quabbinの日記: ソフトウェア系中小企業の労働集約性
確かに長期的視野に立つと、技術力をつけるのが良い方向だろう。
しかし、現実はもっと斜め上な方向に向かっているため、主にリスクについて話を展開しないと話がかみ合わず、現実を見ない画餅と評されてしまうのではなかろうか。
人づてに聞いた話であるが、某IT系企業にはガラス張りの部屋があるそうだ。広さは8畳くらいだろうか…防音室でホワイトボードがあり、6人分の椅子とPC、十分なスペースの机に「入門」系の技術書とベンダー試験用の参考書が数十冊おいてある部屋だ。
ただこの部屋、奇妙な事にホボ毎週人が入れ替わるという。その部屋は主に、現在案件が無く、近い将来は外に出される予定の方たちが利用する部屋のためだ。心無い人はソコを屠○場(放送禁止用語なので自粛)と呼ぶが、勿論、中で座っている人たちは知らないであろうという。その中に居るのは「パートナー」と呼ばれている企業の人が多いが、「プロパー」と呼ばれる自社の契約社員や正社員も多数含まれている。
上記記事を見たとき、この話が頭をよぎり
現実はシステム開発とは言っているが、そのなりわいは時間による技術者派遣業
という一節に、大いにうなづいてしまった。
記事は更に続けている。
そのためには、まず自社の得意領域を明確にすること。ターゲットとする市場規模を調べ、そこに投入する商品が必要になるのは当然だが、それを答えられなければ、技術者の派遣業ということになる。
答えられるIT系企業はどれほどあろうか。
ただ、この記事に違和感も感じた。その違和感を語るには、上とは別の企業のこれまた伝聞の話をしなければならない。
その会社は、ソフトウェアの受託開発と業務用のパッケージソフト販売が本業であるとして人材募集をしているという、従業員100名前後の中小企業である。この会社の従業員のほとんどは、ソフトウェアの製造を請け負ったという名目で出向させられているという。
問題は、その出向させるときに出向先企業にする契約外のお願いである。経営側が頼んでいるというそのお願いは、出向先企業に出向させた技術者はなるべく別々になるようにして欲しいというものだ。
そもそも、出向先で何をやるか決まっていないが如きお願いはおかしいのであるが、これは業界内でよくある話であるので無視するとして、それでもまだチームで事にあたらせようとする。それがノウハウとなり、会社の強みとなる…のが常識だと思われているからだ。
ではなぜそういうことをするかというと、「労働組合を作られ、団体交渉をされるのが嫌」という。それは「雇用リスクとなり、会社が経営できず、従業員が苦しむのはかわいそう」だからだというのだ。そのような戦略からか、その会社では自社の事務所に居る技術者は、全体の1割を切るのだそうだ。そして、出向先企業との契約はどうなっているかというと、受託開発と言いつつ、一ヶ月いくらになっており、プロジェクトが終わっても自社に戻る事はないと聞く。
こうなると、ソフトウェア製造という「物づくりをしている企業である」という前提が崩れ、同時に労働集約型産業として見ていた前提も大分崩れるのではないだろうか。
確かに物づくりを中心に据えた企業が集積している業界であるならば、同じ労働集約型でも知識集約型の企業に変貌を遂げて付加価値を高め、成長の源泉とすべきという話は成り立つだろう。
しかしそのソフトウェアの受託開発をしているという中小企業の中でも、特に元記事内の批判が通用するような企業は、技術者を時間貸しするというリスクの低い方法で儲ける体制が整っていることだろう。技術者の賃金は物件費であるかのように捉える事が可能な状態にあると考えられ、経営のノウハウは資本効率性に関するものばかりになっているのではなかろうか。
当然そうなると、物作りを中心とした企業に必要な、在庫管理や営業方法、知識蓄積方法、生産法、投資手法に撤退手法といったノウハウ群が手元に存在しないという事になり、「そんなリスクの高い行為はできない」と突っぱねられるだけだろう。
それら経営者の視線は、地平線より下の低い場所に向いているのはわかるのだが、もしソフトウェア製造系の中小企業を喝破しようと思うのであらば、なぜリスクをとる必要があるか、納得させられるだけの論理の展開が必要ではなかろうか。
4/2 23:20 追記
主張が分かりにくかったので、少し編集しました。
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