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cooperの日記: 健全な肉体に狂気は宿る

日記 by cooper

読了。副題は「生きづらさの正体」。

様々に変化する現代の生き方について、神戸女学院大学教授の内田 樹(たつる)と、精神科医の春日 武彦が対談した内容をまとめたもの。

とにもかくにも内田のリアルタイム言語化能力が凄まじい。それで「おお、こりゃすごいな」と最初は思うのだが、半分あたりまで読み進めるとその饒舌さが鼻につき、春日のじっとりとした「陰」の部分をもっと知りたくなってくる。だが結局最後まで内田は走り続け、春日はもっぱら「受け & 斜め突っ込み」というような役回りで終わってしまった。

例えば途中春日が、患者に掃除をするように勧めると結構効果があるという話をする。そこで読者としては、規則正しい生活とか、小さな「成功体験」の積み重ねがもたらす効果について語りたいんだろうな、というのがピンとくる。ところが内田は、掃除というプロセスから一気に離れ、暖かい、寒い、明るい、暗いといった環境が人に与える生理的な影響について語り出してしまう。

内田の話が一段落したあと、春日が再度「部屋の片付き度と頭の整理度はパラレルだっていう印象を強く持ちますねぇ(笑)」と軌道修正を試みるが、内田はさらりと流し、大きな窓から海が見える部屋がもたらす開放的な心理効果などに話を展開させてしまう。どこまでも噛み合わない。ずれまくりである。

ここに至り春日はついにあきらめ、内田の話に乗ることを選ぶ。しかし、巨大な窓があって開放的な部屋にこだわりがある内田に対し、「実は、部屋は暗いのが好きなんです(笑)」と返す下りには、率直さと同時に内田の単純な健康志向に対するささやかな抵抗も感じられる。こういった場面は他にもいくつかあり、その度に内田は「あれれ」という感じになるのだが、適当なタイミングで話の流れに補正をかける春日のバランス感覚は、読んでいて心地が良かった。

また、巻末に春日が書いた「握り拳の盆景と精神寄生体」という文章では、対談中は見えづらかった彼独特の「陰のある」精神世界を垣間見ることができる。小学一年生の頃、授業中に両手の握り拳で作った盆景に耽るエピソードなどはとても味わい深い印象で、この人もまた、内田とは違った意味で、凄まじい言語化能力の持ち主であることが良くわかる。

春日 武彦。ちゃんと覚えておこう。

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計算機科学者とは、壊れていないものを修理する人々のことである

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