hypernoteの日記: ばれてるし
さーて,どしよ…
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さーて,どしよ…
ってメールしとこっと…
そして,何故か皆の視線がこちらのほうへきた.あんたも何か弾いて笑わせるか何かしろという暗黙の要求である.当時まともに弾けたのは「ねこふんじゃった」だけなのに,それはすでに誰かが演奏済み.…少々の硬直の後に,仕方ないので幻想即興曲の右手パート数小節をいい加減に弾いてみせた.予想通り,誰も知らない曲だったので周囲は微妙な反応.ところが,これに唯一敏感に反応したのが音楽教師だった.やにわに近づいてきて「それ弾けるの?」とか聞かれた.あわてて「いえ,全然…」と答えると,教師は「この曲好きなのよね~」といいながらピアノに向かった.そして,いきなりどど~っと怒涛のように,しかも軽々と幻想即興曲を弾いてみせるじゃないの!
この,初めて幻想即興曲の演奏を(しかも生で)聴いた衝撃は計り知れない.多分,そのときこの人のごとく人生が135度くらいは曲がったような気がする.あの一見メチャクチャな楽譜からこれだけ豪快な,音楽性の高い曲が生み出されるとは,目から鱗が落ちる,いや耳からバナナが抜ける思いだった.そしてこの時,ピアノが弾ける=幻想即興曲が弾ける,という定義が心に刻まれてしまったのである(多分).
ちなみに,ピアノに最初に触れたのは多分4歳くらいの時だったと思う.隣家のおねーちゃん(当時中学生くらい?)が弾いてみせた「ねこふんじゃった」を見よう見真似で弾いたのが最初のような気がする.でも,その頃はピアノには特に興味はなかった.反対側の隣家の友達もピアノを習っていて,レッスンの日にピアノの先生の家までよくついて行った覚えもある.でも,この友達を見があんまり楽しそうに習ってなくて,ピアノのおけいこ=しんどい,という印象が刷り込まれてしまった.
そのせいもあってか,それから8年間はピアノに近づくことはなかった.ところが,あるとき偶然にショパンの「幻想即興曲」の楽譜を目にすることがあった.この曲は楽譜を見るとわかるように,右手は一見メチャクチャな16分音符の羅列,左手と右手のリズムはあってない,テンポは超高速,とまあ見た目に激しい曲だったりする.当時はピアノ曲や作曲者の知識はカケラもなく,この激しい譜面だけみて勝手に「これは前衛的音楽で演奏技術至上主義の曲に違いない」とか決め付けてしまった.
その直後くらいに,どういく風の吹き回しか家に電子ピアノ(と呼べるほどのものでもないけど鍵盤楽器)が導入されることになった.導入当初ははさして興味はなかったんだけど,ふと思い出したのが幻想即興曲の譜面.あのメチャクチャに見える譜面からどんな音楽が出てくるのかと,にわかに興味が沸き起こった.それで,楽譜を借りてきて最初の数小節だけ,おぼつかない右手でトレースしてみたりしていた.
いろいろ読んでいて,やっぱり初見演奏が不得意なのは問題だろうということで,真面目に練習してみることにした.初見演奏のテキストを探しに行ってみたが,新規楽器店1には置いてなかった.まあ,自分の技量--くらいの曲が沢山入ってて,安い楽譜ならなんでもいいかなと思って検索すること30分.選んだのは,あろうことかツェルニー先生の100番だったり.ポイントは 1) 簡単(バイエル後半並),2) 曲が短い(16小節程度) 3) 曲数が多い (100曲),4) 曲を全く知らない,5) 曲単価が安い(1曲あたり7.5円),というところ.どう見ても初見演奏練習に最適だ.でも,まさかこんなところに落ち着くとは…
そして練習メニューに初見演奏が加わり,ハーフコース1時間,フルコース2時間の練習メニューが完成した.現在のメニューはこんなかんじ(★はハーフコース).
いつのまにか結構増えてるな~.
閑話休題、新幹線の中で譜読みしたりして、どうにか悲愴ソナタの第一楽章をすべて暗譜することに成功したらしい。何度か読み直してみると、間違えて覚えている場所が何箇所かあった。多分もう間違いはないと思うんだけど…。それにしても読みきるまでに2週間もかかってしまうとは。途中、暇になって月光ソナタの第一楽章を適当に弾いてたら、こちらも指が全部思い出してくれたらしい。ついでに悲愴の第二楽章もつらつら眺めて2/3ほど暗譜。
一通り暗譜が終わったので、弾けないところのピンポイント練習に移行した。譜読み過程では弾けなかった場所がいくつかある。修行不足で、ピアノのブラインドタッチが中途半端にしかできないため、右手と左手が同時に跳躍するところなんかがかなり苦手だったりする。
ピアノのブラインドタッチは、キーボートとちがってホームポジションのようなものが無い分かなり難しい。1オクターブ以上跳躍するのなんて、どうやって身に付くのだろうかと思ったりする。でも、できる人にとっては造作も無いことらしい。下手に暗譜力が高いせいで、音符を全部覚えてしまってから練習する傾向があって、そのせいで初見能力が高まらないのかもしれない、もうちょっと初見演奏やブラインドタッチの訓練をすべきなのかもなあ。
親指は他の4本の指に比べると,かなり運動の自由度が高い.一見太くて短いので不器用に見えるが,実は最も器用な指だろう.なんといっても,移動できる範囲がどの指よりも広い.そして,親指はその自由度の高さゆえに,ピアノ演奏ではどうしても酷使されてしまう.親指に要求される技術は多い.
例えば,前述の親指を人差し指の下にくぐらせる話は,親指の使い方の基本だ.でも,くぐらせる相手は中指,薬指,小指とたくさんいる.そして,その辛さは親指からの距離の二乗に比例する(ような気がする…).h キーを親指で押しっぱなしにした状態で,j, g を人差し指で押すのはまあできる.しかし,これを中指,薬指,小指と変更していくと,どんどん辛くなる.しかも,利き手と反対の手でやると異常に辛い(辛くなければ即ピアノを始めるしか!).
ハノンの練習曲では 32番で人差し指,33番で中指,34番で薬指,35番で小指が,それぞれ親指を超えさせる練習をするようになっている.34番なんかは,楽譜を見ると「ドレミファソファミレド」と弾くだけの,馬鹿のように単純な旋律だ.しかし,ドレミファまでは親指から薬指まで使って順番に弾いて行き,ソを親指で弾いて,ファミレドとまた薬指から親指まで使って順に弾く.これを音が途切れさせることなく高速に弾け!といわれると,指がパニックに陥る.35番の小指超えに到っては,まさに地獄.といっても,実際に曲を演奏するときに小指超えを要求されることはまずないけど.
そして37番は,(右手の)人差し指でレ,中指でファ,小指でラを押しっぱなしにした状態で,親指でド,ミ,ソをひたすら弾くという拷問曲になっている.この曲は,最初に見たときさすがに目が点になった.まったく,親指もご苦労なことである.
ピアノを習った人間なら誰でも知っている,ハノンという作曲家が作った「ピアノの名手になる60練習曲」という作品がある.この曲集が練習曲として優れているかはともかく,少なくとも自分の苦手な運指技術を発見する目的には使える曲集だと思う.
この曲集,31曲目までは指がそれぞれ独立して動くようにする,機械的な訓練のような曲が並んでいる.指の使い方にも無理がなく,覚えるべき旋律も限りなく単純で短い(21番以降,少々長くはなる).初心者でも,技巧的にはさほど苦もなく弾けるような設計になっている.まあ,旋律が単純すぎて苦痛という話はあるんだけど.
一方,32曲目からは一転して無理な指使いが要求される曲に突入する.練習曲32番の冒頭には,ドレドシという旋律をひたすら繰り返して慣れろ!とか書いてある.しかもドを親指で弾き,レとシは人差し指で弾けと来たもんだ.もちろん,両手とも.PCのキーボード的に言えば,hjhg の順にキーを押すときに,h だけ親指で押して j, g を人差し指で押すという感じ.g を押すときに人差し指が親指の上を越えていくんだけど,慣れていないとこれがなかなか難しい.親指が硬いと,人差し指がうまく上を越えてくれないのよね.
ピアノの悩みを解決する本という本がある.これは月刊 Pianoという雑誌で連載されている Q and A コーナーを,単行本としてまとめたものだ.少し答え方に癖があるような気もするが,他にあまり類を見ない本であり結構面白い.
この質問の中に「薬指が他の指と一緒に動いてしまう」という項目がある.薬指という指はかなり難儀な指で,実は小指よりも自由が利かなかったりする.手のひらを机の上にぴったりくっつけて置き,手のひらや他の指が机から離れないようにして指を一本ずつ上にあげて見る.そうすると,恐らくは薬指が一番持ち上がらないだろう.人によっては小指と薬指が同程度に不自由だったり,薬指を全く持ち上げられないかもしれない.
普段ほとんど使わないが故に気にならない薬指の不器用さが,ピアノを弾きはじめると突然絶望的に思えてくる.もちろん,曲によっては薬指なしでも弾けるものも多い.だけど,クラシックのピアノ曲を弾こうとすると,いやおうなく薬指も駆使させられてしまう.だから,どうしても薬指も鍛えないといけない.でも元来不器用なこの指は,鍛えること自体が難しいから困ったものだ.シューマンという作曲家はこの指を鍛えようとして失敗し,結果的に指を痛めてピアニストになることを諦めたという話があるくらいだ.
初めてピアノを弾こうとするとき,何が一番難しいと感じたかといえば,やはり「右手と左手を別々に使うこと」だった.でも,それ以上に本当に難しいのは「同じ手についてる指をばらばらに使うこと」だったりする.
PCのキーボードに向かって,スペースキー(親指)と i (中指)のキーを交互にできるだけ高速に打て!といわれれば,ある程度PCを使ってる人間ならそれなりの速度で打てる.同じ要領で,j (人差し指)と右のシフトキー(小指)を交互に打て,という課題もクリアできる.ところが,スペースと j を同時に打ち,次に i と右シフトキーを同時に打つ,という操作を続けて高速に実行しろ!といわれると,いきなり指が言うことを聞いてくれない.もしこれが苦もなく高速にできるなら,すぐピアニストに転職するしか!
2本の指を交互に動かす,という動作は日常生活でもある程度行われているのだろう.しかし,4本の指を2本ずつ交互に動かす,という動作は非日常的であるらしい.ピアノ曲を演奏する上では,こうした非日常的な指の運動が平然と要求される.これがピアノを演奏する上での,難しさの一因となっている.
運指の技術のみを突き詰めていくと,技術的に理想的なピアニストとは「10本の指すべてが,他の指の運動と全く関係なく独立に,任意の鍵盤を,任意の強さ,速度,間隔,長さで押せる」ことができる物体と定義できそうだ.無論,音楽では演奏に「感性」なるものが求められる.だから,こういう仕様を満たすロボットを作り上げたからといって,それが「音楽を演奏する」理想的なピアニストであると言えるわけでもない.
ただ,アシュケナージ大先生やポリーニ大先生クラスだと,この仕様を満たしている気はするのよね…
弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家