炭素のシート「グラフェン」は、万能の電子材料になれる? 19
タレコミ by ozuma
ozuma 曰く、
EulekAlert!の記事(Bilayer graphene gets a bandgap)によると、ローレンス・バークレー国立研究所のFeng Wangらは、グラフェン(graphene)のバンドギャップを電界により0meV(ミリ電子ボルト)から250meVまで自由に制御することに成功した。また同時に、フェルミ準位も自由に制御できることを確認したという。
グラフェンとは炭素原子が2次元に整列したシート形状をした物質で、鉛筆の芯などの炭素(グラファイト)もこれが重なり合ってできている。「鉛筆の芯をセロテープで何度もくっつけたり剥がしたりする」という実にローテクな手法で得られるが、電子の移動度が非常に高いなどその物理的性質は大変に興味深く、ここ数年多くの注目を集めている材料である。
今までグラフェンは、電子が高移動度という特質からFET(電界効果トランジスタ)への応用が期待されていたが、バンドギャップがゼロであったため「ONには出来るがOFFにできない」という問題があった。今回Wangらは、単層ではなく2層のグラフェンに電極を付けて電界を加え、光学測定などを行うことによりこの2層グラフェンのバンドギャップとフェルミ準位が変化することを確認したという。
バンドギャップとフェルミ準位とは物質の電気的・光学的性質を決定する非常に重要なパラメータであり、この値を制御することができれば、例えば同じ物質を導体・半導体と自由にその性質を変化させたり、発光時の光の波長(発光色)を変化させたりすることができる。
現在の技術でも半導体へのドーパントの量を調節することなどにより物質のバンドギャップを変えることはできるが、これはあくまでデバイス作製時の話である。今回の発見はグラフェンに電界を加えることでバンドギャップを変化させることができるということであり、その場で自由にパラメータ値を決定できるという、限りない応用例をもたらしてくれる画期的な発見である。
別の記事(Tunable semiconductors possible with hot new material called graphene)によると、その応用例として仮想回路の生成が例に挙げられており興味深い。このアイディアは、たくさんのグラフェンのユニットを用意しこれを並べれば、その一つ一つに電界を加える/加えないを設定することより、それぞれのユニットが金属のように振る舞うか半導体的に振る舞うかを決定できる。すなわち集積回路を後から自由にデザインできるわけであり、回路設計に大きな柔軟性を与えてくれるものであろう。
なお、今回の研究の内容は、6/11発行の雑誌「Nature」に掲載されている(Direct observation of a widely tunable bandgap in bilayer graphene。
せめて元論文を (スコア:1, 既出)
こういう場合は出来るだけ元論文へのreferenceも付けていただきたいところ.
Nature, 459 (2009) 820-823 [doi.org]
日本語要約 [nature.com]
……ボケてました (スコア:1)
今よく見たら最後にちゃんと元論文へのリンクが……
すいません,見落としてました.
それ「バンドギャップ」? (スコア:1)
FETのように見えて仕方がないんだけど。
違うよ!全然違うよ! (スコア:4, 参考になる)
いやまあ,FET(のようなもの)であることには違いはないのですが.
通常のFETは,電場を加えて,対象物中でのフェルミエネルギーを上げ下げします.
例えばサンプル全体の電位を電場によって上げてやれば,電子にとってのポテンシャルは下がるわけですから電子が寄ってきます.これは(バンド構造が変形するほどの何かをしなければ)物質中のフェルミエネルギーが上がったことに相当します(バンド構造はそのまま,バンドの上の方まで電子が詰まる).
逆にサンプルの電位を下げれば,電子が逃げますので物質中のフェルミエネルギーが下がったことに相当します.
これが通常のFETですね.
グラフェンは単層ではそのバンド構造はいわゆるゼロギャップ半導体で,フェルミエネルギーに向かって上下から状態密度が減っていき,ちょうどフェルミエネルギーのところで状態密度がゼロになります.
縦軸を状態密度,横軸をエネルギーにすると \/ という感じのV字で,真ん中の接している部分にフェルミ準位が来ます.
これを単層のままFETにすると,(理想的には)ゲート電位を正に振っても負に振っても伝導性は上がります.フェルミ準位から上がっても下がっても状態密度が増える為です.
さて,このグラフェンを二層重ねると,層間での軌道の重なりが生じますので,バンドの形が少し変形します.これはいわば二枚の層間で結合を生じ,エネルギー準位が高いものと低いものにスプリットするようなものです.
#水素原子2個から水素分子になると,元よりエネルギーの低い結合性軌道と,高い反結合性軌道を生じるのと同じ.
このとき,層に垂直な方向での反転対称性が破れている方が軌道の重なりが起きやすくなるため,何らかの方法で二層の上下が異なる状況にした方が結合が強い=エネルギーのスプリット(つまりバンドギャップ)が大きくなります.
#と言うこと自体は以前から指摘されている.正確な議論は論文のreferenceを参照のこと.
そこで今回のサンドイッチFET構造の出番です.
例えば上面に+V,下面に+Vをかけると,単純にサンプルの電位(フェルミエネルギー)を変化させるFET構造になります.
逆に上面に+V,下面に-Vをかけると,サンプルの位置では電位は0ですから,FET的には電圧を印加していないのと同じ,なんの変化もない状況になります.ところがこの場合は,面から上に行く方向(電位が上がる)と,下に行く方向(電位が下がる)で対称性が大きく破れていますから,前述の二層間での軌道の混成が大きくなり,バンドギャップは拡大します.
つまり今回のサンドイッチFET構造を使うことで,(著者が書いているように)フェルミエネルギーと,バンドギャップの大きさを独立に制御できることとなります.つまり,上下のゲート電圧差V1-V2でバンドギャップを規定し,(V1-V2)を保ったまま(V1+V2)を変化させることでそのバンドギャップを持つ物質に対しての通常のFETとして測定を行えるわけです.
Re:それ「バンドギャップ」? (スコア:1, 荒らし)
コラプシウム [nayutaya.jp]にでてきたウェルストーンみたくできるのかなー。とか夢だけは持ちたい。
> FET
FETの仕組みしらんので、外してるかもですが、
電圧をかけて「(薄膜間の?)バンドギャップのデフォルト値」みたいなのを変化できるってことかなと自分は理解しました。
当座ではFPGAの強化版みたいなのが作れるかもしれないかな?
# 最初から全セット作って切る、ではなく、最小単位を好きな回路要素にできるとか
あんまわかってないけどID
M-FalconSky (暑いか寒い)
Re:それ「バンドギャップ」? (スコア:1)
リンク先の右上に図があるね。
どうやらホントにS-D間に二層グラフェン使ってる以外は普通のFETみたい。
# しかし、単層でOFFしないというのが謎だ。基板に漏電してるとか(ぉ
Re:それ「バンドギャップ」? (スコア:3, 参考になる)
>単層でOFFしないというのが謎だ。
通常のMOS FETなどでOFFに出来るのは,導電体にバンドギャップが存在し,フェルミエネルギーがその位置に来たときに電流を流せなくなるためですが,グラフェンの場合は元々バンドギャップが存在しないのでどの位置にフェルミエネルギーがあってもほどほどに電流が流れます(ゼロギャップ半導体なんで,厳密に言えばちょうど良い位置に合わせれば状態密度のかなり低いところにフェルミエネルギーを持って行ってある程度高抵抗には出来ますが).
通常の金属でFET構造を作っても常に流れっぱなしになるのと同じようなものです.
#ゼロギャップ半導体なんで前述のようにかなり流れにくいエネルギーには持って行けますが.
温度 (スコア:1)
※今回のはまだ読んでないのですが・・・m(__)m
いや、サンエス的には「今までできなかったことができた」事に大きな意味があることは重々承知してますが、
エンジニアリングな世界にいるとまだ先の話かなぁなんて思っちゃいます。同時に自分の無力さもちょっとw
Re:温度 (スコア:2, 参考になる)
今回の実験はすべて室温で行ったそうです.
最近の論文を見る限りでは,狙った位置に蒸着でグラフェン(と言うかグラフェンが1-数層重なったものというか)を作ることは出来るようになりつつあるそうです.
ただ,きっちり2層だけ作るのは難しいから,今回のが即何かのデバイスに繋がるわけではありませんが.
Re:温度 (スコア:1)
それを言ったら, グラフェン自体工業的に量産できるわけじゃないですし. まさか女工さんが黒鉛にセロテープをぺたぺた貼り付けて作るってのもないでしょうし.
Re:温度 (スコア:1, おもしろおかしい)
と、こうしてグラドルが誕生するわけですね。
Re:温度 (スコア:1)
この場合はグラドルというより「二次元たん」の方が.
Re:温度 (スコア:1)
カーボンナノチューブはタルドルですね、わかります。
Re: (スコア:0)
グラフェン生産工場での現実 (スコア:0)
二層グラフェン職人の朝は早い (スコア:0)
その日の作業に使うセロテープを吟味する作業が日の出前から始まる。
「長年の経験とでも言うんでしょうかね。日が昇る直前に調子のいいセロテープを使うと、その日は安定した歩留まりが得られるんです。ここで手を抜くと一日が台無しになるから、気が抜けない作業ですね」
この職業は新人の入れ替わりが激しい。
この仕事に就いて三十年のベテランは「最近の若者は我慢が足りない」と語る。
Re: (スコア:0)
ってことは、今のうちに、
「鉛筆の芯をセロテープで何度もくっつけたり剥がしたりする機械」
を開発しておけば大もうけ。ってことですね。
# 日本の中小の工場(kouba)はこういうの得意そうだけどな。
# その前に何度も使えるセロテープを開発する方が先か?
アップデートしますた (スコア:0)
おや?CPUの様子が?...
(鬼が笑うが)業界勢力図 (スコア:0)
>その場で自由にパラメータ値を決定
こうしてハードウェアはめでたくソフトウェアとなったのでした。
CPUだって動的な組み換えが可能になるわけだから。
Intel涙目…
いや待てよ、良質なグラフェンデバイス(メタデバイスというべきか)を量産する技術をIntelが押さえれば、Intelの天下は続くかもな。
あるいは「ソフトはお手の物、ハードも部分的に妙においしいのを出す」Microsoftあたりが、覇権を握るかも知れないなあ。
もちろん我らがLinusも黙ってはいない。オープンソースのデバイス設計「リナフェン」で討って出る。