hypernoteの日記: ♭♭♪
日記 by
hypernote
あるとき,たまたま学校の音楽室を掃除する当番になった.そのときは掃除が少し早めに終わり,音楽室のグランドピアノのあたりで雑談していたと思う.友達連中が冗談で正露丸のテーマ曲やらラーメン屋のチャルメラやらを人差し指1本で弾いて周囲を笑わせていた.小学生の頃にピアノを習っていたという男の子が来てエリーゼのためにの冒頭をちょろちょろっと弾いてみせたりもした.男子生徒がピアノを弾くこと自体珍しかったのと,マトモな曲を弾いたのが彼だけだったので拍手喝采である.
そして,何故か皆の視線がこちらのほうへきた.あんたも何か弾いて笑わせるか何かしろという暗黙の要求である.当時まともに弾けたのは「ねこふんじゃった」だけなのに,それはすでに誰かが演奏済み.…少々の硬直の後に,仕方ないので幻想即興曲の右手パート数小節をいい加減に弾いてみせた.予想通り,誰も知らない曲だったので周囲は微妙な反応.ところが,これに唯一敏感に反応したのが音楽教師だった.やにわに近づいてきて「それ弾けるの?」とか聞かれた.あわてて「いえ,全然…」と答えると,教師は「この曲好きなのよね~」といいながらピアノに向かった.そして,いきなりどど~っと怒涛のように,しかも軽々と幻想即興曲を弾いてみせるじゃないの!
この,初めて幻想即興曲の演奏を(しかも生で)聴いた衝撃は計り知れない.多分,そのときこの人のごとく人生が135度くらいは曲がったような気がする.あの一見メチャクチャな楽譜からこれだけ豪快な,音楽性の高い曲が生み出されるとは,目から鱗が落ちる,いや耳からバナナが抜ける思いだった.そしてこの時,ピアノが弾ける=幻想即興曲が弾ける,という定義が心に刻まれてしまったのである(多分).
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