czkey.xiの日記: アーティストは、道徳や良識や倫理観をしっかりと持つべき。
ある楽曲に関して、楽曲と作者に、嫌悪と不快感を感じている。
人を傷つけることがおしゃれに描かれた音楽。
そんなものが流行っている、ということに、おぞましさを感じはしないだろうか?
1リスナーであれば聴かない、という選択肢でおしまいなのだが。
私は音楽を作る側の人間として、これは看過できないと思った。
音楽は自由だ。
誰でも色々な音楽を、聴いたり、歌ったりできる。
その音楽の中に、作者は混ぜたのだ、毒を。
食事に毒を混ぜるように、あるいは、空気に毒を混ぜるように。
音楽を通して、人を麻痺させてゆく行為。
それは最低限の道徳も良識も倫理観もない行為だと、言わざるを得ない。
これはアーティストひとりひとりが、してはいけない行為だと認識しなければならない。
そもそもの発端は、歌ってみたのmixの依頼を受けたことだ。
その作業中に、その曲と歌詞に違和感を感じて、歌詞を調べて読み込んでみた。
割と素直に読み取ったつもりだ。
歌詞が気になる方は、こちらで見ることができる。
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/37954.html
一言で言って、酷い。
「人間・失格〜たとえばぼくが死んだら」というドラマをご存知だろうか。
この曲は、その「TVドラマをモチーフに書いたもの」と字起こしされている。
https://realsound.jp/2019/03/post-328670_2.html
ドラマが、イジメと自殺と復讐の話だったことは容易に思い出せた。
このドラマ自体、放送当時にかなり話題性はあったものの、初期の視聴率が低迷。
後半は吹き返すが、初期の低迷に引きずられ、最終的な平均視聴率はそんなに良くなかった。
その理由はあまりにもその描写が、見るに堪えなかったからであったと記憶している。
私も当時に何度か見たが、前半は本当にキツいものがあった。
リアルではあった、のだろう。
この歌詞のストーリーには復讐こそないが、イジメと自殺ははっきりとある。
そして、この歌詞の主人公は、イジメを仕向けた加害者側である。
死をモチーフとした作品ならば、私にも多数ある。
昔から芸術は死と密接に繋がっていた。
しかし、しかしだ。
この曲は、軽やかな美しいサマーポップなのである。
実際、「夏をテーマにしたボカロコンピ用に書き下ろした曲」だったらしい。
曲の出来は非常に良く、おしゃれで、まるで夏の景色が浮かんでくるような音楽だ。
さらっと聴いた人は、おそらくこの曲に対して、いい曲だなぁ、と思うだろう。
私もそう思っていた。最初は。
だが、この綺麗でおしゃれなスッと耳に入ってくる音楽は、
イジメの加害者が、自分勝手な恋愛感情を押し付け、イジメを仕向けて自分に振り返るよう画策し、
結果として死なせた上、今度は自分が自殺すれば、愛しあえるだろう、などと言う…。
ただのあたおかとしか思えない歌詞なのである。
自分勝手な恋とイジメからの人殺しと自殺の歌詞は、ドラマと同じようなテーマを扱っている。
しかしドラマとこの曲にある決定的な差異は、この曲に全くリアルさが無い、ということだ。
楽曲が綺麗なサマーポップだから、気にせず聴ける。
ドラマが見るに堪えなかったような、楽曲が聴くに堪えない、ということはないのだ。
本来、その話に接した時感じるべき感情を、感じないように作られている。
リアルさが無いがゆえに、大半のリスナーには、さらっと聴けてしまう。
だが、いま被虐の渦中にいるリスナーには、どう聴こえるだろうか。
あるいは、加虐の渦中にいるリスナーには、どう聴こえるのだろうか。
おしゃれなサウンドと共に身近に存在しながら、何も考えることのないモノとして。
イジメや自殺という問題についての傍観、被加虐に対する感覚麻痺。
これが良い音楽だとは、どうしても私には思えないのだ。
少なくとも自分の子供に聴かせたい音楽ではない。
それとも、この曲をきっかけにイジメや自殺を考えようとでも作者は言うのだろうか。
そう意図したとも、そうなるとも、到底思えない。
映倫があるだけ、AVの方が256倍マシだろう。
放送禁止用語でなんとかなるような話じゃない。
アーティストが自らの作品を愛してもらうために、取る策略はえげつない。
それなのに、リスナーはきちんと取捨選択できるだろうなどと述べるのは間違っている。
アーティストは、どれだけどのような影響を及ぼすのか、きちんと考えるべき。
時に自身の作品を、封印する、という決断も必要なのだ。
センセーショナルで、エモーショナルで、刺さればいい、なんて考えはゲスでしかない。
しかし、それらが判断の基準になっているのは現実だと思う。
いかなる作品を作るのも、アーティストの自由ではある。
しかし、自由にもきちんとルールがあるのだ。
アーティストだから、人としての道を外れて良いわけでは無いように思う。
アーティストは、道徳や良識や倫理観をしっかりと持つべき。