El-ahrairahの日記: 順列都市 3
「しあわせの理由」でグレッグ・イーガンを知ったとき、並々ならぬ発想力と洞察力を持った作家であると思いましたが、本作にはただ驚嘆させられました。(以降ネタばれ)
心配事があったり気分が落ち込んでいるときでも日々の営みや目の前の仕事に集中せねばならないとき、我々はひとつのことにこだわり続けようとする思考を停止したり、精神状態を「自信と楽観」にスイッチしたりできることを願う。
それがいつでも自由自在にできるようになったらどうだろう。感情をコントロールできたら、すなわち好みの「気分」をいつでもロードできたら? もちろん酒や薬物のように副作用を伴わずに。
「良識ある」人々からは、そんなものは人間ではない、という声が聞こえてきそうだが、本作は、精神活動をシミュレートするコンピュータを人間と全く区別できなかったという実験事実は確立しているが、有限の計算能力ゆえに、コンピュータに移植された人間(コピー)は粗悪な仮想環境でしか生きられないという(近)未来を舞台としている。
作者の発想の基礎となっている技術は現代においてすでに実現しつつある。脳の情報を人為的にアウトプットすることも、逆に外部からコントロールすることも一部可能になっている。
人間の脳の活動をスキャンすることにより「コピー」を作成し、何重にもバックアップをとっておけば事実上の「不死」が得られる。ただしそれを走らせるハードウェアが未来永劫存在するという保証はない。
また、「コピー」は脳の高次機能を言わば現象論的にモデル化した「パッチワーク」であり、細胞やさらには原子のレベルからモデル化されたものではない。そんなモデルを走らせることは不可能だからだ。そのために「本物の」生物が持つ多様性や可能性を欠いているのかもしれない、という話も面白い。
しかしなにより驚かされるのは、「自律的な思考」はそれ自体で「存在」できるのでは、という発想だ。
「自律的な思考」はそれ自体で「存在」できる (スコア:2)
Re:「自律的な思考」はそれ自体で「存在」できる (スコア:1)
哲学書はまず用語が難しいですからねぇ。 表象とか悟性とか..
Be generous with your life.
Re:「自律的な思考」はそれ自体で「存在」できる (スコア:2)