kahoの日記: 終わりに代えて〜STAP論文調査委員会NGSデータの公開を求める一提案〜 20
私事によりここ数日は休暇を取り多忙であったため出遅れてのコメントになります。
そのつもりはなかったのですがこちらでの発言に対して匿名での(卑怯な)告発扱いをされたこともあり最近は実名でTwitter(@caripso)での発言だけにしていました。今回こちらに書くのは140文字では収まらないからですが,色々騒がせてしまったこともありこのアカウントはこのエントリで最後にしようかと考えているところです。
私は調査委員会そのものに呼ばれたことはなく,解析も担当していないため発言には制約を受けないと考えますので思うところを述べていきます。以下の発言は組織とは全く関係なく,私一個人の意見です。
調査報告書に示された残存サンプルの解析は情報量も解析内容も膨大かつ詳細で,感嘆せずにはいられませんでした。
関係者の皆様のご苦労をねぎらうとともに感謝を捧げたいと思います。
一方で,調査対象になった著者のうち事実と異なることを述べたのは誰か,という断定は出来る限り避けたいという意図があったように思えました。取得したデータのうち,内容を伏せている部分,論文と証言が明らかに矛盾することに触れていない部分があるからです。また科学的な証拠が不十分な点も散見されたと思っています。
時間が取れず読み込みが不十分で誤解もあるかと思いますし,質疑応答で取り上げられた部分もあるとは思いますが,報告書のみを見て私の専門に関係する部分で思うところを記します。
第一にNGSデータへの適用について。
16ページ2-3-1-2 3)において,残存していたChIP-seq inputからSTAP細胞として持ち込まれた細胞がES細胞に類似していることが示されています。STAP細胞は幹細胞化を行っておらず,増殖もほぼ起こらない細胞ですから「誰が」ES細胞をSTAP細胞と偽って解析に持ち込んだかは容易に分かると思います。この点について証言もなく,評価でも触れられていないのは残念です。
第二に16ページ,2-3-1-2 4)において,論文には用いられていない未登録RNA-seqデータとはどのような結果で,Letter Fig.2iは再現できないとはどういう意味かということです。
報告書には細胞の遺伝的背景のみが書かれていますが,遺伝子の転写パターンがどうであったかについての記載がなく,「データを取捨した…小保方氏と笹井氏」がどのようなデータを見て,どう考えたかを推測することができません。
詳細な内容を記述するより,細胞名とデータそのものを公開していただきたいと思います。
またRNA-seqは2012より行われていたと書かれていますが,2012年末から論文作成に参加されたという笹井先生が「取捨」に関わったのがいつのことなのか,また決して安くはないRNA-seqの費用がどこから出ていたのかも調べて公開していただけたらよかったと思いました。
第三に,スライド10ページ目の図です。
この図の説明は粗雑にすぎると思います。「同一といえるほど酷似」というのは明らかな言い過ぎであり,定量的な情報も示されていません。
例えば父親であるB6および母親である129において多型があり,同じ親から生まれた同腹のマウスであればここで示されたような類似(3染色体の一致)は十分あり得ます。
精力的に解析された方々に注文をつけるようで心苦しいですが,このように言う理由は公開NGSデータから私もどうようの特徴を既にみつけており,しかし検討の結果決定的なものとは言えないと参考程度にとどめていたことがあります。
B6と129で違いのあるSNPsについて染色体上に並べた解析を行い,ChIP-seq (H3K4me3),TruSeq,SMARTerで染色体構造について調べていました。
このデータはスライド10ページに言う,第11, 12染色体における特徴的なSNPsの偏りを見つけ,メディアによる取材時にも少し話しましたが,トリソミーを持っていたSMARTer STAPもAcr-GFP/CAG-GFP由来であるのではないかと考えました。しかしこの細胞の親の遺伝型が推測できない以上,この類似性からどこまでのことが言えるのか自身が持てなかったため,単なる推測としてしか話さなかった経緯があります。
また,11ページ目に示したデータはFES1とFES2という2つの細胞の遺伝的関係が示されて初めて意味を成します。
FES1とFES2を,同系統のマウス(岡部研B6マウスと129X1SLCマウス)から得られた別の細胞を外郡として比較し,それらが遺伝的に近いのか遠いのかという基本データがあって初めて意味を成す情報になります。
これを調べるためのデータは既に解読された配列の中に含まれていますので,新たに調べる必要も調査委員会やそれに関わった方々が情報として解析する必要もなく,生データを公開することで明らかになると思います。
最後に感想として驚いたことを。
25ページ目
なお小保方氏への書面調査で、小保方氏はSTAP細胞を作製する際に若山氏から渡され たマウスの遺伝的背景を把握していなかったこと、また、若山氏から(Oct4-GFPを有す る)GOFマウスを渡されたものと思っていたことが明らかになった。
この説明は「明らかになった」で済ませることはしてはいけなかったと思います。あまりにも絶句してどう説明してよいか分かりませんが,論文の論理を根底から覆すことになるからです。
その認識が論文出版時まで同じであったとしたら,あの原稿は書けませんし読むことすらできないはずです。
CAG-GFPのSTAP細胞を得たのは,Oct4-GFPの細胞による観察に基づき細胞塊を取得することによって初期化した細胞が得られることを知っていたからというロジックですが,そのロジックを考えたのが筆頭著者ではないということになりますが,論文成立過程についてもっと調査が必要だったのではないかと思います。
本来なら著者間のメールのやりとりを開示させ,論文の成立過程を追うべきだったのではないでしょうか。CDBのメールサーバーには残っているはずですが,なぜそれをしなかったのか。法律家がそれを止めたのだとしたら非常に残念です。