するアクワイヤラーが分離されている。イシュアーの大半は銀行で、アクワイヤラーの大半はデータ処理業者なのだが、与信ではなく預金口座と結びつけて、預金の範囲内で使える即時払いのカードとして登場したのがデビットカードである。従って、デビットカードとして使用可能なキャッシュカードには、VISAやMasterのロゴが印字されており、加盟店端末ではクレジットカード用の端末でそのままデビットカードを利用することができる

これに対して、日本のJ-Debitはクレジットカードとは異なるインフラストラクチャを使用する。銀行は近年まで本体がクレジットカード発行を認められていたこともあるのだが、決済用端末はJ-Debit専用のものを用い、決済インフラのバックボーンにはNTTデータのCAFISを使用するのもの、銀行とCAFIS、CAFISと加盟店端末のネットワークはクレジットカードと大きく異なり、加盟店側でも銀行などとの間で新たにJ-Dibit加盟店審査が必要になる

最近では、J-Debitとクレジットカード決済端末(CAT)の機能を統合したInfoxなどの統合端末が登場しているが、加盟店によってはCATとJ-Debit端末がレジ台の上を我が物顔で占領している場面を見ることが少なくない。しかも、サイン決済がほとんどのクレジットカードに対して、デビットカードの場合にはキャッシュカードの暗証番号(PIN)を入力する必要があり、「デビットカードを使ったらカードをすられて現金を引き出される」危険性などは、最近のカード預金被害の話が出てくるずっと前から指摘されてきた。もちろん、PINパッドは当初から暗証番号の盗み見がしにくいようにカバーが取り付けられていて、うんこ銀行のATMなどよりは、よほどしっかりした対策になっているのだが、未だに不安は絶えず「デビットカード用に使う口座は本口座とは別の口座の開設を推奨する」としている地銀すら存在する有様だ

デビットカードが普及しない理由には、セキュリティ面での不安が解消されない以外にもいくつかある。加盟店側にとって、デビットカードの決済手数料が決して安くない点だ。クレジットカードの決済手数料が、概ね3%~5%台であるのに対して、デビットカードの決済手数料は2%と低いものの、下限20円、上限2400円とクレジットカードに対して特別安いと言える水準ではない。この金額の中には、CAFIS手数料7円が入るワケだから、少額の利用が多いコンビニでの利用が進んでいないのはこのためである(ローソンデビットはJ-Debitではなくローソン本部と郵貯や信金・第二地銀などが独自に参加した決済システム)。また、日本の小売業は一般的に利益率が5%前後なので、2%の決済手数料を取られると、スーパーを中心に赤字になってしまうという事情もある

この決済手数料も、元々は郵貯(当時の郵政省)が1%台の手数料を、銀行などが3%以上の手数料を主張して、その折衷案として2%とされた経緯がある。この2%の手数料案に対しても、当時の東京三菱銀行は行政主導のシステムであるとして採用を拒否し、未だ持ってJ-Debitには加盟していない(実験段階である「きょうと情報カードシステム」には加盟しており現在でも使用できる)

利用者側にとってネックになるのは、決済時の時間だ。店員が不慣れなせいもあるが、端末にカードを通して、利用者が暗証番号を打ち込むのに時間がかかる。理由として、決済端末とPOS端末が一体ではなく、POS端末側で決済種別を入力して、決済端末に利用金額を入力し、利用者に暗証番号(PIN)を入力してもらい、認証が通れば利用明細に店員がサインしてレシートとともに渡す、といったように決済が終了するまでの手順が多すぎる。これはクレジットカードでも同じだが、CATで決済をするときにはPIN入力が必須ではない(ICカード決済の場合にはPINを使うこともある。将来的にPINのみになる予定)ので、サインをした時点でほとんどの作業が終わってる場合が多い(あとは店員がサインをして明細とレシートを渡すだけ)。また、スーパーやコンビニでは、サインを省略する(利用金額が小さいために加盟店側がリスク負担をしている)こともあるが、デビットの場合にはPIN省略ができない仕組みになっているので、2Hopは手順が多くなる。その間にレジに並んでる列が長くなると、どうしてもデビットカードを使いたくなくなる

これは、クレジットカードやEdyやSuicaのようなFelica系の電子マネーでも言えることだが、最初からPOSシステムに電子決済系の機能が統合されているケースはなぜか多くない。ほとんどの場合は、専用端末とPOSが個別に接続されていて、POS側の操作で例外的に電子決済アプリケーションを起動する手順になる。その上、POSと端末は別々に操作する必要があるので、手順はかかるし、店員の教育コストがかかる。スーパーやコンビニなどでは、個別に接続されていてもPOS側ソフトウェアの修正でPOS側で一元的に管理できるシステムになっている場合が多いが、大多数の小売店では一体型のPOSに投資することはない

これに対して、海外のデビットはどのような仕組みかというと、まずPOS端末にCATに相当するクレジットカード決済機能が統合されている場合が多い。日本でも最近普及してきたが、POSそのものがソフトウェアのアップグレード可能なWindows稼働のPOSが多いことも要因だが、電子決済が広く普及していることが大きい。また、デビットカードの多くがPIN入力が必須のもの(例えばVISA/Electron、Master/Maestro)も普及しているが、多くがクレジットカードと同じようにサインで本人認証が終了するサインデビットも普及しており、セキュリティ上の懸念についても銀行側の保証がきくものも一部にはある

さらに、日本にはないキャッシュアウト(イギリスではキャッシュバックと呼ぶ)が普及の要因になっている。これは、買い物金額よりも多い金額でデビット決済し、お釣りを現金で受け取ることができるサービスのことで、例えば1ドル50セントの買い物をして、11ドル50セントで決済すれば、レジから10ドルの現金を入手できるといったサービスだ。ATM密度が低く、手数料を節約したい顧客にとっては、無料で使えるATM代わりになるし、銀行側にとってはATMコストの節約、加盟店側にとっては顧客に現金の入手のついでに買い物をしてもらうというメリットがある

日本では、キャッシュアウトに関してはJ-Debitの仕組みを作ったときに、銀行法上の規定と監督当局のセキュリティに対する懸念から機能からはずされ、オフラインデビット(銀行側の勘定系システムが停止している時間帯にもICカードに書き込まれた金額を元にデビット機能が使える機能。現状では、銀行側の勘定系が停止している時間帯には利用できない)ICカード型J-Debit導入時に先送りされたままだ

J-Debitが、政府・日銀と銀行協会の面々が雁首揃えて、VISA/Masterでも何でもない日本独自規格にしてくれたおかげで、とんでもなく使いにくい代物になってしまったことは確かだが、加盟店や銀行側も電子決済のメリットを理解していない点が多い。銀行側にとってみれば、ATMの配置・維持に関連するコストは極めて巨額であり、預金者サービスとして24時間ATMや、時間外手数料無料の口座を用意したとしても、単なるコスト要因に過ぎなくなる。しかし、モノやサービスの対価として口座から引き落とすデビットサービスは、単なるコスト要因であるATMサービスと比較しても、利用金額に比例して手数料が入り、顧客サービスも向上する

一部には、デビットカードが普及すればクレジットカードの市場が食われるという懸念がある。実に馬鹿げた発想だ。欧米では80年代からデビットカードの普及が始まっており、90年代待つから急速に利用率が上昇しているが、デビットカードの利用率もクレジットカードの利用率も上昇しており、両者はきちんと共存している。現金が口座にあるときにはデビットで、口座にはないが将来的に入ることが予定されるならクレジットカードで、と利用者側の棲み分けができており、現金や小切手による決済は減少しつつある(米国ではすでに小切手決済が減少している)。クレジットカードとデビットの決済インフラが同じである最大の効果はこれであり、わざわざ独自のシステムを構築してしまったJ-Debitは出来たときから、失敗を保証されたようなものであったと言える

加盟店側から見れば、現金を取り扱うオペレーションコストが減少する。クレジットカードよりも手数料は現に安いわけだし、クレジットカードの利用代金が入金されるまで1週間~1ヶ月かかるのに対し、デビットカードの場合には3日~1週間と短く、売り掛け回収期間も短くなる。また、「手持ちがないのでまた今度にする」といった顧客にも「キャッシュカードが使えます」という文句は非常に有益だ。現に、タクシーや百貨店など、利用金額が比較的大きい分野ではデビットカードの利用が普及している

また、現金を取り扱う場合、カードで発生する加盟店手数料はないものの、現金を管理し、金種を揃えるという間接的なコストが莫大であるという点を無視してはならない。現金オペレーションコストは、人件費の形で確実に現れてくるし、警備費用や夜間金庫手数料などの他に、近年の銀行側の両替手数料の有料化によって、現金を取り扱うコストは上昇の一方である。現金決済を減らして、現金オペレーションコストを削減することは、小売店側に大きなメリットをもたらす

これは、電子決済を推進する側の一つである、政府・日銀にとっても同じことだ。J-Debitをはじめとする電子決済システムの構築には、全銀協・郵貯と共に政府・日銀の強い関与と影響力行使があったことは事実である。現金決済が減少すれば、端的に莫大なコストがかかっている銀行券及び硬貨の流通量が減少することになるし、ひいては社会全体での現金決済にかかるオペレーションコストを削減することが可能である。電子政府の実現のためにも、手数料の納付方法に電子決済の普及が明確に盛り込まれていない点はなぜだろうか?

そして、行政そのものの窓口業務における現金オペレーションコストを削減できる。現状では現金や、印刷費のかかる証紙・印紙の形で納入されている手数料や税の納付に関しても、電子決済を推進することによって激減できるし、行政サービスの向上にも資する。良いこと尽くめなのに、カードで税金や手数料が納付できないのはなぜだろうか? 少なくとも、「IT行政先進国」と言われる欧米や、アジア各国・北欧などでもカードによる行政への納付が可能な地域は多く、未だに現金のみであると言うわが国の現状はいかがなものだろうか

もしかすると、政府日銀は銀行券が減少することによる金融政策の変化を恐れているのではないか、という陰謀論も考えてみたりする。もっと斜め上の考え方をすれば、「銀行券が減ると、日銀資産が減るので国債を押し付けられなくなる」んじゃないかとMOF近辺が心配してるとか思ったりする(銀行が引き受けるので問題はないと思う)。まぁそこまで策謀をめぐらすほど行政はスマートではないと思う(失礼)が、次期政権においては行政の効率化のために現金決済を減少させるための効果的な政策立案を期待したい

(2に続く)

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  • by nekopon (1483) on 2006年08月27日 8時38分 (#1005463) 日記

    どうもこんにちは。いきなりですが第12パラグラフ

    クレジットカードの決済手数料が、概ね3%~5%台であるのに対して、クレジットカードの決済手数料は2%と低いものの

    後者の「クレジットカード」は「デビットカード」の誤りでしょうか?

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