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von_yosukeyanの日記: 住宅ローン金利と長期金利 2

日記 by von_yosukeyan

少し前のエントリーだが篁風日記で、住宅ローン金利と長期金利に関する興味深いエントリーがあった。長期金利に関する見方は、イロイロあるし、学術的・政策的な観点に関しては本石町日記を熟読してもらうとして、今住宅ローンを借りる際に長期金利をどう見るのかという点について考えてみたい

■フロー、リスク、アセット
いきなり本題からそれるが、最近株高ということもあってか、「今どういう銘柄に投資しているのか」という質問を受けることが多い。実のところ、これほど困る質問はなく、直近で売り買いした銘柄を言うか、分散投資しているからと言って誤魔化す場合が多い

直近に売り買いした銘柄を言うのも、分散投資していると答えるのも回答としては間違ってはいないのだが、実際に漏れは分散投資を行っているので、保有している銘柄や、その銘柄になぜ投資しているのかという話になると、それこそFEDの金利動向から、次世代戦術戦闘機のエアインテーク設計における流体力学思想やら、インドネシアの反政府勢力の動向まで話す羽目になるのできりがない。そして根本的に、投資に対する独自の考え方を持っているので、個別銘柄に対する意見を言ったところで意味がない

漏れが投資に際して常に心がけているのは、単に市場リスクを分散させる「分散投資」ではなく、「フロー」「リスク」「アセット(またはストック)」の調和を図ることだ。今回は、漏れの分散投資に対する考え方を説明するのが目的ではないので、単純化して説明する

まず、フローとは手元で消費にも投資にも使える現金(まぁキャッシュフローと言い換えてもいいかもしれない)のことである。フローを生み出すのは、基本的には給与であるが、アセット(資産)を切り崩すことでも得られるし、公的年金、個人年金、アセットが生み出す配当、補助金、ポイント、借金など源はたくさんある。ここで重要なのは、フローは生活費や投資など何かに使うものであるので、フローを常に確保する必要がある。これは、投資や借金をしなくても、単に生活を営む上で収入と支出のバランスを考えるわけだから一番身近な存在だ

次に、リスクとはフローが確保できない危機のことだ。例えば、会社をクビになれば給与がなくなるし、資産(アセット)を失って、将来資産を切り崩すことで得られる予定のフローがなくなってしまうこともリスクの一つだ。つまり、リスクとはフローと資産(アセット)の両面に関わる危機を指す。これもフロート同じく、生活していく上では常に存在しているが、認識しなければないも同然なので、あまり気にすることが多くない

最後のアセットは、フローを確保するための預貯金、公的年金、個人年金、保険、株式、投資信託、債権、持ち家、そして給与を生み出すための職業上のスキルなど、およそ資産と呼べるものすべてだ。そして、アセットそのものがフローを発生させると同時に、リスクを生み出す。その意味で、フローとリスクとアセットは相関関係にある

つまり、漏れの「分散投資」とは、単にリスクの低いものに投資することでもなく、市場リスクに応じて分散させているのではなく、漏れ自身の生活におけるフローを確保し、リスクをヘッジするために行っている訳だ。そこから、様々な値動きを行う資産に分散させるわけだから、短期的な収益を求めるものから長期的なもの、市場リスクが極限に低いものから、ハイリスクなものまで「分散」している(個人的には「セグメント」と呼んでいる)

■家賃≠ローン
以上の観点から見ると、住宅ローンを組んで家を買う行為は、アセット(家)を獲得し、ローン返済のためのフローを確保する必要があり、かつ双方からリスクが生まれ、従来のフローとアセットを見直す必要が出てくる。そこで、よく考えなければならないのは、「借家から持ち家に移行するのは、同義ではない」ということだ

例えば、家賃に月15万払っているので、住宅ローンを組んで月15万返済していけば、家が手に入るわけだから持ち家を確保した方がいいという人が結構いる。もちろん、ボーナス時返済があるから最初から同義ではないのは当然だが、リスクは全く同義ではない

まず、借家から持ち家に単純に移行しただけでも、持ち家にかかる固定資産税が別途かかるようになる。時々、家を買うときに年初に明渡しを受けるようにして固定資産税を軽減させる賢い人がいるが、減免措置があるとはいえ負担は大きい。もう一つが、ローンに関する諸経費で、銀行から借り入れた場合でも保証会社に支払う保証料に、登記に係る行政書士への諸経費で3500万円台の物件で、適当に計算すると100万円くらいはかかる。さらに、ローンの繰り上げ返済時にかかる手数料も大きい

こういった直接的な「新しいリスク」のほかに、もう一つ考えなければならないのは、将来のフローの確保である。退職時に、退職金で一括返済を行うから大丈夫と考える人もいるが、雇用情勢がこのような状況で、しかも転職などにより退職年金が従来のように一定程度あるかどうかわからない情勢では、返済計画の修正を迫られる局面はいくつも出てくる。単純にクビになるリスクも考えると、ある程度のアセットを積んでおく必要がある。もう一つ、住宅ローンを返済し終えても、退職後の生活費としてのフローが確保できない局面も出てくる。公的年金の制度改正の方向性が不透明な今、公的年金以外にも資産形成や個人年金を確保することによって、退職後のフローを形成しなければならない

これ以外にも、結婚や出産、子供や自分自身の学費など、退職後のような長期的なフロー確保のためのアセット形成以外にも、中期的なフロー確保のためのアセットは必要になる。こういった、各種のリスクを考慮して、セグメントを切ったアセットを形成する必要は、何も持ち家を購入するというイベントがあってもなくても必要だ

■住宅ローンと市場金利
さて、やっと本題に戻ってきた。こういったフロー、リスク、アセットの調和(トリニティ)を図る上で、ストックとしての住宅を得るための住宅ローンに係るリスクは、市場金利以外にも考慮する項目が多いことがわかると思う

ここで強く自覚すべきは、住宅ローン金利と市場金利を混同してはならないという点だ。トリニティには自分自身のリスクやアセットが関係していることはすでに述べたが、自分自身のフローの確保を、企業会計や(国や地方公共団体の)財政と混同した計画を立ててはならない。これは、フローは市場以外にも考慮する必要のある観点が多いからだ

住宅ローンに関して基本的に関係する市場金利は、まず長期金利と短期プライムレートの二つの問題がある。長期金利とは、国庫債券(国債)の10年物の流通金利のことで、短期プライムレートとはコールローンやFB流通金利、TIBORなどが考慮に入る。どちらも、住宅ローンの貸し手である金融機関が、セカンダリ市場から調達する資金の目安であり、長期金利は主に固定金利型住宅ローンに、短期プライムレートは変動金利型住宅ローンに影響を与える

具体的には、住宅ローンの金利は伝統的に住宅金融公庫の貸し出し金利に強い相関性を持っていた。住宅金融公庫は、財政投融資の基準金利や機関債発行金利に連動し、財投基準金利や機関債発行金利は直近の長期国債の発行金利に連動してきたから、長期金利=固定金利型住宅ローンという相関関係があった。金利が横並びだった時代には、民間金融機関は住宅金融公庫の貸し出し基準金利を参考にローン金利を決定していたから、概ねこういった図式はあてはまっていた

しかし、金利が横並びだった時代には、民間金融機関はオーバーローンの状態にあったために、長期金利または、長期プライムレート(日本興業銀行が発行する利付興業銀行債券の発行金利に+0.9%上乗せした企業向けの最優先金利。現在もみずほコーポレート銀行が発行する利付みずほコーポレート銀行債券に連動している)に強い相関性があったが、金利が自由化された現在では、銀行の資金調達手段が、預金や金融債以外にも、社債やバンクローンなど多様化している今では確実な指数とは言いがたい。一般的な地方銀行の預金による調達金利が0.9%台(都市銀行はもう少し低い)で、社債による調達金利はもっと低い今から考えると、金融機関の調達金利と住宅ローン金利の関係は多様化していると言え、かつてのような単純な図式ではないと言える

もう一つは、現在特殊法人である住宅金融公庫は、今後独立行政法人化され、機関債発行による資金調達によってローンを行う形態ではなくなるという点だ。具体的には、米国のフレディマックのように住宅ローン債権をMBS(住宅ローン資産担保証券)やCLO化する保証金融機関となり、自身による貸し出しの他に、民間金融機関からの債権の買取や保証業務なども行うようになる。こういった証券化される住宅ローンは、現実的に言えば資金余剰にある民間金融機関が、自身の資金によるローン金利よりも若干高めになってしまうので、あまり競争力があるとはいえない。一方で、民間金融機関も、自身の保有する住宅ローンを証券化したり、金利変動リスクをデリバティブで飛ばしたりするので、市場金利と住宅ローン金利が乖離する貸し出しが現実的には多く行われている。そういう意味で、公庫金利が、民間金融機関の住宅ローンとの相関を失う局面は多くなることが予想される

現状の住宅ローン商品は、確実に長期金利と短期プライムレートに強い相関関係を示しているが、資金調達手段が多様化し、また金融機関の間でのリテール市場獲得のための競争が激化すると予想される中では、将来的には市場金利からプラスにもマイナスにも転ぶ可能性が出てくる。同時にローン返済まで、同じ金融機関で借り続けるという従来のローンの借方も、将来的には契約を見直したり、借換えを行うこともありえる。そう言った意味で、市場金利も重要なファクターであるが、それほど深く考えすぎるのも間違いではないかと思う

■固定だとうと変動だろうと、金利は確実に上昇すると考える
では、現実の住宅ローンを借りる上で、どのような要素を重視すべきだろうか

単純化して言うと、長期金利に連動する固定金利型住宅ローンは、将来的な金利上昇に対してのリスクは低いが、変動金利型と比べて高い金利が設定されているので、将来金利が上昇しなければ返済額が多くなるリスクがある。一方で、変動金利型住宅ローンは、固定金利型と比べて同じ期間でも利率は低いが短期プライムレートに連動するので、長期的に金利が上昇すれば利払い額が多くなるリスクがある

金利が今後上昇するのか、このままなのかという問題は別として、住宅ローンの返済期間は15年から20年、時には30年とか40年という長期に渡るので、この間に金利がどのように変動するのかは予想できないし、予想してもあまり意味がない。安定的なフローを確保するために、固定金利を選択するのも手段だし、逆に返済原資を確保するために支払い金利を安く押さえるために変動金利を選択するのも手段だ。それは、市場金利の動向も考慮に入れるべきだが、それよりもむしろ将来のフローをどの程度確保できるかを重視した方がいい

問題なのは、固定金利で借り入れる場合には金利がそのままのリスクというのは将来に折込やすいが、変動金利を選択する場合には、リスクを織り込みにくいという点だ。現在の利払いが低額であるから、将来的なリスクが把握しにくい。変動金利で借り入れる場合には、将来的に金利が上昇する可能性を織り込みながら返済計画とフローの確保に努めなければならない

変動金利で借り入れる場合には、そもそも繰り上げ返済を前提とする必要がある。新生銀行のように、繰り上げ返済手数料を無料化している金融機関もあるが、大半の金融機関は繰り上げ返済手数料がかなりするし、繰り上げ返済で短期間にローンを返済したところで、老後のフローを確保するためのアセットが形成されていなければ、安定的なフローが確保できているとは言いがたい。最近では、老後のフロー確保のために、住宅を担保に資金融資を行い、死亡時に担保権を行使することで返済を完了するリバースモーゲージローンを行う金融機関があるが、まだ数が少ない。そもそも、マンションのような物件ではローン返済後に担保価値がかなり下がっているような場合だと、リバースモーゲージは選択肢としては考慮に入れない方が賢明だ

普通に考えても、市場金利が史上最低な現在、中期的に金利が上昇しなくても、10年、20年の周期で考えれば金利は上昇する可能性がかなり高い。変動金利で借り入れるとしても、固定金利と同等か、またはそれ以上の金利で借り入れることを前提に返済計画と、老後のフロー確保のためのアセット形成を考えた方がよいだろう

そこで、変動金利で借り入れるという戦略(別にこの戦略を取れとは言わない。理由は自身のフローをどう確保するかは、市場金利以外にも考慮する必要がたくさんあるからだ)では、将来の金利上昇に備えて、繰り上げ返済原資を、老後(長期)や中期のフローとは別に確保することが絶対不可欠になる。変動金利は金利水準が安いので、金利が安いうちに預金や投資によってある程度アセットを形成し、金利が上昇局面に入れば、アセットを切り崩して、ローン残高を減らして、最終的な返済額を低く押さえる。一方で、こまめに繰り上げ返済するというのは、繰り上げ返済手数料を考慮するとかなり不利になるという点で、繰り上げ返済原資セグメントのためのアセットと、市場金利のバランスを良く考えなければならないだろう

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  • 現状、銀行の住宅ローン金利をみると、変動金利より短期固定金利の方が低くなっております。ここから先はあくまでも個人的な相場観ですが、住宅ローンの借り方としては、短期固定をロールオーバーさせ、金利が上がりそうなときに長期固定化する、というのが理想(本当にそうできるか難しいですが)。私の借り方がこれです。長期で借りるなら金融公庫の「フラット35」でしょう。私がローンを組むときにはなかった。残念です。
    • 短期固定金利型というと、当初固定金利型(5年後の金利上昇型)でしょうか? 確かに初期金利は保証料・手数料込みでも安いので、乗り換えを前提にするなら安いですね

      フラット35はちょっと使いにくい点があります。基本的に公庫認定物件か中古物件でもいくつか基準があり、建売の場合には完工検査が終了しないと融資が執行されません(民間金融機関やローン代理店が独自に中間検査時点で工務店に建築資金を繋ぎ融資するというスキームを提供しているところもあります)

      個人的に興味を持っているのは、銀行が住宅ローンなどリテール基盤を拡大していく上で、資金調達手段をどのように行うのかという点と、金利市場に与える影響です。民間の金融機関でも20年以上の超長期ローンを形成するところが現われていますが、公庫提携のフラット35のような形態ではなく、独自のローン商品を出しているところがいくつかあります

      普通に考えれば、a)超長期の資金調達手段を確保する。b)独自のローンの証券化・流動化を行う。c)クレジット・スワップなどリスクをデリバティブ化する、の三つが考えられます。a)に関しては、新生銀行など従来の債券による資金調達手段から、延長条件付き円定期(5年・延長時には10年)などを提供していますし、社債発行による資金を当てているところもあるかもしれません。b)に関しては、海外市場でSPCを経由して証券化を行っているところがいくつかあると思います。c)に関しては、一部の金融機関が実際に行っています(損失を出しているところもあります)

      a)に関しては、金利の高い長期資金調達はあまり現実的ではないと思うので、b)の証券化かc)のクレジット・デリバティブが一般的になるのではないかと思うのですが、いずれにせよ、不動産ローン市場に短期金利市場で調達された資金が流れるという構図であり、いささか懸念するところがあります。また、米国のMBS/ABS市場のように証券化市場の規模がまだまだ小さいわけで、近頃の住宅ローン貸出競争が行き過ぎにならないかちょっと不安があったりします
      親コメント
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