あるAnonymous Coward 曰く、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究者が、世界最小の光スイッチの作成に成功したと発表した(gizmag、Slashdot)。光スイッチは電気信号を光による信号に変換するためのデバイス。既存のこのようなデバイスは数センチメートル程度のサイズが必要だったが、今回開発された光スイッチは単一の原子を使って光のスイッチングを行う素子であり、従来の物よりも大幅に小さいのが特徴。これにより、デバイスを大量に集積させた場合でもコンパクトな実装が可能になるという。
表面プラズモンですね、わかります (スコア:3, 興味深い)
タレコミのリンク先の記事やチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のプレスリリース [www.ethz.ch]読んでみたけど、どうやら表面プラズモンを利用した光スイッチのようですね。ちょっとおもしろそうだったんで調べてみた。以下は自分の個人的な解釈。
材料 : 光導波路(単なる光の通路。シリコンかな?)、銀板(Ag)、プラチナ板(Pt)
原理 : 表面プラズモン [wikipedia.org]、原子スイッチ [srad.jp]、光の波長
(Wikipediaではプラズモン [wikipedia.org]の説明の方が分かりやすい)
光導入路に光の波長以下の距離でプラチナ板と銀板を設置する。そのときプラチナ板に対して、小さな突起を持たせた銀板をほぼ接するくらいの距離に置く(図参照 [gizmag.com])。この状態では回路が光の波長より狭いため、光そのものは通過できない。
この状態において、金属表面では光によって電子の表面プラズモン(電子の集団励起)が起きる。表面プラズモンを簡単に言うと、当たった光のエネルギーで金属の自由電子が励起される現象。回路には狭すぎて光は通過できないが、表面プラズモンは自由電子なのでそのまま金属を流れて回路を通過できる。この状態から電子が持っているエネルギーが光に戻って回路の先に進む(このへんは浜松ホトニクスのサイトにある説明 [hamamatsu.com]が分かりやすい。ページ下の方の「回折限界を超えて小さい範囲で光を運ぶ」ってあたり)。
で、ここからがこの研究発表のオリジナルポイントでしょう。
まず銀板に電圧をかけると銀原子1個(もうちょっと多いかも)が板の突起部分に移動してプラチナ板と電気的な回路を形成する(原子スイッチ [srad.jp]的なヤツ)。いったん回路が形成すると、光が来て表面プラズモンを起こしても電子はその回路に流れていく(のかな?)ので回路の先には光が通らない(OFF状態)。そして電圧を落とすと回路が開いて表面プラズモンが通ることが可能となり光が先に進むことができる(ON状態)。
(これ、銀原子はプラチナ板には物理的に接触してなく、トンネル効果を利用してるのかな?接触させちゃうとOFF時に銀原子の切り離しが困難だし、繰り返し動作させることも考えるとね)。
ただ論文 [acs.org]の図を見ると、電圧かけると光のアウトプットが増える(ON状態)ってなってるんだよね。これだと説明文で電圧かけると回路ができてOFF状態になるっていうのと逆。どういうことだろ?(論文へのフルページアクセスは40ドルかかるみたいだからここまでかな)
Re:表面プラズモンですね、わかります (スコア:2)
>いったん回路が形成すると、光が来て表面プラズモンを起こしても電子はその回路に流れていく(のかな?)ので回路の先には光が通らない(OFF状態)。
ここが違います.
回路の形成で微妙に共鳴周波数がずれるんで,反射されやすい(透過しにくい)光の波長が変わります.これを使って特定波長の透過率をOn-Offしています.
ですので,切れた状態でちょうど反射されるような波長を選んでおけば,ショートしてつながった瞬間に共鳴周波数がずれ,今度は透過しやすくなる,という感じで.
#当然,ショートの時だけ透過しにくい波長を選んで逆方向のスイッチングもできる.
実験としては1550 nm前後の光を使っていて(というか作った素子の共鳴がちょうどそのぐらいで),On-Offで透過しにくくなる波長が10 nm程度ずれてます.
作った素子は室温で動作して,bitの切り替えに要するエネルギーは12.5 fJ,動作速度としては作った素子だと1 MHzぐらいまでならきれいにスイッチングできるよと.
Re:表面プラズモンですね、わかります (スコア:1)
なるほど。電圧をかけて回路の構造を変える(銀原子の移動)ことにより共鳴周波数が変化して、表面プラズモンの発生を制御する。それを利用してスイッチングするということですか。
どうもプレスリリース文はそのへんは省いて(わかりやすく)書かれていたみたいですね。
# 金属ナノ構造体の表面プラズモン制御あたりが関連してそうなので、いろいろ調べてみます。
チューリヒ工科大学の名前が (スコア:0)
懐かしい。
学生の頃に勉強したPascalの生みの親、ニクラウス・ヴィルト先生の学校ですね(すでに退職されてますが)。
光のスイッチングを行う素子 (スコア:0)
> 光のスイッチングを行う素子
昔学校にすごくかわいい 素子 と書いて もとこ という女子がおった。
その子がスイッチングしている姿を脳裏に浮かべた。
Re:光のスイッチングを行う素子 (スコア:3)
Re: (スコア:0)
新井素子「ジョセフソンという名前の人とは結婚したくない」
Re: (スコア:0)
素子といったら新井の人と、素子といったら阿素湖の人がいて、
大林ってのはちょっと後だしアレゲでもない。
Re: (スコア:0)
草薙も忘れずに。
(ふつう電脳とか言ってるが、実は光脳、光コンピューターだったんだ!)
Re: (スコア:0)
単一原子サイズにもまけてしまうとはなさけない
光コンピューティングや光プロセッサ (スコア:0)
などの研究分野はすっかり廃れてしまったな。
Re: (スコア:0)
光インターコネクトはまだつづいてるんかな
Re: (スコア:0)
光インターコネクトはIntelなどがまだ研究している。
光回路は集積度で原理的にCMOSに追いつけない(と、今現在の技術では考えられている)ので、
大規模プロセッサが光回路で作られるような時代は来ないだろう。
シンプルだけど高速に動作して欲しい回路とか、部品間の高速信号接続に光が用いられる
ようになる可能性はある。