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xapの日記: 萌える板金屋さん 3

日記 by xap

近所に板金屋さんがある。

自宅と駅の中間地点に在る為、毎朝毎晩、その板金屋さんの前を通る事になる。

板金屋のオッサンは、ベストキッドに出てくるミヤギさん(ノリユキ・パット・モリタ氏)に似た朴訥としたオッサンで、よく愛犬の黒ラブを散歩させていたり、工具をもってブラブラしていたりと、どっから見ても職人風なオッサンである。
声を交わした事さえ無いが、板金屋の壁に描かれたオッサンの手からなるであろうウォールアートや、ガラス張りの事務所に見える小物等からセンスの良さが垣間見え、個人的に好感を持っている板金屋さんだった。

そんな愛すべき板金屋さんに、変化のきざしが見え始めたのは、ちょうど一年くらい前からだった。

ある朝、いつものように駅へと向かう途中、板金屋さんの前に見慣れぬモノが置いてあるのに気がついた。
それは、高さ1m弱の小さな看板だった。
全体的にパステル系の色調をバックに、パンツが見えてないのが不思議なくらい短いスカートを翻し、軽やかに飛び跳ねる女の子の絵。
その女の子を取り囲むように、丸ゴシックで書かれた文字は、

「痛 車 は じ め ま し た」

我が目を疑うとはまさにこの事である。
何か質の悪いパラレルワールドに迷いこんでしまったのかと、思わず5秒程看板を凝視してしまった。
端から見たら俺の方がおかしな人である。
後に、自分史の中で「板金屋の乱心」として代々語り継がれることになる大事件は、こうしてひっそりと幕を開けた。

そらから暫く経ったある日の夜、自宅へと向かう途中、板金屋さんの芸術的ともいえるウォールアートが描かれた壁面になにやら不埒なポスターが貼ってあった。
夜でも、そのポスターに気がついたのは、あろうことか、ポスターに向けて下からライトアップされていたためだ。

例によってコテコテな女の子が飛び跳ねる絵柄の下には、

「痛 車 製 作 員 会」

よくよく見ると、板金屋さんの屋号の他に、見覚えのある印刷屋さんの屋号の名前が書いてある。

それは、板金屋さんから更に数十メートル先にある印刷屋さんで、やはり毎日その前を通っているので、よく知っていた。
この町で生まれ育った奥さんに聞いたところ、奥さんが物心つく以前からある老舗らしく、商工会や学校等の堅い顧客をもちつつも、漫画を掲載したチラシや、店舗の扉に貼られた大版の広告シール等からも、デザインや制作のセンスを感じさせる、まさに温故知新を地でいくような印刷屋さんである。

まさか、そんな敬愛すべき印刷屋さんまでもが「痛車」に加担していようとは・・・。

「腐海じゃ。腐海がこの町を飲み込もうとしておる・・・」

耳の奥でユパさまの声が聞こえる。

とはいえ、こんな神奈川の場末の町。そうそう痛車が流行るとは思えない。
板金屋さんも印刷屋さんも、その試みが一時の過ちであったと気づくことがあるだろう・・・。

そんな風に考え、その場を後にした。

が、

あれから、1年弱経った今、板金屋さんの前には毎日数台の痛車が置かれるようになった。
なんでもないシックな車が日に日に痛くなっていく様は、なんというか、普通だった友人がどんどんオタ化していく光景を見せられるようで、諸行無常としか言いようがない。

嗚呼、この町は、いったい何処へ行こうとしているのだろうかと、思わずにはいられない。

南無。

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  • by shibuya (17159) on 2010年02月20日 11時32分 (#1721207) 日記
    どこなのかな~?近場だったら行ってみたい。
    • > どこなのかな~?

      > こんな神奈川の場末の町。

      と、言ってるからには、神奈川に違いない。しかも、xap さんが言ってるからには「神奈川県」というような広い範囲ではなく、東海道五十三次で言う神奈川宿の近辺に違いない。あのあたりは古くからの町だから板金屋さんや印刷屋さんが転がっていてもおかしくない。

      ところで、板金屋がからんでいるとなると、痛車ではなく「板車」と本当は書きたかったんじゃないだろうか。板金打ち出しの技術の粋を結晶させたような車、それが「板車」だ!

      それをどう間違えたか「痛車」と書いてしまったので、痛車の注文が殺到しているというのが、本当のところではないだろうか。

      また、印刷屋さんもからんでいるという。印刷製本と言えば、あの贅を尽くした本の「装丁」が思い浮かんでくる。装丁、テイテイテイタイタ、、、 そう、「丁車」と書きたかったんだ!

      板金打ち出し技術に本の装丁を加えた「イタテイ車」!これこそが町の工芸技術の結晶として計画されたものに違いない!

      それが、「痛い車」になってしまうなんて、なんて痛い損失なんだ。あー、この町は、日本はどこへ行ってしまうんだろう?

      親コメント
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