phasonの日記: 金属性超軽量素材
"Ultralight Metallic Microlattices"
T.A. Schaedler et al., Science, 334, 962-965 (2011).
超軽量素材,つまりエアロゲルのようにその大部分が空隙で構成される固体は,熱絶縁体や触媒担体などとして利用されている.こういった材料は通常微細なナノ粒子が集合し,それがさらに鎖状(というか網状)に連なることで大きな空間を多数持つ固体としての形状を保っている.今回報告されているのは,こういったランダムにできあがる物体ではなく,非常に規則的な構造を制御して作成することの出来る金属性の超軽量材である.
まずは,どんな物体かというのを見ていただこう.Supporting Online Materialとして上から押して圧縮した際の様子がムービーとして公開されているので見ていただきたい.全体構造は,中空の金属性のパイプ(というか微少なストローというか)が3次元的に連結した構造となっている.適当な3軸方向に走る無数の棒,例えばx軸,y軸,z軸に平行に走る棒からなる格子を考えて,その交点で棒同士が融合している構造を考えていただき,その棒の中身を全部中空にしたもの,と思えばよい.パイプが太めのジャングルジムでも可.
この構造をどうやって作るかというと,紫外線硬化樹脂を容器に入れておき,細い紫外線の光線を異なる方向から何本も入射する.その後硬化していない樹脂を除けば,光線の軌跡にあたる部分のみが棒状に(今回の場合は何本も,複数の方向から入射しているので格子状に)残る.このできあがった格子の表面に金属を無電解メッキで析出させ,その後樹脂のみを化学的に溶かし出せば中空の金属棒からなる格子のできあがりである.
棒の太さ,棒の成す格子のサイズ(=棒と棒との距離),格子の成す角度は全て入射する紫外光を調整することによって変更可能である.また金属層の厚さは無電解メッキ時の条件でコントロールできる.典型的には,金属層の厚みが数百nm,パイプの太さが数百μm,格子間隔がmmのオーダーで作成しているようだ.今回の実験はNiに7wt%のPを混ぜたものが用いられている.
できあがった物体の"密度"は(格子サイズや厚みなどに依存するが)おおよそ1mg/1cm3.つまり1Lのサイズでも1gと1円玉と同じ重さにしかならない.超軽量素材の代表格であるエアロゲルと比べてもさらに軽い.ただし,同じ程度の密度領域で作成したものを比べると,シリカエアロゲル系の方が強度は高いようだ(多分).その一方で,本構造体は金属由来である事からかなりの塑性変形が可能であり,前述のムービーにあるように半分程度の体積にまで圧縮してもほぼ元通りに戻る(若干の強度低下はある).まあ,非シリカのエアロゲルなどでは同様に柔軟性の高いものも存在しているが(ただし密度はもっと高くなる).
本構造体の最大の特徴はそのコントロール性であろう.1次構造のサイズや格子長,素材などを制作者が自由にコントロールすることが可能であり,目的に応じた特性の制御性は非常に高い.また既存の超軽量素材がその微視的構造がランダムであるのに対し,こちらは完全にコントロールされた規則的な構造からなるなど,均一な特性を要求される用途(例えば何らかの計測用途であるとか,電気化学的な用途であるとか)には良いかも知れない.
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