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561545 journal

von_yosukeyanの日記: 常識?

日記 by von_yosukeyan

http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/NEWS/20050808/166025/

日経コンピューターに妙な記事が出てる

谷島宣之氏はかつて、同じコーナーで「りそな銀行のシステム統合は偉業」という記事を書いていた。りそな銀行が合併した直後で、旧大和銀行のNEWTONベースのシステムに旧あさひのCAPを統合する予定だった頃の話だ。さらに数ヵ月後には、劣ったシステムに統合したとしても、企業の経営とは別のレイヤの話だ、という趣旨の訂正だか何だかわからない記事を書いていた。結局、りそなはトータルの移行コストとアウトソーシングコストの見直しで、CAPの優位性を認定して以前の計画を破棄した

さて、本記事のおかしなところだが、いくつかある

第一に、先日の合併が延期になるという報道では、8月8日に求められた再報告は合併中止の経営判断によって、金融庁に提出期限延期の要請を行い了承を得ているという報道を全く無視している。また、本来のスケジュールだと8月中旬のシステム停止時に予定されている結合テスト・リハーサルの結果を元に、8月31日に統合の経営的最終判断を行う予定なので、現時点で「指摘された問題点は修正し,作業の遅れも取り戻したため,先に見たように,もともと作っていた移行判定基準に基づいて,合併の可否を判定すると「GO」になってしまう」わけではない

FSAと三菱UFJ側の見解の対立を整理してみると、まず3月からのFSAの検査で、1)8月31日に予定している商業銀行・信託銀行の統合判断基準が曖昧、2)主要なシステムの最終テストが9月中に集中し、8月末の統合判断に間に合わない、3)統合後のシステム負荷の大きさが不明確、4)顧客への提供サービスの説明が不十分などを把握し、5月頃に三菱UFJ側に改善を求めた。FSAの7月の再報告要求は、この内容が満たされていないために行われた。移行判定基準は、FSAの改善要求により内容が更新されているはずなので、「もともと作っていた移行判定基準に基づいて」判断すればFSAの勧告を無視していることになる。どうも、事実誤認な気がする

第二に、全体テストを「金融庁の過剰なテスト要求」と谷島氏は言い切っているところだ。金融系のシステムの中でも特に銀行の基幹系システムは、個別のシステムが行っている処理そのものは単純でも、他のシステムとの関係が複雑で処理量が極めて膨大である。そのため、異業種と比べて比較的テストを重点的に行い、変更しないシステムに関しても実データを流し込んで慎重に行う傾向にある(そのため、一般に金融系システムの開発期間はかなり長い)。過去に発生した金融系システムの重大な事故でも、変更部分よりも変更を行っていないシステムに潜在的な問題があり、システム変更によって問題点が顕著化するという事例が少なくない

現在都銀や地銀が進めている「ポスト3オン」(80年代に構築された第三次オンラインシステムの後継となるシステム)開発でも、こう言った新規のシステム変更に伴って発生するテストの煩雑化や、潜在的バグの顕著化を避けるために、入出力インターフェースの標準化、EAIツールによるハブ・アンド・スポーク化、機能ごとのモジュール化・カプセル化、勘定系の店群別分割を進めているが、まだ途上と言ってもいい。ましてや、開発手法やテスト方法、運用が全く異なる別の銀行同士の合併に際しては、テスト段階で双方のテスト手法の違いが問題になることすらある。「過剰なテスト要求」という表現は、ちょっとテストを舐めているんじゃないかとも思ってしまう

三番目に、過剰に政局問題と官僚批判をからめているところだ。FSAはかつての大蔵省銀行局時代や、その後継の金融監督庁(金融監督委員会隷下)時代とも異なり、公務員定員削減下にあって、検査体制の充実のために大幅な人員増強を行っており、システムアナリストの数が少ないことは否定できないが、かなり専門化が進んでいる。旧銀行局時代のように高級官僚や政治家の圧力で検査が左右されることは少なくなっているし、むしろFSAはそのような見方を払拭しようとしている。FSAは、かつての恣意的な規制に基づく護送船団的な行政運営ではなく、監督能力に特化した組織に変貌しようとしており、それはFSAだけでなく公正取引委員会など他の規制当局にも言えることだ

谷島氏は、「恣意的な規制」と「監督」の問題を履き違えているように思える。日本の行政規制は、恣意的な規制が多いという問題点があるが、だから「規制を減らして自由にやらせろ」というのは、近世の放任経済への後退だ。むしろ、日本に不足しているのは政治における統治原則と、行政における監督能力の欠如である。純粋に谷島氏は、一部で報道されているように「UFJHDとMTFGの経営統合はFSAに相談がなかったからけしからん」という話から恣意的な規制と見ているのではないか

UFJとBTMの合併銀行は、統合すれば4000万口座を有し、上場企業の大多数、日本企業のかなりの割合が何らかの取引関係を結ぶ巨大銀行になる。このような銀行でシステム問題が発生すれば、金融システム不安だけでなく、日本経済全体に与える影響が大きすぎる。FSAが統合プロセスの監視と、統合そのものの認可を慎重に行うのは当然で、しかも通常の銀行の合併よりも準備期間が短い今回のケースだと合併認可が下りない可能性は十分に予想できる

結局のところ、この記事は「FSAとBTM・UFJの間でどのような見解の対立があるのか」をはっきりさせないまま、巧妙に役所と政治はけしからんという話に繋げているわけで、内容的には日経ビジネスに掲載されたBTM側の提灯記事をなぞっただけのようだ

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